大学病院本院の「医師育成」機能重視した評価が必要、機能・実績等に応じた「類型化」も検討―特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会
2024.8.21.(水)
特定機能病院の中心とも言える「大学病院本院」については、診療実績だけでなく、「医師育成」機能や「医師派遣」機能なども勘案した多軸で特定機能病院としての機能・役割を見ていくことが必要かつ重要であろう—。
ただし、特定機能病院が自動的に特定機能病院として保護される仕組みは好ましいとはいえず、「大学病院本院を機能・役割や実績などに応じて類型化して評価する」ことも検討すべきではないか。その際、「名古屋大学-岐阜大学の連携」なども参考に、大学病院本院間の連携やさらには統合などの方向も検討すべきではないか—。
こうした議論が8月20日に開催された「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」(以下、単に検討会とする)で行われました。年内(2024年内)の意見とりまとめを目指し、さらに議論が深められます。
大学病院本院の「医師育成」機能を重視すべき
特定機能病院は、「高度医療の提供」「高度医療技術の開発」「高度医療に関する研修」の3つの役割を果たすことが求められ、それを踏まえた承認要件が定められています。しかし、▼一般病院でも高度医療実施が増える中で、特定機能病院の役割・機能・承認要件をどう考えるべきか▼特定機能病院の中には「大学病院本院」「総合型ナショナルセンター」「その他総合型」「特定領域型ナショナルセンター」「その他特定領域型」の区分があるが、役割・機能・承認要件をどう考えるべきか▼大学病院本院の中にも診療内容等にバラつきがあり、役割・機能・承認要件をどう考えるべきか—という指摘があります(関連記事はこちら)。
8月20日の検討会では、▼まず特定機能病院に求められる機能・役割を整理しなおす▼そのうえで大学病院本院に求められる機能・役割、承認要件を議論する▼さらに他の類型の特定機能病院に求められる機能・役割、承認要件を議論する—方向を確認しました。
まず、「大学病院本院」を他の病院と切り分けて機能・役割、承認要件などを考えていく点について見ていきましょう。
「一般病院でも高度医療実施が増え、大学病院を上回る診療実績を持つ一般病院が現れてきている」現状があります。厚生労働省医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室の松本晴樹室長が2022年度DPCデータを分析したところ、▼27の大学病院本院が「県内の一般病院と同程度、あるいはそれに劣る診療実績」である▼うち6病院のみが「1県1医大」の病院である—ことが分かりました。高度医療提供といく側面だけを見れば、「大学病院本院を特別視する」ことは適切でないようにも思えます。
しかし、「大学病院本院」には、▼医師養成機能▼医師派遣機能—などの点で、他の病院と比べて大きな違いがあります。この機能・役割を無視すれば我が国の医療提供体制が崩壊してしまいます。また、医師養成・医師派遣には大きなコストもかかることから、DPC制度でも「医育機関」である大学病院本院は、他病院と異なる位置づけ・評価がなされています。
このため検討会では、「最低限『1県医大』の体制を守ることが必要である。診療実績のみで大学病院本院が特定機能病院からふるい落されることがあってはならない。ただし、大学病院本院を上回る地域の中核病院がある中で、それらと大学病院本院とをどう差別化するかを考えていく必要がある」(泉並木構成員:日本病院会副会長)、「高度医療提供などは特定機能病院にとって重要な役割であるが、それは医師養成をして初めて実現できる。大学病院本院の診療面だけを見て特定機能病院からドロップするようなことがあれば、大学医学部が成り立たなくなってしまう」(今村英仁構成員:日本医師会常任理事)、「臨床や研究(論文数)に力を入れる一般病院が増えてきているが、それらと大学病院本院との大きな違いは、卒前・卒後のシームレスな教育体制の有無である」(相良博典構成員:昭和大学病院病院長)、「いわゆるマイナー診療科(検査、病理、リハビリ、耳鼻咽喉科、形成外科、脳神経外科など)の専門研修プログラム(専門医を養成する研修プログラム)が大学病院本院にしかない県もある。ここを重視すべきであろう。そこを無視すれば『●●県では脳神経外科の専門医を育成できない』という事態に陥ってしまう」(山崎元靖構成員:神奈川県健康医療局医務担当部長)などの意見が多数出されています。
大学病院本院の機能・役割や実績に応じた「類型化」も検討すべきではないか
もっとも「大学病院本院が自動的に特定機能病院となる」ことを疑問視する声も出ています。
例えば、長尾能雅構成員(名古屋大学医学部附属病院副病院長)は「大学病院本院が胡坐をかくような、大学病院本院を保護するような議論、仕組みは好ましくない。大学病院本院が自動的に特定機能病院であり続けられる仕組みとすれば、パフォーマンスが落ちる懸念もある。私は特定機能病院には『地域医療のハブとしての機能』が求められると考えている。名古屋大学医学部では、岐阜大学医学部と連携を始め、必要な機能の維持に努めている。一方、狭い地域に特定機能病院が密集しているケースもある」と指摘。
