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2025年度の新専門医制度研修の専攻医募集内容を議論、「医師少数区域での研修」をどう促していくか―医師専門研修部会

2024.7.22.(月)

2025年度からの「新専門医資格の取得を目指す研修」を行う専攻医募集に関して、基本的に「現在のシーリング制度を維持」する—。

その上で、医師多数県・医師多数診療科で研修する専攻医の一部について「医師少数区域での1年以上の研修」を求める特別連携プログラムについて、「専攻医は基幹的病院で研修を受け、当該病院から別の医師を医師少数区域に派遣する」という、いわゆる玉突きを可能とすべきか—。

7月19日に開催された医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)で、こうした議論が行われました。

部会委員の多くは「玉突き案」に反対しており、今後、都道府県の意見も踏まえてさらに議論を重ね、今秋(2024年秋)に再び専門研修部会で「2025年度の専門研修制度募集内容」を詰めていきます。

7月19日に開催された「令和6年度 第1回 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会」

日本専門医機構の渡辺理事長が「専攻医の玉突き案」を公式に提案

2018年度から「新専門医制度」が全面スタートしています。従前の専門医制度には「各学会が独自の基準で専門医を認定しており、国民に分かりにくく、質が担保されていない」などの問題点があり、「日本専門医機構と各学会が共同して研修プログラムを作成し、統一した基準で認定を行う仕組み」となっています。

ただし「専門医の質を追求するあまりに養成施設の要件が厳しくなり、地域間・診療科間の医師偏在が助長されてしまうのではないか」との声が医療現場にあることから、▼日本専門医機構▼学会▼都道府県▼厚生労働省—が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みを構築・運用しています。

この「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みの1つに「地域・基本領域ごとの専攻医採用数に上限を設ける」仕組み(シーリング)があり、現在は次のように設定されています。

(1)厚生労働省の試算した「都道府県別・診療科別の必要医師数」に基づいて、「既に必要医師数を確保できている」と考えられる都道府県・診療科ではシーリング(採用数に上限)を設ける

(2)一定要件を満たす場合、「都市部等での1年半未満の研修」+「医師不足地域(医師充足率が80%未満)での1年半以上の研修」を可能とする【連携プログラム】設置を認める

(3)一定要件を満たす場合、「都市部等での2年未満の研修」+「医師不足が極めて顕著な地域(医師充足率が70%未満、東北地方が多い)での1年以上の研修」を可能とする【特別連携プログラム】設置を認める

2024年度のシーリング概要(医師専門研修部会4 230622)



(2)(3)の仕組みにより「医師が不足している地域で一定期間研修(=勤務)する専攻医が増える→医師偏在が緩和する」ことが期待されています。しかし、(3)の特別連携プログラムの状況を見ると▼2023年度は60名、24年度は42名と、希望者が減少してしまっている▼連携先は「関東近県」が多く、医師不足が深刻な「東北地方」との連携は進んでいない—など、「医師偏在解消の効果」という面では十分には機能していないことが分かりました。

2023・24年度における特別連携プログラムの状況(医師専門研修部会4 240719)

2024年度における特別連携プログラムの状況(I医師専門研修部会5 240719)



これらの背景には様々な要素がありますが、特別連携プログラムの「医師不足が極めて顕著な地域(医師充足率が70%未満、東北地方が多い)での1年以上の研修」という要件について、「指導医の確保などが難しく、研修環境を十分に整えられず、研修プログラムを組みにくい」など、要件が厳しすぎるのではないかとの指摘もあります。

そこで、日本専門医機構の渡辺毅理事長(地域医療振興協会東京北医療センター顧問、福島県立医科大学名誉教授)は、上記(1)から(3)の枠組みを基本的に維持したうえで、(3)の【特別連携プログラム】について次のような見直しを行ってはどうかの提案を行いました。従前より渡辺理事長が提唱する「玉突き案」を公式に提唱・提案した格好です(関連記事はこちら)。

(a)まず、「都会など医師多数の県」から「医師少数県(A県)の基幹的病院(A病院)への派遣」を可能とする

(b)当該「医師少数県の基幹的病院」(A病院)から、別の医師を「医師不足が著しい地域の医療機関(B施設)へ派遣」する

(a)により「指導医が確保された基幹的病院で研修を受けることができ、専攻医が特別連携プログラムを選択しやすい環境」を整えるとともに、(b)で例えば「指導医がおらずとも診療を行えるベテラン医師を『医師少数の地域』へ派遣する」ことにより、医師偏在の解消も実現できるのではないか、と考えられるのです。理論的には「優れた仕組み」と考えられそうです。

