広告可能な専門医資格は「専門医機構認定の専門医」を基本に、学会認定資格等は新基準を設けて判断へ—医療機能情報提供制度等分科会(1)
2024.1.30.(火)
広告可能な専門医資格は「専門医機構認定の専門医」を基本にしていく。現在、基本19領域の専門医資格は広告可能であり、ここに「基本領域との連動研修」が可能な15のサブスペシャリティ領域も加えてはどうか—。
他のサブスペシャリティ領域や、学会認定の専門医資格については、新たに「広告可否の判断基準」を作成し、それに照らして個別に判断してはどうか—。
また、「専門医機構認定の専門医」と同一の専門性を持つ「学会認定の専門医」については、経過措置的に広告可能としているが、国民に分かりにくくなるため、経過措置を廃止し、「基本的に広告を認めない」こととしてはどうか—。
1月29日に開催された「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」(以下、分科会)でこうした議論が行われました。今後、さらに詳細を詰めていきます。
なお、同日には「糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬)を用いた痩身術」などを謳うオンライン診療等に係る広告が目に余る事態を踏まえて「医療広告規制」に関するガイドライン等を見直す(厳格化する)方針が了承されており、これは別稿で報じます。
「国民への分かりやすさ」と「医療現場への影響」とを勘案し、広告可能事項を見直し
医療に関しては「広告できる事項」が厳格に定められています。「広告して良い」と認められている事項以外の広告をすることは認められません(ただしホームページについては、一定の要件を満たすことで「広告して良い」と認められた事項以外の項目を広告することも可能、【限定解除】、関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
こと医療に関しては「医療者」と「患者・国民」との間で知識の乖離が著しく(医療者が「当たり前のこと、書かなくとも分かること」と思う事項が、一般国民には「全く知らなかった」という事態が少なからず生じうる)、制限を設けなければ、患者・国民が大きく誤解したまま医療を受け、結果、患者・国民の健康・生命に取り返しのつかない被害が出かねないためです。
具体的には、厚生労働省告示(医療法第六条の五第一項及び第六条の七第一項の規定に基づく医業、歯科医業若しくは 助産師の業務又は病院、診療所若しくは助産所に関して広告することができる事項)(以下、本稿では「広告可能告示」と呼ぶ)の中で、広告できる事項を「厳格に限定」しているのです。
このうち「専門医資格」に関しては、2021年に▼日本専門医機構の認定する19の基本領域の専門医資格を取得している旨を広告可能とする▼従前の学会が認定する専門医資格については、経過的に広告可能とする(ただし機構認定の19基本領域と同一性のある16専門医資格は、機構認定の専門医資格を持たない場合のみ広告可)—といった取り扱い方針を決定し、現在、この方針に沿って運用(広告可能か否かの判断)されています(関連記事はこちら)。
専門医制度は、「各学会が独自の基準で専門医を認定し、また専門医が乱立されたことにより、質が担保されておらず、かつ国民に分かりにくい」という強い批判があり、2018年度から「日本専門医機構と医学会が共同して研修プログラムを作成し、統一基準で認定を行う新専門医制度」へと改められました。
この新たな専門医制度に基づく専門医資格を持つ医師について「自身は専門医の資格を保有している」「自院には専門医資格を持つ医師が在籍している」という旨を広告できることとされたのです。専門医資格を有しているか否かは、患者・国民が医療機関を選択する際の重要な情報となるためです。
一方、従前の学会が個別に認定する専門医資格については、いわば激変緩和措置として「当面の間、広告を認める」との扱いとされました。各学会と専門医機構で「従前の学会認定専門医→専門医機構の認定する専門医」への移行が進められますが、「完全移行には時間がかかる」ことを考慮した措置と言えます。
ただし、専門医資格の広告については次のような課題も残っています。
▽新専門医制度(専門医機構認定の専門医制度)では、基本19領域の上に2階部分の「サブスペシャリティ領域」があり、近くサブスペ資格の認定試験が行われるが、広告の在り方が決まっていない
▽学会認定の専門医資格について「広告可能」の激変緩和措置が設けられているが、国民に分かりにくくなっている(学会認定の●●専門医と、専門医機構認定の●●専門医とが併存している)
こうした課題の解消に向け、厚生労働省は1月29日の分科会に、例えば次のような対応方針案を提示しました。