また、松本真人構成員(健康保険組合連合会理事)は「大学病院本院であっても、一般病院に比べて急性期医療の提供実績が低いところや、研究や教育に差があることも分かっている。大学病院の集約化なども検討する必要があるのではないか」との考えを提示。さらに吉村健佑構成員(千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センターセンター長/特任教授)も「大学病院の集約化・広域化を目指すべき方向として検討すべきではないか。人口100万人に満たないエリアでは、症例集積が難しく、専門医養成が困難になる」とコメントしています。
この視点に立って長尾構成員は「大学病院本院の類型化」などを検討すべきではないかと提案。関連して松本構成員も「すべての大学病院本院を同じ基準・要件で評価するのか、大学病院本院であっても機能や診療実績で色分け(類型化)するのか、診療実績や機能の低い一部の大学病院本院は一般病院と同じ取り扱いとするのか、などを早い段階で判断すべき」と進言しています。例えば「地域」によって、あるいは「診療実績」などによって、「大学病院本院A群、大学病院本院B群」などと類型化し、それぞれに承認要件(基準)を設定するなどのイメージが浮かんできます。ただし「類型化をどのような目的で行うのか、どういった指標で類型化するのか、類型化した後に何に紐づけるのか(診療報酬などに結びつけるのか)などを含めて慎重に検討すべき」(門脇則光構成員:香川大学病院病院長)との指摘も出ています。
このほか、▼医師派遣の状況は、大学病院本院に勤務する医師数に大きな制約を受けるため評価が難しい。大きな大学病院本院であっても、診療科によっては医師が少ないこともある。大学病院本院の評価軸としては『教育』を重視すべき(相良構成員)▼大学病院本院の地域医療への貢献度合いを見ると、例えば2病院ががん診療連携拠点病院や周産期母子医療センターの指定を受けておらず、5病院が災害拠点病院の指定を受けておらず、20程度の病院が救命救急センターの指定を受けていない。地域医療構想の実現に向けた協議の中で決していくべきテーマだが、高度医療を提供する特定機能病院として、そうした機能の確保を目指す方向そのものは重要であろう(山崎構成員)▼医療安全確保のため、医療の質確保のためには医師以外の医療従事者(看護師、薬剤師、歯科医師、その他の医療職種)の育成・研修などにどれだけ力を入れているかをしっかり見ていくべき。承認要件にもそうした点を加味していくべき(吉川久美子構成員:日本看護協会常任理事)▼大学病院の本院と分院との機能・役割分担の状況なども見ていくべき。かつて問題視された「大学病院分院をDPC特定病院群にする(基礎係数を上げ、収益性を上げる)ために、本院の機能の一部を分院に移す」などの事態が生じてはいけない(川上純一構成員:日本薬剤師会副会長)▼特定機能病院の機能・役割と、支払い(診療報酬・補助金等)とは分けて考えるべき。一般から見て特定機能病院に何が求められているのかを重視すべき(村松圭司構成員:産業医科大学医学部公衆衛生学教室准教授)—などの意見も出ています。
こうした意見を総括して松田晋哉座長(産業医科大学医学部公衆衛生学教室教授)は、「大学病院に求められる機能・役割を厚労省で整理し、そのうえで、各病院がそれらの機能・役割をどれだけ果たしているのかを、いわば星取表のような形で示してほしい。大学病院本院は『多軸』で評価していくことが極めて重要である」と厚労省に要請しました。
今後、まず「大学病院本院にどういった機能・役割が求められるのか」を整理し、それを踏まえて「現在、各大学病院はどのような機能・役割を果たしているのか」(星取表)と照らしながら、承認要件や基準値などを模索していくことになりそうです。なお、「現在の機能・役割だけを踏まえた承認要件論議」(つまり現状追認論議)とはならず、「まず大学病院本院に求められる機能・役割はなにか?そのためにどういった承認要件を設定すべきか」という視点で議論が行われる点に留意が必要です。
その際には、長尾構成員や松本構成員の提唱する「大学病院本院の類型化」(大学病院本院A群の承認要件、大学病院本院B群の承認要件といった形での設定など)なども議論の俎上に上がってくる可能性があります。
この類型化に関連して、松本医療安全推進・医務指導室長は次のようなデータも示しています。
▽大学病院本院のうち、2022年度の論文発表等実績(Original article、Case report、Review、Letter、Othersの合計件数)が下位20位の医療機関を見ると、▼1県1医大が7施設(32病院中)で、下位20病院の35%▼1県2医大が6施設(14病院中)で、同じく30%▼1県3医大以上が7施設(33病院中)で、同じく35%―
▽大学病院本院のうち、2022年度の専門研修プログラム(外科)採用数実績が下位20位の医療機関を見ると、▼1県1医大が12施設(32病院中)で、下位20病院の55%▼1県2医大が2施設(14病院中)で、同じく9%▼1県3医大以上が8施設(33病院中)で、同じく36%―
ここからは、▼「1県1医大病院」、つまり地方医大であっても、相当程度が研究や専門医育成に力を入れている▼都市部の医大であっても、研究や専門医養成実績が芳しくないところが相当数ある—ことが伺えます。
今後示される「星取表」では、広範に高度医療の提供実績・教育実績・研究実績の状況が明らかになる見込みで、そのデータも見ながら「大学病院本院を一つの基準で見るべきか、類型化して複数の基準で評価していくか」という論議などが進んでいくとみられます。
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