日本専門医機構の提唱する2025年度シーリング案の見直し方向(医師専門研修部会1 240719)

日本専門医機構の提唱する、いわゆる「玉突き」案(医師専門研修部会2 240719)

日本専門医機構の提唱する2025年度シーリング案の全体像(医師専門研修部会3 240719)



しかし、この仕組みに対して「実際に(b)の実現を担保できるのだろうか?」という疑問、反対の意見が相次ぎました。患者代表として参画する山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は「玉突き案では、ほんとうに(b)のように基幹的病院から医師少数地域への医師派遣が行われるのか。それをどの程度実現できるのか、都道府県・基幹的病院に調査するなどして確認したうえでなければ、机上の空論に終わってしまう」と、自治体代表の1人として参画する立谷秀清委員(全国市長会、福島県相馬市長)は「医師が少ない都道府県でも、大学医学部のある市などに『医師のミニ一極集中』が生じている。専門医機構は(b)について地域医療対策協議会(地対協、医療関係者や地域住民、関係市町村等で構成される地域医療の在り方を考える会議)で実効性を担保することを期待しているが、地対協には(b)を強制的に行える権限はない。『医師のミニ一極集中』を助長するだけに終わる可能性がある」と、地域の基幹的病院の責任者の1人でもある牧野憲一委員(日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)は「シーリングには『大都市での医師増加を抑制する』効果が期待されるが、特別連携プログラムはシーリングの措置に設けられる。医師が不足する地域では、『1人の医師が来てくれる』だけでも大きな効果があるが、それが担保されなければ、特別連携プログラムプロは単なるシーリング逃れに利用されてしまう可能性もある。また」とコメントしています。

また、都道府県代表として参画する花角英世委員(全国知事会、新潟県知事)は「玉突き案を実施するにしても、関東近県などではなく、医師不足の著しい東北地方などに限定して実施すべき」との考え方を示しています。



上述のように玉突き案には「専攻医の研修環境を整えながら、医師偏在解消を進められる」というメリットがありますが、(a)→(b)という「実際の玉突き」が担保されなければ、牧野委員の指摘するように「単なるシーリング逃れ」に使われてしまう危険もあります。

この点、(a)→(b)という「実際の玉突き」を担保するためには、「確実に基幹的病院から、医師を医師少数の地域に派遣できる」仕組みが必要ですが、制度として確立するには、解決すべき課題が少なからずあります。例えば、A都道府県の基幹的病院に勤務する医師の中から、毎年、数名を確実に医師少数地域に派遣する仕組みを設ける場合には、「経済的インセンティブをどう考えるのか(確実な予算確保が必要となる)」、「家族の生活や、子供の教育をどう考えるのか」、「派遣医師をどう選択するのか」、「派遣予定医師が拒否した場合、あるいは退職した場合などにどう対処するのか」など、思いつくだけでも様々な課題があることが分かります。さらに、こうした課題は「医師偏在の大きな要因」でもあり、これらを解決できるのであれば、それは「医師偏在対策そのものを相当程度解決できる」ことを意味するものと言えます。しかし、これまで長期間にわたって議論する中でも「課題解決の方向」は十分には見えてきていません。このため、短期間に「(a)→(b)という実際の玉突きを担保する仕組み」を構築できるかとなれば、疑問もわいてきます。このため、「玉突き案の制度化ができるのであれば、そもそも、ここまでの医師偏在は生じていない。『玉突き案の制度化は、つまり、医師偏在解消策の構築そのもの』であり、玉突き案の実効性担保はなかなか難しい」と厳しく見る識者もおられます。

今後、都道府県からの意見も聴取しながら議論を深め、今秋(2024年秋)に再び専門研修部会で「2025年度の専門研修制度募集内容」を詰めていきます(今秋(2024年秋)の専門研修部会で「2025年度シーリングに対する厚生労働大臣の意見」案を固め、その後、日本専門医機構で大臣意見をもとにシーリング内容を決定する)。

なお、いわゆる「玉突き案」には否定的意見が多いものの、(1)から(3)をベースとする現行シーリングには特段の反対意見は出ておらず、2025年度の専攻医募集でも、(1)から(3)の形が維持される見込みです。

ところで、新専門医制度は「医師の地域偏在を是正する」ことは本来の目的ではありません。新専門医制度には「医師偏在を助長しない」ことが求められるのみであり、「本来の、医師の教育・研修をいかに充実するか、いかに優れた医師を養成するかという点に注力すべきではないか」と指摘する識者も少なくない点にも改めて留意が求められます。



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