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大学病院等が既にもつ「指導医」派遣実績踏まえ、新専門医制度シーリング(地域別・診療領域別の採用数上限)で優遇―医師専門研修部会

2024.12.16.(月)

「新専門医資格の取得を目指す研修」を行う専攻医募集に関して、医師偏在を助長しないように「都道府県別・診療領域別の採用数上限」(シーリング)を設定している—。

コロナ感染症流行下では、シーリングの効果検証・改善を十分に行えなかったが、コロナ感染症が落ち着く中で、「2026年度から研修を開始する専攻医」募集に向けてシーリング制度の改善を図ってはどうか―。

具体的には、大学病院等が既に行っている「指導医」派遣の実績などを踏まえ、これを新専門医制度シーリング(地域別・診療領域別の採用数上限)で優遇(採用数増員を認める)してはどうか―。

12月13日に開催された医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)で、こういった議論が始まりました。大きな見直しであり、専攻医を目指す医師・研修プログラムを作成する学会・研修を行う病院・地域医療提供体制の責任主体である都道府県など、関係者の準備期間等も考慮し、できるだけ早く議論をまとめてほしいと厚生労働省は考えています。

12月13日に開催された「令和6年度 第3回 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会」

既にある「指導医」派遣実績を新専門医制度の中で評価する仕組みを検討

2018年度から「新専門医制度」が全面スタートしています。従前の専門医制度には「各学会が独自の基準で専門医を認定しており、国民に分かりにくく、質が担保されていない」などの問題点があり、「日本専門医機構と各学会が共同して研修プログラムを作成し、統一した基準で認定を行う仕組み」となっています。

ただし「専門医の質を追求するあまりに養成施設の要件が厳しくなり、地域間・診療科間の医師偏在が助長されてしまうのではないか」との声が医療現場にあることから、▼日本専門医機構▼学会▼都道府県▼厚生労働省—が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みを構築・運用しています。

この「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みの1つに「地域・基本領域ごとの専攻医採用数に上限を設ける」仕組み(シーリング)があります。当初は「大都市において過去5年の採用実績平均を上限とする」仕組みでしたが、より精緻な仕組みを目指して▼都道府県別・診療科別必要医師数を勘案した上限とする▼医師少数区域での一定期間の研修(=勤務)を推進するための【連携プログラム】、【特別連携プログラム】設置を可能とする—などの見直しが行われてきています(関連記事はこちら)。

現行のシーリングの概要(医師専門研修部会3 241213)

連携プログラムの概要(医師専門研修部会4 241213)



この「シーリング」により、「医師偏在を助長させない」という一定の効果が生まれていますが、▼コロナ感染症流行下で、しっかりとした検証・見直しが行われてこなかった(関連記事はこちら)▼「医師偏在対策を強力に進める」方針の下では、専攻医などの若手医師にとどまらず、専攻医を指導する医師(指導医)も含めたベテラン・シニア医師にも「医師少数区域での勤務」等を促していく方針が確認されている(関連記事はこちら)▼自治体や医療現場(とりわけ地方)から「さらなる医師偏在の是正」要望が強く出されている—ことなどを踏まえ、厚労省は例えば次のような「シーリングの大幅な見直し」を行ってはどうかと12月13日の専門研修部会に提案しました。

シーリング見直し案(医師専門研修部会1 241213)



(1)シーリングが医師確保等に与える影響を考慮し、「医療計画等のサイクルを考慮した対応」を図る
→例えば、「シーリング見直し」結果を踏まえて、次期医療計画・医師確保計画を設定・見直しするなど
→ただし、激変を避けるために2026年度募集のシーリングについては「2025年度と同様のシーリング基準」を維持した上で、上記を実施するまでの特例的な対応として、「最新の2022年の医師数」<「2024年の必要医師数」となる場合はシーリングの対象外とする(医師が比較的少ない地域では、専攻医の増員を認める)

(2)通常プログラムの定員数について、現在の「当該都道府県別診療科の平均採用数」ベースから、「当該診療科全体の【人口】当たり平均採用数」ベースに見直す

(3)現在「シーリング外」に設定している特別地域連携プログラムについて、「シーリング内」に設定する

(4)激変緩和のために「直近の過去3年間の平均採用数を満たす」まで、連携プログラムの定員数の設定を許容する(現行の考え方を維持)
→連携プログラム設定の要件として、従前と同様に「前年度募集プログラムの地域貢献率を一定の割合を確保する」こととする

(5)例えば大学病院等の基幹病院から指導医を地域に派遣した実績を有する場合には、次のような観点での評価(定員の加算)を行う
▽「指導医の派遣に係る実績」に応じて、通常プログラムの定員数を増加する
▽「指導医不足がより顕著な地域への指導医の派遣」について、更なる評価(定員の増員)を行う
▽ただし、連携プログラムの定員数とのバランスの確保やシーリング制度の趣旨等の観点から、増員には「一定の上限」を設ける

(6)シーリング数が少数である場合のシーリング上の配慮について、「当該診療科の専攻医数に対する割合」に基づく基準を設定し、診療科毎の実態を適切に踏まえた対応とする
→シーリング対象となっている診療科の2024年度の平均専攻医数(561名)に対し、現行の基準(10名)は割合として約1.7%であること等を参考に、シーリング上の配慮の効果が適切に発揮されるよう一定数の定員数保障を行う基準等の在り方を見直す

採用数が少数の場合のシーリング対応(医師専門研修部会5 241213)



