特定機能病院、「第三者評価の受審」「改善状況の公表」を承認要件に―特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会
2019.8.23.(金)
特定機能病院の承認要件として、新たに「第三者評価の受審」と「第三者評価で指摘された改善事項に関する取り組みの公表」を追加する―。
8月23日に開催された「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった方針が固まりました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
検討会では、すでに地域医療支援病院の承認要件見直し内容(都道府県が独自にプラスアルファ要件を設けることを可能とする)も固めており(関連記事はこちら)、今後、両者の具体的な制度設計(特定機能病院については医療法施行規則(厚生労働省令)の見直し、地域医療支援病院については医療法の見直し)が進められます。
特定機能病院のガバナンス・医療安全管理を評価し、必要な改善を求める
検討会では、昨年(2018年)11月から地域医療支援病院と特定機能病院の承認要件の見直しに向けた議論を行ってきました。地域医療支援病院の承認要件については、すでに6月26日の会合で「都道府県が独自にプラスアルファ要件を設けることを可能とする」方針が固められています(関連記事はこちら)。
一方、特定機能病院については、重大な医療事故が相次いだことなどを踏まえ、医療安全や管理者(院長等)のガバナンスについて「第三者評価を受ける」ことを承認要件に追加してはどうか、という検討が進められてきました。
東京女子医科大学病院や群馬大学附属病院での医療事故への反省から、2017年の改正医療法などで、特定機能病院について▼ガバナンス強化(外部監査委員会の設置など)▼医療安全体制の強化(副院長をトップとする医療安全管理部門の設置など)―などの体制強化が図られました(関連記事はこちらとこちら)。
さらに、この改正医療法を審議した国会(参議院)では、「(日本医療機能評価機構などの)第三者評価を特定機能病院の指定要件に加える」旨の付帯決議(言わば行政への宿題)を採択。
これと並行して日本医療機能評価機構では、特定機能病院の▼ガバナンス体制▼医療安全体制―なども評価する「新たな受審プログラム」(一般病院3)を設け、昨年(2018年)4月から運用を始めています。すでに19の特定機能病院が受審し、7病院(静岡県立静岡がんセンター、名古屋市立大学病院、大阪国際がんセンター、長崎大学病院、獨協医科大学病院、和歌山県立医科大学附属病院、九州大学病院)が認定を受けています(12病院は「改善」に向けて取り組み中)。
こうした状況を踏まえ、検討会では「第三者評価を特定機能病院の指定要件に加える」方向で議論を進めましたが、そこでは▼第三者評価の「受審」を要件とすべきか▼第三者評価機関からの「認定」までも要件に含めるべきか―が大きな論点となりました。前者の「受審の要件化」では、「改善が必要な項目が放置されはしないか」との懸念がある一方で、後者の「認定の要件化」では、「国が第三者評価を行う機関を決定し、監督する」仕組みの創設が必要となってきます。
もっとも、前者の「受審の要件化」であっても、受審に当たり医療機関が体制・業務の再検証を行うことになり、それだけでも「大きな前進」と言えます。さらに厚労省は、「我が国の第三者評価は、行政とは異なる、プロフェッショナルオートノミーの中で『医療機関の自主的な質向上に向けた取り組み』を支援する形で発展してきた。認定までも要件化するのでは、第三者評価機関を国が監督しなければならず、第三者評価の質が変化してしまう(行政の評価と同一に変質してしまう)」ことを危惧。特定機能病院が医療の質向上に向けて「自主的に」取り組む環境を維持するために、「受審の要件化」が好ましいとの考えを示しました(関連記事はこちら)。
ただし、「改善が必要な事項」を放置することは許されないため、併せて「第三者評価において『改善すべき』と指摘された事項に対し、どのような取り組みを行っているのか」を公表してもらう考えも提示されています(関連記事はこちら。
