特定機能病院に第三者評価を義務付けるべきか―特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会(2)
2019.5.6.(月)
特定機能病院に対し、日本医療機能評価機構などの第三者機関の評価・認証を義務付けるべきか。その際、受審の義務付けにとどめるべきか、あるいは認証までを義務付けるべきか―。
4月25日に開催された「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」(以下、検討会)では、こういった議論も行われました(関連記事はこちら)。
特定機能病院のガバナンス・医療安全体制をさらに強化する必要
東京女子医科大学病院と群馬大学附属病院で重大な医療事故が発生した点への反省から、2017年の医療法改正などで、▼ガバナンスの強化(外部監査委員会の設置など)▼医療安全体制の強化(副院長をトップとする医療安全管理部門の設置など)―特定機能病院の体制強化が図られました(関連記事はこちら)。
また日本医療機能評価機構では、特定機能病院に特化した受審プログラム(一般病院3)を新設。「一般病院2」プログラムに比べて、審査体制を厳格化する(審査日数も長く、評価者(サーベイヤー)数も多くなる)とともに、▼ガバナンスの仕組みが設けられ、実践されているか(病院幹部の選任過程、幹部の監督・評価の仕組み」などを評価)▼高度の医療安全確保の取り組みがなされているか(管理者・医療安全管理責任者・各部門が連携した医療安全の取り組みが実際されているか、各部門や病棟のラウンド調査やカルテビューなどで評価する)―といった評価項目が追加されています。
この「一般病院3」プラグラムは2018年4月から運用され、現在、19の特定機能病院が受審し、すでに7病院(静岡県立静岡がんセンター、名古屋市立大学病院、大阪国際がんセンター、長崎大学病院、獨協医科大学病院、和歌山県立医科大学附属病院、九州大学病院)が認定を受けています。
ところで、現在の特定定機能病院の指定要件を見ると、「第三者機関による評価を受けていることが望ましい」旨の規定があり、第三者評価は「義務」となっていません。この点について国会(参議院)では、2017年の医療法改正にあたり「広域を対象とした第三者による病院の機能評価を承認要件とすること」を付帯決議しています(いわば国への宿題)。これを受け、検討会では「第三者評価を承認要件とすべきか」(つまり義務化すべきか)が重要論点の1つに浮上しているのです。
ただし、一口に「第三者評価の承認要件化」と言っても、その中には様々な論点が含まれます。
まず、「受審」を承認要件とするのか、それとも「認定」までも求めるべきかという論点があります【ここでは論点1とする】。
また、「第三者機関」の範囲をどこまでとすべき、という論点もあります【同じく論点2】。
さらに、仮に「認定」を承認要件とした場合、【論点2】とも関連しますが、第三者機関の運用や評価体制・評価内容などを国が監視指導すべきではないか、という論点も出てくるでしょう【同じく論点3】。
あわせて、「認定」を承認要件とした場合、認定された特定機能病院が医療安全上の重大事故を起こしてしまった場合、「第三者機関の責任」はどうなるのか、という論点も出てくるかもしれません【同じく論点4】。
4月25日の検討会では、まず【論点1】について「受審にとどめるべき」「認定を求めるべき」という意見の両方が飛び交いました。
「一般病院3」プログラムの策定にも携わった相澤孝夫構成員(日本病院会会長)は、「受審を通じて外部からの指摘を受け、自院の体制を見直し、医療の質を高めていくプロセスが重要である。認定までも求めれば、その本来目的が果たせなくなることも考えられる」と指摘。また、特定機能病院の管理者でもある坂本哲也構成員(帝京大学医学部附属病院病院長)も「受審し、改善に取り組むプロセスが重要である」とし、「受審を承認要件とするにとどめるべき」との考えを述べました。
一方、小熊豊構成員(全国自治体病院協議会会長)は「受審して問題が見つかったとしても、それを放置することも可能としたのでは好ましくない。認定を求めるべきではないか」と指摘。
また論点2の「第三者機関」の範囲については、前述した日本医療機能評価機構のほかに、例えば「ISO9001」や「JCI認証」(Joint Commission International)などもありますが、「特定機能病院に求められる役割を、十分に評価できる評価体制・内容となっているのか」などを見ていく必要がありそうです。中村康彦構成員(全日本病院協会副会長)は「JCIでは、看護師が賄賂を受け取っていないか、偽薬混入対策は十分かなど、我が国の医療にはマッチしていない項目も少なくない。この点、日本医療機能評価機構の『一般病院3』プログラムは特定機能病院評価に向けて相当程度完成されてきている」との考えを示しています。
さらに論点3や論点4は、「認定」を承認要件とした場合の「法的効果」に関係するものです。仮に「認定」を承認要件とした場合、その第三者機関について「公平・公正に運用されているのか」「評価項目は医療法等の求めるものとなっているのか」などを公的に(つまり国が)担保することが必要となるでしょう(極論すれば、賄賂等によって認定が買えてはいけない)。また、認定病院が医療安全上の重大事故を起こした場合、「認定を出した第三者機関」は、当該事故の責任(損害賠償責任)の一端を担わなくてよいのか(認定にミスがあったのではないか)という問題も出てきそうです。島崎謙治構成員(政策研究大学院大学教授)は「法的効果を明確にしたうえで、承認要件を『受審』にとどめるべきか、『認定』まで求めるべきかを考える必要がある」と指摘しています。
厚生労働省は、こうした各論点の関係などを整理し、今後の議論の供する考えを示しています。仮に「認定」を承認要件とすることとなった場合には、医療法を改正する必要も出てきそうです。
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