2024年度からの新専門医制度研修を受ける専攻医、募集遅らせるわけにいかず「現行シーリングを維持」したい―専門医機構
2023.6.20.(火)
2024年度から「新専門医資格の取得を目指す研修」を行う専攻医については、募集を遅らせることは好ましくないため「現在のシーリング制度を維持」したい—。
他方、「現在のシーリング制度の効果」について分析すると、▼全国で人口当たりの専攻医数は増加傾向にある▼東京集中は緩和傾向にある▼診療科別にみると「総合診療」「救急科」では増加しているが、「内科」「外科」では苦戦している▼特別連携プログラムには一定の効果があるが、「都道府県単位」の仕組みとすればさらに効果が上がると考えられる—ことなどが分かってきており、さらに詳しい分析を行う—。
もっとも、個人的には医師偏在の解消には「新専門医制度のシーリング」よりも「地域枠」などのほうが効果が大きいと考えている—。
日本専門医機構の渡辺毅理事長(地域医療振興協会東京北医療センター顧問、福島県立医科大学名誉教授)が6月19日に定例記者会見に臨み、このような考えを明らかにしました。
6月22日開催予定の医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」での議論を受けて、正式に来年度(2024年度)のシーリング等設定が行われます。
特別連携プログラム、2次医療圏単位よりも都道府県単位のほうが効果的ではないか
2018年度から「新専門医制度」が全面スタートしました。従前の専門医制度に対する「各学会が独自の基準で専門医を認定しており、国民に分かりにくく、質が担保されていない」などの批判を踏まえ、「日本専門医機構と各学会が共同して研修プログラムを作成し、認定を行う仕組み」となっています。
ただし、「専門医の質を追求するあまりに養成施設の要件が厳しくなり、地域間・診療科間の医師偏在が助長されてしまうのではないか」との声が医療現場にあることから、▼日本専門医機構▼学会▼都道府県▼厚生労働省—が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みを構築・運用しています。
その1つに「地域・基本領域ごとの専攻医採用数に上限を設ける」仕組み(シーリング)があり、現在は次のように設定されています。
(1)厚生労働省の試算した「都道府県別・診療科別の必要医師数」に基づいて、「既に必要医師数を確保できている」と考えられる都道府県・診療科ではシーリング(採用数に上限)を設ける
(2)一定要件を満たす場合、「都市部等での1年半未満の研修」+「医師不足地域(医師充足率が80%未満)での1年半以上の研修」を可能とする【連携プログラム】設置を認める
(3)一定要件を満たす場合、「都市部等での2年未満の研修」+「医師不足が極めて顕著な地域(医師充足率が70%未満、東北地方が多い)での1年以上の研修」を可能とする【特別連携プログラム】設置を認める
このうち(1)(2)はシーリング(採用数上限)枠の中で設けますが、(3)の特別連携プログラムは「シーリングの外」で設定されます。例えば都市部でシーリングにより「x名まで」という上限が設定されたとしても、そこに「+α名」の専攻医採用が可能となります。このため、一見「都市部への専攻医集中が進んでしまう」ようにも思えます。しかし、「都市部での研修を希望する若手医師の希望を無視することは困難である」「都市部での研修医が増えても、その3分の1は医師不足が極めて顕著な地域で研修を行うため、その分、医師偏在解消効果につながると期待できる」との考えの下に設定されました(関連記事はこちらとこちら)。
今後、来年度(2024年度)から「新専門医制度資格取得に向けた研修」を行う専攻医の採用に関する議論が進みますが、日本専門医機構の渡辺理事長は「現在と同じ形のシーリングの枠組みを維持したい」との考えを明らかにしました。基本領域学会から「今年度(2023年度)のシーリングに関する審議が長引き、専攻医募集が遅れ、現場は混乱した」旨の意見が寄せられたことなどから、「スケジュール遅れを避けるために、現在の枠組み踏襲が好ましい」と判断したものです。
ところで、(3)の特別連携プログラムに関連し、日本専門医機構では「子育て世代の支援を重点的に行う(育児と仕事を両立できる職場環境が整っている医療機関で研修を行う)ことを要件とする【子育て支援加算】(専攻医採用枠の増加を認める)を設けてはどうか」との提案も行いましたが、「医師専門研修部会」では「要件をさらに詰める必要がある」として継続審議扱いとしました(関連記事はこちら)。
この点について渡辺理事長は「機構内で要件を検討しており、例えば『育児休暇』のほか、『経済的支援』『院内病児保育』『24時間の院内保育』などが浮上しえいる。来年度(2024年度)導入は困難であるが、機構の検討状況を医師専門研修部会に報告する」考えも明らかにしています。
また、渡辺理事長は「個人的見解である」としたうえで、「特別連携プログラムは『医師少数区域(主に2次医療圏)での1年以上の研修』を求めているが、『医師少数県での1年以上の研修』としたほうが効果が出ると思う。医師少数区域への移住には研修環境・生活環境などから二の足を踏む医師も少なくないと思うが、医師少数県への移住であれば、個のハードルは相当さがる。医師少数県単位で医師を充足させ、当該県の中で『医師少数区域への医師派遣』を充足させる(言わば『玉突き』)ほうが効果的だ」との考えを示しています。
今後、医師専門研修部会での議論を経て、2024年度のシーリングの姿が固められます。
シーリング下で「総合診療」「救急」科の医師は増加しているが、「外科」「内科」で苦戦
さらに渡辺理事長は「シーリング制度の効果」について機構内で分析を進めていることも報告。これまでに▼全国で人口当たりの専攻医数は増加傾向にある▼東京集中は緩和傾向にある▼診療科別にみると「総合診療」「救急科」では増加しているが、「内科」「外科」では苦戦している▼特別連携プログラムには一定の効果があるが、「都道府県単位」の仕組みとすればさらに効果が上がると考えられる—などの状況が浮かび上がってきています。
渡辺理事長は「厚生労働科学研究費による支援などにも期待しており、本年度(2023年度)中に一定の結論を出し、今後のシーリング制度に反映させたい」「個人的にはシーリング制度よりも地域枠などのほうが医師偏在是正効果は高いと見ている」との考えを示しています。
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