新専門医制度において「医師少数区域での研修が進む」ような配慮・対策が2024年度も極めて重要―医師専門研修部会
2023.9.13.(水)
2024年度からの「新専門医資格の取得を目指す研修」を行う専攻医について「現在のシーリング制度を維持」するが、医師少数区域での研修が進むように配慮を行う必要がある—。
子育て支援は「すべての医療機関が行うべき」事項であり、新専門医制度の「シーリング」と結びつけて考えるべきではない—。
9月11日に開催された医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)で、こうした意見(厚生労働大臣による日本専門医機構・基本領域学会への意見)が概ね固められました。
日本専門医機構では「11月1日から専攻医募集を開始する」スケジュールを立てており、それに間に合うように厚生労働大臣からの意見が専門医機構・基本領域学会に通知される見込みです(9月下旬から10月上旬見込み)。
2024年度の専門研修シーリングは、23年度の仕組みを踏襲する
2018年度から「新専門医制度」が全面スタートしています。従前の専門医制度には「各学会が独自の基準で専門医を認定しており、国民に分かりにくく、質が担保されていない」などの問題点があり、「日本専門医機構と各学会が共同して研修プログラムを作成し、統一した基準で認定を行う仕組み」となっています。
ただし「専門医の質を追求するあまりに養成施設の要件が厳しくなり、地域間・診療科間の医師偏在が助長されてしまうのではないか」との声が医療現場にあることから、▼日本専門医機構▼学会▼都道府県▼厚生労働省—が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みを構築・運用しています。
この「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みの1つに「地域・基本領域ごとの専攻医採用数に上限を設ける」仕組み(シーリング)があり、現在は次のように設定されています。
(1)厚生労働省の試算した「都道府県別・診療科別の必要医師数」に基づいて、「既に必要医師数を確保できている」と考えられる都道府県・診療科ではシーリング(採用数に上限)を設ける
(2)一定要件を満たす場合、「都市部等での1年半未満の研修」+「医師不足地域(医師充足率が80%未満)での1年半以上の研修」を可能とする【連携プログラム】設置を認める
(3)一定要件を満たす場合、「都市部等での2年未満の研修」+「医師不足が極めて顕著な地域(医師充足率が70%未満、東北地方が多い)での1年以上の研修」を可能とする【特別連携プログラム】設置を認める
来年度(2024年度)から専門研修を始める専攻医についても、このシーリングに沿って定員設定・募集を行いたいと日本専門医機構は考えています(関連記事はこちらとこちら)。
ところで、上述のように▼日本専門医機構▼学会▼都道府県▼厚生労働省—が「重層的」に医師偏在の助長を防ぐために、「各都道府県の地域医療対策協議会(医療関係者や地域住民、関係市町村等で構成される地域医療の在り方を考える会議)の考えを厚生労働大臣が取りまとめ、日本専門医機構・基本領域学会にシーリング制度等の改善を求める」仕組みが設けられています。
上記のシーリング案に対しては、都道府県から例えば▼事前に連携先を明確に設定し、連携先での研修を確実に履行する仕組みとすべき▼連携期間は1年では短く、1年半とするなど、医師の偏在是正できるような仕組みとすべき—などの改善提案のほか、「特別地域連携プログラムについては、シーリングの枠内で実施すべき」との指摘も出ています。また、6月22日開催の前回会合では、委員から「特別連携プログラムで『1年だけ』地方の病院に来てもらっても、継続して来てもらわなければ意味がない。例えば3人をセットで『1人1年ずつ地方での勤務を行う』べき」などの提案もなされています。
厚生労働省はこうした意見を整理し、9月11日の専門研修部会に、「次のような厚労相意見を専門医機構・基本領域学会に提示し、改善を求めることとしてはどうか」との提案を行っています。
▽特別地域連携プログラムについて、医師少数区域の一覧や、地域医療確保暫定特例水準を予定している施設一覧を活用して「連携施設の候補一覧」を作成、公表するなど、研修プログラム基幹施設が特別地域連携プログラムの連携先を検討、設定しやすいように配慮する
▽特別連携プログラムの連携施設における医療提供体制確保の観点から、関係者が連携して「当該連携施設で『毎年、専攻医が途切れることなく研修できる』よう配慮」する
▽特別地域連携プログラムの連携施設において「1年間以上の研修が実際に行われているか」を定期的に確認し、適切に運用する
この改善提案内容に反論は出ていませんが、「連携施設は『時間外・休日労働時間が1860時間を超える医師等が所属する施設』などの要件があり、どういった施設がこれらの要件を満たし、連携施設候補となるのかを公表すべき」(牧野憲一委員:日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)、「都道府県サイドから『連携施設での1年半の研修』を求める声が出ているが、指導体制が手薄な連携施設での長期研修にはリスクもある。また研修の早い段階で連携施設に赴くことにもリスクがあり、配慮をすべきである。さらに例えば医師がわずかに増え連携施設の要件を満たさなくなった場合に、当該施設に医師派遣がなされなくなるような事態も避けるべきである」(野木渡委員:日本精神科病院協会副会長)、「今年度(2023年度)から特別連携プログラムで地方研修をしている専攻医等を対象にアンケートを行うなどし、充実した研修が確保されるための対策なども検討すべき」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)、「情報公開を充実し、医師がどのプログラムを選択すればよいのか、医療機関がどの連携施設と協力すればよいのかなどについてきちんと検討できる環境を整えるべき」(片岡仁美委員:京都大学医学教育・国際化推進センター教授)、「特別連携プログラムの実績を見ると、多くは都市の近隣県所在施設のようだ。真に医師が不足する地域の施設と連携するような方策を考えるべき」(花角英世委員:新潟県知事)、「地方の基幹病院にまず医師を派遣し、そこから過疎地の医師不足地域にある病院に医師を派遣するような『玉突き』制度を設けなければ継続的な医師派遣は期待できないのではないか」(立谷秀清委員:全国市長会会長、相馬市長)などの注文がついています。