こうした厚労省提案に対し、6月26日の検討会では、特定機能病院の管理者として参画する金澤右構成員(岡山大学病院病院長)から、「特定機能病院に高度なガバナンス体制の確保、高度な医療安全が強く求められていることは十分に承知しており、その方向に向けて努力している。ただし、特定機能病院は非常に厳しい状況に置かれていることを理解してほしい」と「待った」がかかっていたのです(関連記事はこちら)。
厚労省はその後も調整を続け、今般、改めて次のような「特定機能病院の承認要件見直し」案を提示しました。従前と同じ内容です。
▽第三者評価機関(特定機能病院の医療安全管理体制等を評価できる機関、特定機能病院が選択できる)を『受審』する
▽第三者評価機関から指摘された事項(改善が必要な事項)へ対応するよう努力し、「審査状況」「指摘を受けた改善策」を公表する
8月23日の検討会では、この内容(従前と同じ内容)が承認されており、特定機能病院サイドが「社会の期待・要請」(ガバナンス・医療安全のさらなる強化)を十分に汲んだ格好と言えるかもしれません。ただし、金澤構成員は「例えば、大学では教官が学生を評価すると同時に、学生が教官を評価する仕組みも構築されている。第三者機関が特定機能病院を評価すると同時に、特定機能病院側が第三者機関を評価する仕組みも検討すべきである」と提言しています。
なお、第三者評価機関の指摘事項のうち「特定機能病院の要件に係る事項」への対応状況については、地方厚生局等による毎年の立入検査でも確認され、「改善」が担保されることになります。
第三者評価を受審していない7つの特定機能病院、早急に受審準備を
厚労省は、検討会の取りまとめを受け、近く特定機能病院の承認要件を規定する関係省令(医療法施行規則)の改正を行います。したがって、「特定機能病院に評価する第三者評価」を受けていない病院は承認要件を満たさないこととなるため、速やかに第三者評価を受審することが求められます。第三者評価機関の1つである医療機能評価機構の評価を受審していない特定機能病院は、メディ・ウォッチの調べでは、現在7病院(▼岩手医科大学附属病院(岩手県)▼防衛医科大学校病院(埼玉県)▼千葉大学医学部附属病院(千葉県)▼山梨大学医学部附属病院(山梨県)▼近畿大学病院(大阪府)▼大分大学医学部附属病院(大分県)▼鹿児島大学病院(鹿児島県)―)あり、受審に向けた準備を早急に進める必要があります。
また、医療機能評価機構の一般病院2(一般病院を対象)で評価を受けている特定機能病院は、評価期限の到来に合わせて、『一般病院3』(特定機能病院を対象)での評価を受けなおす(切り替える)、ことになる見込みです。
詳細は、今後公布される「医療法施行規則」や、関係通知を待つ必要があります。
ところで、ガバナンス・医療安全の確保に関しては、「現在の第三者評価の内容(例えば日本医療機能評価機構の一般病院3)で完璧である」ものではなく、さらに「第三者評価の受審、改善事項の公表だけで完全にカバーできる」ものでもありません。
このため検討会では、日本医療機能評価機構に対し、「特定機能病院の医療安全管理体制やガバナンス体制が診療現場で機能しているかを重点的に確認できるよう、運用実績を踏まえ、改善に取り組む」ことを要望。併せて、検討会として今後、▼「第三者評価が特定機能病院の医療安全管理・ガバナンスの質改善に寄与するか」を、運用実績を踏まえ検証していく▼特定機能病院のあり方について、要件の定着状況(2016・18年にも要件追加)や、第三者評価の運用状況を踏まえ、「更新制」の是非も含めて検討していく―ことを確認しています。
この点、中川俊男構成員(日本医師会副会長)は、「特定機能病院は、我が国における『医療の砦』であることを踏まえ、それにふさわしいガバナンス・医療安全体制が確保されるような第三者評価の仕組みをさらに検討してほしい」と強調しました。
なお、「地域医療支援病院」の承認要件見直し(都道府県が独自にプラスアルファ要件を設けることを可能とする)については、医療法の改正が必要です。今後、厚労省で法改正内容等を精査し、改正法案の提出タイミングなどを探っていくことになります(最短で「来年の通常国会に医療法改正案を提出する」ことが考えられる)。
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