すべての地域医療支援病院が医師派遣等の医師少数区域支援機能を持つべき―特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会(1)
2019.5.3.(金)
地域医療支援病院の在り方・機能・要件について「地域の実情」を踏まえられる形とすることはできないか。また、経過措置を設けたうえで、「医師派遣機能」をすべての地域医療支援病院に求めることとしてはどうか―。
4月25日に開催された「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました(関連記事はこちら)。
2020年4月以降に臨床研修を実施する医師では、医師少数区域での6か月以上の勤務経験を「認定」し、その認定資格を「医師派遣機能を持つ地域医療支援病院」の管理者(院長等)要件とする仕組みが設けられます。すべての地域医療支援病院に医師派遣機能が付与されれば、医師少数区域での勤務経験のない医師は、事実上、地域医療支援病院の管理者に就任できないこととなります。今後の議論に注目が集まります。
地域医療支援病院の要件、「地域の独自性」をどこまで認めるべきか
検討会では、地域医療支援病院と特定機能病院の承認要件を検討します。4月25日の会合では、▼地域医療支援病院の見直し▼特定機能病院の第三者評価―の2点が議題となりました。本稿では前者の「地域医療支援病院」に焦点を合わせてみます(特定機能病院については別稿でお伝えします)。
地域医療支援病院は、1997年の第3次医療法改正において「かかりつけ医を支援する病院」として創設されました。現在、(1)紹介患者への医療提供(かかりつけ医への逆紹介も含む)(2)医療機器の共同利用(3)救急医療の提供(4)地域の医療従事者への研修の実施―という4つの役割・機能が求められ、それぞれが「承認要件」に落とし込まれています(すべての要件を満たさなければ地域医療支援病院として承認されない)。
しかし医療現場では、「同じように、地域医療を支援する機能を果たしているにもかかわらず、地理的な事情により、ある病院では紹介率などの要件を満たせずに地域医療支援病院となれず、診療報酬上の評価も低い」といった不公平がある、などといった課題が指摘されています。
厚生労働省は、こうした課題を解決するために、「地域の実情に応じて地域医療支援病院の機能要件を追加できる」仕組みとしてはどうか、と提案しました。例えば、各地の地域医療構想調整会議での協議を経て、「当該地域では●●機能を果たしていることも求めよう」などと追加要件を設けるイメージです。
この提案に対し、検討会でさまざまな意見が出されています。地域医療支援病院の運営者でもある相澤孝夫構成員(日本病院会会長)は「地域医療支援病院に期待される機能は地域で大きく異なっている。これまでのように1つの地域医療支援病院がさまざまな機能を総合的に持つ形とするのか、あるいは地域医療支援病院に類型を設け、地域の実情に合わせて整備を進めるのか、慎重に検討する必要がある」と指摘。松田晋哉構成員(産業医科大学教授)も、「現在は基準を満たしている病院からの申請を拒否できず、過剰になっている地域もある。地域独自の承認基準を検討すべき」との考えを示しています。
もっとも、厚労省は「追加機能を地域で独自に設定する」考えを示していますが、相澤構成員らは、より広範に「承認基準そのものについて一定程度の地域の独自性を認めるべき」と考えている点が異なっていると言えます。
ただし、後述するように地域医療支援病院は診療報酬上の評価とも密接に関連しており、「地域の独自性」と「全国一律の診療報酬」との関係をどう整理するのかも、今後の重要な論点となる可能性があります(診療報酬の議論は中央社会保険医療協議会で行う)。
なお、地域医療支援病院の類型化・細分化を進めていけば、「地域医療支援病院という位置づけをやめ、診療報酬で個別の機能を評価していけばよいのではないか」との考えにもつながっていきます。
現在、(1)紹介患者への医療提供(かかりつけ医への逆紹介も含む)(2)医療機器の共同利用(3)救急医療の提供(4)地域の医療従事者への研修の実施―という4つの役割・機能を、診療報酬ではA204【地域医療支援病院入院診療加算】(入院初日に1000点)として評価しています。
これを類型化・細分化していくのであれば、例えば救急医療については【救急医療管理加算】で、機器の共同利用については別途の加算を設ける形で個別機能を評価すれば、「要件を満たさないために地域医療支援病院になれないという不公平を解消できる」と中川俊男構成員(日本医師会副会長)や島崎謙治構成員(政策研究大学院大学教授)は主張しています。ただし、この場合、「地域独自の基準」とは馴染みにくくなる点にも留意が必要です。
医師派遣機能などをすべての地域医療支援病院が果たし、医師偏在対策を推進
今後の医療提供体制改革では、▼医師の働き方改革▼医師偏在対策▼地域医療構想の実現―をいわば「三位一体」として進めていくことが求められます(関連記事はこちら)。このうち「医師偏在」対策の一環として、改正医療法において「医師少数区域等に一定期間勤務(6か月以上)することで地域医療への知見を持った医師」を厚生労働大臣が認定し(認定医師)、一定の病院では『認定医師であることを管理者・院長の要件』とする」といった仕組みが設けられました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
対象となる病院は「医師派遣・環境整備機能を有する地域医療支援病院」とされ、具体的な対象を検討会で議論することになっています。
この点について、厚労省は、「73.7%の地域医療支援病院では、医師派遣や巡回診療など、なんらかの医師少数地域支援を行っている」との調査研究結果を踏まえ、地域医療支援病院の新要件として(1)医師少数区域等における巡回診療(2)医師少数区域等の医療機関への医師派遣(代診医派遣を含む)(3)総合診療部門をもち、プライマリケア研修・指導機能―のいずれかを求める、こととしてはどうかと提案しました。
これは「すべての地域医療支援病院が、医師派遣機能等を持つ」ことにつながり、すなわち、すべての地域医療支援病院で「認定医師でなければ管理者となれない」ことを意味します(ただし、2020年4月から臨床研修を受ける医師が対象)。
この提案には明確な反論は出ておらず、小熊豊構成員(全国自治体病院協議会会長)らは歓迎の意を示しています。今後、さらに具体的に議論していくこととなるでしょう。
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