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大学病院本院に「医師派遣」実績も求めるが、地方にある病院等には緩やかな実績基準を設定しては―特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会

2024.11.27.(水)

大学病院本院を特定機能病院として承認する際には「診療・研究・教育」の要件を満たすことが求められるが、新たに「医師派遣」実績を要件に加えてはどうか―。

もっとも、一律に「医師派遣実績●件」などと設定するよりも、「都市部等の大規模な大学病院では厳しい基準、地方等の小規模な大学病院では緩やかな基準」などの類型化を行ったり、派遣先医療機関の特性(中核病院か中小病院か、など)に応じた評価などを検討すべきである—。

このように大学病院本院の役割・機能は、一般のイメージである「高度医療を提供する病院」から、「高度医療提供とともに、医師派遣などを通じて地域を守る病院」へと変貌していくと考えられる。こうした役割・機能を果たすための財政的裏付けも必要ではないか—。

こうした議論が11月27日に開催された「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」(以下、単に検討会とする)で行われました。当初「年内(2024年内)の意見とりまとめ」を目指してきましたが、議論をさらに深める必要があると厚生労働省が判断し「年度内(2024度年内、2025年3月まで)の意見とりまとめ」を行うこととなっています。

11月27日に開催された「第22回 特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」

大学病院本院の特定機能病院承認要件に「医師派遣」実績を新たに加えてはどうか

特定機能病院には、次のような類型があり、いずれにも「高度医療の提供」「高度医療技術の開発」「高度医療に関する研修」という3つの役割を果たすことが求められ、これに見合った承認要件が定められています。
また、特定機能病院と一口にいっても、次のように様々な類型があります。
▽総合型・大学病院本院:79施設
▽総合型・ナショナルセンター:1施設(国立国際医療研究センター病院)
▽総合型・その他病院:1施設(聖路加国際病院)
▽特定領域型・ナショナルセンター:3施設(国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、国立循環器病研究センター)
▽特定領域型・その他病院:4施設(がん研究会有明病院、静岡がんセンター、大阪国際がんセンター、愛知県がんセンター)



もっとも医学・医療の高度化が進み、例えば▼一般病院(特定機能病院以外)でも高度医療実施が増え、「大学病院を上回る診療実績を持つ一般病院」が現れてきている▼大学病院本院の中でも診療や研究に係る実績等にバラつきがある—ことなどが明らかになってきており(関連記事はこちらこちら)、大学病院本院をはじめとする「特定機能病院の承認要件等を見直していくべきではないか」という議論が検討会で進められています。

その際、「高度医療提供」などの現在の考え方に沿えば「高度医療実施の要件をより厳格化していく」方向が考えられそうですが、検討会では「医療内容(高度医療実施)よりも、地域医療の確保を重視した要件を考えていくべき」という意見、より具体的には「大学病院本院には、他の病院にはできない『医師派遣の機能』を高めてもらい、それによって地域医療の確保を図ってほしい」という意見が大勢を占めています。

「医師偏在」が我が国医療提供体制の大きな課題とされる中、医育機関であり、医師免許取得後の研鑽(臨床に携わるための2年間以上の臨床研修、専門医資格を取得するための3年以上の専門研修)を行う場でもある大学病院本院から、「医師少数区域の医療機関」や「医師少数区域の医療機関に医師を派遣する地域の中核病院」などにより積極的に医師を派遣してほしいという関係者の強い思いが議論の背景にあると言えます。また「新たな地域医療構想等に関する検討会」でも、大学病院本院に「医師派遣機能」を求める方向で議論が進められており(こちらこちら)、また尾形裕也構成員(九州大学名誉教授)は「新地域医療構想では『医療機関機能』報告が求められることとなり、大学病院本院について『地域で果たしている役割』がさらに重視される」ともコメントしています。。

こうした声を踏まえ、厚生労働省医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室の松本晴樹室長は「大学病院本院による医師派遣」実績について、次のようなデータを紹介しました。なお、下記のデータでは「医師派遣」と「論文数」との間には、明確な相関関係は見いだせません。