立谷委員の提案などは魅力的ですが、上述したシーリング案・特別連携プログラム案の範疇を超える提案であり「将来の検討課題」に位置づけられそうです(専門医機構の渡辺理事長も同様の考えを持っている、関連記事はこちらとこちら)。
今後、意見を踏まえて遠藤久夫部会長(学習院大学経済学部教授)と厚労省で文言の最終調整を行いますが、大きな修正は行われない見込みです。
子育て支援は「すべての医療機関が行う」べきで、専門医制度の定員と結びつけるべきでない
また、2024年度シーリングには盛り込まれませんが、専門医機構では「子育て支援に力を入れる施設では、専攻医の定員を+αしてはどうか」との構想も持っています(子育て支援加算)。
この構想に対しては、6月22日開催の前回会合で「医師偏在を助長する可能性がある」「要件が曖昧である」「大病院が優遇される」「都道府県定員と施設定員との関係が不明である」などの批判が数多く出されたほか、都道府県からも「子育て支援加算はシーリングの枠外での設定が想定されており、長期的に見れば医師の地域偏在を助長する懸念があ る」「子育てに配慮した勤務環境の整備を医師偏在対策のシーリングと結びつけるべきものではない」「専攻医の採用実績が多い医師多数県に有利に働く制度である」との反対意見が示されています。
また9月11日の専門研修部会でも、「子育て支援の重要性は述べるまでもないが、研修医や専攻医を受け入れる施設では当然、実施すべき事項であり、シーリングとを結びつけるべきではない」との指摘が山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)や牧野委員ら数多くの委員から出されました。また立谷委員も「子育て支援はすべての病院で取り組むべき事項であり、実施が不十分な施設には診療報酬上のペナルティを課すなどの対応が必要である」とコメントしています。
厚労省は次のような「厚労相意見案」を提示していますが、専門研修部会で「子育て支援はシーリングとは別枠で検討すべき」との意見が多数出された点を踏まえた修文が行われる見込みです。「子育て支援加算」は機構内部案にとどまっており、「別角度での検討」が要請されることになります。
▽子育て支援は原則「全ての医療機関が検討すべき」ことであり、各研修施設の基本的な施設要件とすることなど、シーリング以外の評価手法も含めて適切に検討する
▽病院の規模や地域により子育て支援サービスの提供のしやすさ・方法が異なることから、評価にあたっては「医師不足地域や規模の小さい病院が不利にならない」よう配慮する
▽子育て支援の対象者は「子育て中の医師」のほか、「妊娠中の医師」「子育てを支える医師」なども含めて検討する。その際、例えば休暇や時短勤務を行う場合には、周りの医師の理解やサポートができる体制構築の方法についても併せて検討する
▽仮にシーリングに関連して子育て支援を検討する場合には、「シーリング枠内での調整」とし、地域偏在を助長しない方法で検討する(例えば「シーリング対象都道府県における各施設間での子育て支援の評価に応じた枠数の移動」など)
上述した「シーリング改善に関する意見」と合わせて、専門医機構が予定する専攻医募集スケジュール(11月1日開始)に間に合うように厚労相意見が専門医機構・基本領域学会に通知されます(9月下旬から10月上旬見込み)。専門医機構・基本領域学会では、厚労相意見を踏まえた「シーリング制度・運用の改善」を行ったうえで専攻医募集を開始しなければなりません。
また、9月11日の専門研修部会には、専門医機構の渡辺理事長から「2023年度にシーリングの効果検証」を行うことが報告されました。▼専攻医や臨床研修医を対象とした「研修先の選定要素」アンケート▼専門医機構保有の研修状況(研修施設、専門医資格取得後の勤務先など)▼諸外国の状況―などを組みわせて、「シーリングの効果」「シーリング手法の検証と効果的指標の開発」「都道府県・診療科の選択要因の解明」につなげたい考えです。
この効果検証には多くの委員が期待を寄せており、専門医機構の渡辺理事長は「効果検証結果(来年(2024年)5月下旬公表予定)を踏まえて、2026年度の専攻医募集からシーリングの改善を図りたい」との考えも示しています。
しかし専門医機構理事でもある釜萢敏委員(日本医師会常任理事)は「今回の効果検証ですべての問題が解決するような結論は得られないであろう。シーリングをしなかった場合よりも、シーリング実施のほうが地域偏在対策には効果があるなどの結果は示されるであろうが、例えば専攻医サイドの『シーリングにより希望の研修先に勤務できない』という不満解消に至らない。専門医機構の効果検証を待たずに、シーリングの在り方をどう考えていくかを専門研修部会等で議論していく必要がある」と冷ややかな見方をしています。
新専門医制度の本質は「優れた医師を養成する」点にあり、「医師偏在を解消する」ことはその本来目的ではありません。「医師偏在を助長しないように配慮する」ことが求められているのみです。この本質を忘れた議論をすれば、若手医師が十分な研修を行えず、日本の医療・医学水準が低迷し、結果、我々国民が不利益を受けてしまうことに最大限の留意が必要でしょう。
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