【日本専門医機構の認定するサブスペシャリティ領域】(2024年1月時点で27領域)
(1)「基本領域との連動研修」が行われる15領域(消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、血液内科、内分泌代謝・糖尿病内科、脳神経内科、腎臓内科、膠原病・リウマチ内科、消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、乳腺外科、放射線診断、放射線治療)
→基本19領域と同様に広告可能とする
▽ただし、これら15領域の認定・更新基準等が確定していないことから、日本専門医機構における十分な整理を経て、「研修制度整備基準」「認定・更新基準」「専門医名称」の整備が整ったものか順次、個別に「広告可能事項」に含めるかどうかを審議・認定していく
(2)他のサブスペシャリティ領域
→新たに定める「判断基準」(後掲)を満たす場合に広告可能事項とする
【学会認定の専門医資格】(現在56領域)
(3)「日本専門医機構の19基本領域」に対応する学会認定専門医(16学会16専門医、下表の黄色部分)
→機構認定専門医への移行状況を踏まえて経過措置を終了する
(現在は機構認定専門医に移行していない場合に、学会認定専門医資格を広告できるが、経過措置終了後は、機構認定専門医に移行していなければ専門医資格を広告できなくなる)
(4)「上記(1)(基本領域と同様に取り扱うサブスペシャルティ15領域」に対応する学会認定専門医
→当該サブスペシャルティ領域の機構認定専門医が広告可能として認められた後に引き続き経過措置の在り方を検討する(当面、広告可)
(5)その他の学会認定専門医
→「新たな判断基準」の検討状況を踏まえ、経過措置期間や、既に広告可能な資格を有している医師の取り扱いなどを引き続き検討する(当面、広告可)
※【新たな判断基準】の考え方(これから検討、設定する)
こうした方針について、大枠は了承されたと言えます。専門医制度が、上述のように「国民への分かりやすさ」「専門医資格の同質性担保」という視点を重視しして、「個別学会の認定」から「専門医機構・学会による統一認定」に移行したことを踏まえれば、より「国民への分かりやすさ」が重視される「広告」についても、同様に「基本的に、日本専門医機構認定の専門医資格の広告を認める」という方向へのシフトは望ましい動きと言えるでしょう。
もっとも、「日本専門医機構でのサブスペシャリティ領域の制度枠組みが曖昧である。その整理が終わってから広告論議を行うべきである」(山口育子構成員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)、「学会認定専門医を広告できなくなれば、医療現場で困る事態が生じる可能性はないのか。十分な配慮が必要である」(小森直之構成員:日本医療法人協会副会長)、「連動研修が認められる15領域は広告可能であり、例えば『呼吸器外科』が広告可能となる。しかし、『アレルギー』は広告可能としない、などとなれば帰って国民に分かりにくくならないであろうか」(磯部哲構成員:慶應義塾大学大学院法務研究科教授)、「まず定めるべきh『新たな判断基準』であり、それをクリアしたものは順次、広告可能としていくべき」(幸野庄司構成員:健康保険組合連合会参与)などの意見も出されています。
現在認められている「学会認定専門医資格」の広告が認められなくなれば、上記意見にもあるように「医療現場が困る」事態も想定されます。
現在は、上述のように「56」の学会認定専門医資格の広告が認められていますが、経過措置終了後は、まず上記(3)により、「機構認定の19基本領域と同一性のある16の学会認定専門医」資格が広告できなくなります。さらに、(4)(5)により、「新判断基準」などに照らして、のこり40の学会認定専門医資格も「広告を可能とするか否か」のふるいにかけられます。
専門医資格を広告できるか否かは、「集客」などにも少なからず関係する可能性があり、「いつから学会認定専門医の広告をNGとするのか」という期限論議を行う必要があります。医療機関にしてみれば「経過措置期間を十分にとる」と考えることになりそうですが、国民・患者への分かりやすさという視点に立てば「経過措置は速やかに終了すべき」と考えることになるでしょう。今後、2つの視点を踏まえて検討していくことになります。
今後、分科会で改めて「広告規制見直しをいつ実施するのか」「新たな判断基準をどう設定するのか」「15のサブスペシャリティ領域の広告可否を具体的にどう判断するのか」などをさらに詰めていくことになります。
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