▽大学附属病院本院からの常勤の医師派遣については、「100人以下の病院」が2割程度ある一方で、「1000人以上の病院」も2割程度あるなど、ばらつきが見られる

大学病院本院の医師派遣実績にはバラつきがある(特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会1 241127)



▽都道府県内に所在する大学附属病院本院の数が増えるごとに、医師派遣実績は低下する傾向にある

▽医師少数区域への派遣は、1大学附属病院本院の都道府県で多い

1県1医大の病院では、医師少数区域への医師派遣が多い(特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会2 241127)



▽医師少数区域への医師派遣についても、「非常に少ない病院」が3分の1程度存在する一方で、「多数の派遣」を行っている病院も一部存在する。

大学病院本院の医師少数区域への医師派遣実績にはバラつきがある(特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会3 241127)



▽「医師1人当たりの医師派遣」の状況を見ても相当程度のバラつきがある

「医師1人当たり」でみても、大学病院本院の医師派遣実績にはバラつきがある(特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会4 241127)

「医師1人当たり」でみても、大学病院本院の医師少数区域への医師派遣実績にはバラつきがある(特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会5 241127)



検討会における要請、医師派遣の実績を踏まえれば、大学病院本院にかかる特定機能病院の承認要件の中に、新たに「医師派遣の実績」を盛り込むことが考えられ、多くの構成員もこの方向を歓迎しています。

もっとも、一律に「医師派遣実績を年間●名以上」という新基準を設けることは「ちょっと乱暴である」旨の意見も多数出ています。

例えば、▼「地域の中核病院に派遣する場合」「それ以外の中小病院に派遣する場合」など、派遣先医療機関の特性を踏まえた検討が必要である(吉村健佑構成員:千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センターセンター長/特任教授)▼医師が「派遣先でどう活躍したか」、大学病院本院と都道府県との連携など、「大学病院本院が地域医療をどう守るか」という視点を重視すべき(泉並木構成員:日本病院会副会長)▼医師派遣の多くは「診療科単位」でなされると思うが、「大学病院本院として、つまり病院単位での医師派遣体制」構築を促す視点が重要であろう(猪口雄二構成員:全日本病院協会会長)▼「何科の医師を派遣したのか」など派遣内容を細かく見て評価していくとよいのではないか(山崎元靖構成員:神奈川県健康医療局医務担当部長)▼医師派遣は大学病院本院の重要な機能で、一定のレベル(実績)を求めるべきであるが、一方で「大学病院本院も、そこで働く医師も疲弊している」点も勘案すべきである(上田茂座長代理:日本医療機能評価機構専務理事)▼医師派遣の中身・態様(一定期間赴任するのか、外来支援のみなのか、など)を整理して考えるべき(松田晋哉座長:産業医科大学医学部公衆衛生学教室教授)—などが目立ちます。

大学病院本院を「都市部」「地方部」等の類型を設け、各々に要件設定してはどうか

ところで、上述のように「医師派遣実績にバラつきがある」背景には、大学病院本院が「都会にあるのか、地方にあるのか」「都道府県内に複数の大学病院本院がある地域か、1医大の地域か」などの地理的要因が大きく関係していそうです。

上記データからは「医師少数区域への医師派遣は、1県1医大である大学病院本院で多い」ことが分かっており、当該大学病院本院が「地域医療を守るのは自院である」という強い責任感を持っていることが伺えます。

しかし、派遣できる医師数は病院の規模に大きく左右されるため、「医師が極めて多く在籍する大規模な病院」を念頭に「医師派遣実績の基準値」を設定すれば、小規模な地方の大学病院本院は基準をクリアすることが難しくなるでしょう。一方、「医師数が限られる小規模な病院」を念頭に基準値を設定すれば、「大規模病院にとって極めてクリアしやすい」、言葉を選ばずに述べれば「あまり意味のない」基準値となってしまいかねません。