まず(1)は、「専攻医のシーリング(採用数上限)を見直す」→「地域における次年度の医師確保数に変化が生じる」点を踏まえて、医療計画(6年計画)・医師確保計画(3年計画)とシーリング見直しとを一定程度連動させるものです。医療計画は▼現在2024-29年度の計画(第8次計画)が稼働している▼2026年度に中間見直しを行う(見直し計画が2027年度からスタート)▼2030年度から新計画(第9次計画)が稼働する—というスケジュールが組まれています。そこで、たとえば「2026年度にシーリングを見直し、2027年度からの中間見直しを行った医療計画に反映させる」、「2029年度にシーリングを見直し、2030年度からの第9次医療計画に反映させる」ことなどが想像されます。



また(2)は、専攻医採用実績の「生の数字」ではなく、「人口当たりの採用実績」を用いてシーリング(通常プログラムの上限)を設定することで、「より精緻に医師偏在の状況を勘案する」ものと言えるでしょう。



他方、(3)の特別連携プログラムは、一定要件を満たす場合に「都市部等での2年未満の研修」+「医師不足が極めて顕著な地域(医師充足率が70%未満、東北地方が多い)での1年以上の研修」を可能とするもので、シーリングの外、つまり「上限よりも多く専攻医を採用できる」仕組みです。

東京などの医師多数区域でも「より多くの専攻医を採用できる」ので、医師の大都市集中、東京集中を助長するとも思えますが、「延べ研修期間の3分の1以上」、つまり「3年間トータルで見れば、増加する専攻医の3分の1以上が、東北地方などの医師少数区域に派遣され、医師偏在是正効果が大きい」として設置が認められました(関連記事はこちら)。

特別連携プログラム案の概要(医師専門研修部会1 220622)



しかし、自治体(都道府県や市町村)からは「医師の大都市集中、東京集中を助長しているのではないか」(一部の期間は医師少数区域に派遣されるが、実際に東京等の専攻医が増加することには疑いがない)との指摘も強く、今般、「シーリングの中に設ける」見直しが提案されたものです。



また(5)は、大学病院や地域の基幹病院から、医師少数区域の医療機関へ、専攻医を含めた若手医師を指導する医師が相当程度派遣されている状況(現状)を、新専門医制度の中でも「何らかの形で評価できないか」という考えの下に提案されたものです。さらに、大学病院や地域基幹病院の体力(医師在籍状況)にもよりますが、上述のように「医師偏在に向けてベテラン・シニア医師対策も重要」と考えられている点を踏まえて、「さらなる指導医派遣の充実」に期待することもできそうです。

大学病院はすでに医師派遣を相当程度行っている(新地域医療構想 240906)

専攻医が研修プログラムで重視する点(医師専門研修部会2 241213)



こうした見直し案に対し、専門研修部会では▼専攻医採用では「指導医の確保」が重要であり、医師少数区域等を中心に重点的な評価を行ってほしい(山崎親男委員:全国町村会副会長、岡山県鏡野町長)▼指導医派遣の評価にあたっては、「同じ都道府県内であるが、医師が少ない区域」への派遣なども勘案するなど、丁寧な評価方法を検討すべき(片岡仁美委員:京都大学医学教育・国際化推進センター教授)▼「地方に派遣できる指導医」の育成についても、厚労省と日本専門医機構が連携して力を入れてほしい(立谷秀清委員:全国市長会、福島県相馬市長)▼「指導医になる」点へのインセンティブも検討していくべき(坂本泰三委員:日本医師会常任理事)—などの比較的前向きな注文がついています。



一方、▼大学病院等に「さらなる指導医派遣を求める」となれば、大学病院から医師がいなくなってしまい、地域医療が崩壊がしてしまわないか(今村英仁委員:日本医師会常任理事)▼特別連携プログラムは「シーリングの外」に設置するから魅力的(シーリングを超えた採用ができる)なのであって、「シーリングの中」に設置した場合、特別連携プログラムを設定する学会・病院・都道府県、特別連携プログラムを希望する医師はいなくなってしまうのではないか(渡辺毅参考人:日本専門医機構理事長)—という疑問の声も出ています。

前者の今村委員の疑問を解消するために、厚労省は「大学病院本院に『さらなる(無理な)指導医派遣』を求めるというよりも、すでに大学病院等が行っている「指導医派遣」の実績を「遅まきながら、新専門医制度の中で評価する」ものである点について、より丁寧な説明を行う」考えを示しています。

もっとも、こうした疑問は「上記(1)から(6)の見直し内容が複雑である」ことによって生じているとも思われます。遠藤久夫部会長(学習院大学学長)は、「さらなる議論が必要である」との考えを示すとともに、厚労省に「日本専門医機構と連携し、次回会合で『見直しにより、シーリング枠、つまり採用上限数がどのように変化するのか』の具体案などを示す」よう指示しています。



なお、シーリングの設定は、これまで「夏に専門研修部会で見直しの大枠を議論する」→「都道府県などの意見も踏まえて、秋に専門研修部会で見直し内容を決定し、日本専門医機構等で専攻医募集を開始する」というスケジュールで進んでいます。しかし、上述のように「大きな見直し」を行うこと、見直しは専攻医を目指す医師・研修プログラムを作成する学会・研修を行う病院・地域医療提供体制の責任主体である都道府県などの行動にも大きな影響を与え、「準備期間等を確保する」必要があることなどを踏まえ、厚労省は「できるだけ早く議論をまとめ、必要な準備を進めたい」と考えています。



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