そこで、これまでも検討会で議論されているように「大学病院本院を類型化し、類型ごとに基準値を設定する」ことなどを検討すべきとの意見も多くの構成員から出されています。例えば、上述のように大学病院本院が「都会にあるのか、地方にあるのか」「都道府県内に複数の大学病院本院がある地域か、1医大の地域か」などの地理的要素を勘案して、▼大学病院本院A群(都市部等で都道府県内に複数の大学病院本院がある地域に所在する大学病院本院のグループ)では、医師派遣実績を厳しく設定する▼大学病院本院B群(地方等で、1県1医大の大学病院本院のグループ)では、医師派遣実績を緩めに設定する—ことなどが考えられるかもしれません。また、上述のように「派遣の内容」「派遣先病院の特性」などを組み合わせた基準値の設定も有用でしょう。この「大学病院本院の類型化」は、医師派遣機能に限らず、他の高度医療提供機能、医師等育成機能、高度医療研究機能についても同様に考えることができるでしょう。

この点、村松圭司構成員(産業医科大学医学部公衆衛生学教室准教授)は「どういった指標・要素に基づく分類が妥当か主成分分析を行ってはどうか」と提案しています。



また「新たな医師派遣機能」要件以外(高度医療提供機能、医師等育成機能、高度医療研究機能)の見直しについても、たとえば▼「臨床研修医受け入れ要件」については「都道府県の臨床研修医受け入れ枠削減」の要素なども加味し、「大学病院本院の自助努力でクリア可能なもの」を考えていくべき(吉村構成員)▼大学病院本院には「看護師の育成、スキルアップ」機能も期待され、たとえば「特定行為研修機関であること」なども要件化を検討すべき(吉川久美子構成員:日本看護協会常任理事)▼各メディカルスタッフの配置数なども要件化を検討すべき(川上純一構成員:日本薬剤師会副会長)▼各定量基準(先進医療実績、査読付き英語論文数、研修医数)について、大学病院本院の規模の要素を排除するために「医師1人当たり、医師100人当たり」などで設定することを検討すべき(村松構成員)—などの意見も出ています。

このほか、松本医療安全推進・医務指導室長は「論文数について、現在は『first author(筆頭著者)としての実績』を見ているが、『CRC、ARO、倫理審査等の体制や国際共同治験を含む多施設共同研究等への貢献などで、筆頭以外の著者(second author以降)として評価されている場合』なども含めることをどう考えるか」

こうした意見・提案を踏まえて、次回以降に「具体的な承認要件案」(大学病院本院を特定機能病院として承認する際の要件案)が厚労省から示される見込みです。この承認要件案が示されれば、検討会論議がより具体的に進んでいくと期待されます。

なお、保険者(医療費の支払者)の立場で参画する松本真人構成員(健康保険組合連合会理事)は「地理的要素を考慮した類型化方向は理解できる。ただし、現状追認で要件を設定するのではなく、『大学病院本院の役割は何か、どの程度の機能を果たしてほしいのか』という目標にもなる基準を設定すべき。その際、一般病院による高度医療技術実績なども向上していく点も勘案すべき」と注文を付けています。

大学病院本院は「地域を守る病院」、その機能果たすための財政的裏付け求める声も

このように大学病院本院の機能について、従前、一般国民が抱いていた「高度な医療を提供する病院」というイメージから、「高度医療の提供のみならず、医師派遣などを行い地域医療を守る病院」へと少しずつ変容していくと考えられます。

この点に関連し、相良博典構成員(昭和大学病院病院長)や門脇則光構成員(香川大学病院病院長)、松田座長、文部科学省高等教育局医学教育課の俵幸嗣課長らは「大学病院本院には、診療・研究・教育に加え、さらに医師派遣など非常に多くの役割が求められる。一方、医師働き方改革で大学病院本院の勤務医は多忙を極め、物価・人件費高騰で『診療』に力を入れざるを得ず、『研究』機能が弱くなってきている。研究を支援する人材確保などが必要であり、そのための財政的手当、経済的サポートなども考えてほしい」と要望しています。



なお、東京女子医大病院や群馬大学病院などの不適切事例に端を発し、大学病院本院をはじめとする特定機能病院には「特別の医療安全体制確保」が求められています。しかし、この取り組み状況にはバラつきがあるとも指摘されており、厚生労働科学研究で特定機能病院の医療安全管理体制や活動内容の現状把握が行われます。この研究結果如何によっては(看過できない問題が確認されるなど)、「医療安全に関する要件見直し」論議に発展する可能性もあります。



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