「新専門医」資格取得を目指す専攻医採用シーリング、「医師少数区域への指導医派遣・専攻医勤務」推進する仕組みへ見直し―医師専門研修部会
2025.1.30.(木)
「新専門医資格の取得を目指す研修」を行う専攻医募集に関して、医師偏在を助長しないように「都道府県別・診療領域別の採用数上限」(シーリング)を設定している—。
このシーリングについて、「指導医を地方へ派遣した実績に応じて採用数を加算する」、「医師少数区域等での勤務をより積極的に進める仕組みを設ける」などの改善を図る—。
1月30日に開催された医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」(以下、専門研修部会)で、こうした見直し方針が概ね了承されました。今後、日本専門医機構と基本領域学会で具体的な「都道府県別・診療領域別の採用数」に落とし込んでいきます。
また併行して「連携プログラム・特別地域連携プログラムを今後、どう考えていくか」という議論・検討も専門研修部会で進められる見込みです。
目次
新シーリングは「通常の基本枠+派遣実績に基づく加算+連携プログラム等」に
2018年度から「新専門医制度」が全面スタートしました。従前の専門医制度には「各学会が独自の基準で専門医を認定しているため、専門医の質担保が難しく、国民に分かりにくい」などの問題点があり、「日本専門医機構と各学会が共同して研修プログラムを作成し、統一した基準で認定を行う仕組み」に改められています。
ただし「専門医の質を追求するあまりに養成施設の要件が厳しくなり、地域間・診療領域間の医師偏在が助長されてしまうのではないか」との不安が医療現場や自治体にあることから、▼日本専門医機構▼学会▼都道府県▼厚生労働省—が重層的に「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みが設けられています。
この「医師偏在の助長を防ぐ」仕組みの1つに「地域・基本領域ごとの専攻医採用数に上限を設ける」仕組み【シーリング】があり、現在は▼都道府県別・診療領域別必要医師数を勘案した上限とする▼医師少数区域での一定期間の研修(=勤務)を推進するための【連携プログラム】、【特別地域連携プログラム】設置を可能とする—といった形となっています(関連記事はこちら)。
この「シーリング」により、「東京など大都市での医師採用が抑制される」という効果が生まれていますが、「医師不足が顕著(医師少数)な東北地方での医師数大幅増」などにまでは至っていません。このため自治体や医療現場(とりわけ地方)から「さらなる医師偏在の是正に向けたシーリングの見直し」要望が強く出されています。
また、コロナ感染症流行下で「シーリング制度のしっかりとした検証・見直しが行われてこなかった」(関連記事はこちら)ことなどもあり、専門研修部会では「2026年度から専門研修をスタートさせる専攻医」の募集・採用(本年(2025年)秋から26年2月頃まで)に向けて「シーリング制度の見直し」論議を行っています(関連記事はこちら)。昨年(2024年)12月13日の専門研修部会では、例えば▼通常プログラムの定員数について、現在の「当該都道府県別・診療領域別の平均採用数」ベースから、「当該診療領域全体の【人口】当たり平均採用数」ベースに見直す▼現在「シーリング外」に設定している特別地域連携プログラムについて、「シーリング内」に設定する▼例えば大学病院等の基幹病院から指導医を地域に派遣した実績を有する場合には、次のような観点での評価(定員の加算)を行う—などの見直し方向が提示されています。
1月30日の専門研修部会では、上記方針に沿った次のような「新たなシーリングの仕組み」案が厚生労働省から提示されました。
(1)診療領域別・都道府県別の専攻医(新専門医資格取得を目指す研修医)募集定員に上限を設ける場合には、その上限は▼通常募集プログラム(基本数)+▼通常プログラムの加算分+▼連携プログラム等+▼その他(配慮分)の合計とする
→「直近過去3年間の平均採用数」が上限となる(現在はシーリングの外に「特別地域連携プログラム」設置が可能だが、シーリング内に設置することになる)
(2)通常募集プログラム(基本数)は「当該診療領域の直近過去3年間の全国専攻医採用数の平均」×「都道府県人口÷全国の総人口」とする(ただし小児科は「15歳未満人口」を使用して計算する)
→現在は「都道府県別・診療領域別の平均採用数」をベースにしているが、「当該診療領域における【人口】当たり平均採用数」ベースに見直す
(3)通常プログラムの加算分は「通常募集プログラム(基本数)の15%」とし、「専門研修指導医の派遣実績」等に応じて各研修施設に振り分ける
→後述のように加算分は「203名」となり、これを「都道府県別・診療領域別に振り分け、さらに各施設へ指導医派遣実績等に応じて振り分ける」イメージ
(4)連携プログラム等は、▼連携プログラム(都道府県限定分、医師充足率80%以下の地域で1年6か月以上の研修(勤務)を行う)+▼連携プログラム(都道府県限定以外分、医師充足率80%以下の地域で1年6か月以上の研修(勤務)を行う)+▼特別地域連携プログラム(医師充足率70%以下の地域で1年以上の研修(勤務)を行う)の合計とする
→「直近の過去3年間の平均採用数」と「(2)+(3)」との差の範囲で連携プログラム等を設置することができる
→「特別地域連携プログラム」は現在、シーリングの「外」に置かれているが、見直し後は「シーリングの中」に設置する
→2026年度には、経過措置として「特別地域連携プログラム」を「連携プログラム(都道府県限定分、都道府県限定以外分)に振り替えることができる
(5)その他(配慮分)は、「(2)から(4)で算出されたシーリング数」<「当該診療領域の全国専攻医採用数(過去3年間平均)の1.7%」となる場合、前回シーリング数を超えない範囲で通常プログラムを追加(通常プログラム配慮分)するもの
本年度(2024年度)にシーリングがかかった都道府県・診療領域のシーリング数は合計2496名で、その内訳は以下のようになっています。
・合計:2496名
・通常募集プログラム:2162名
・連携プログラム等:332名(うち連携プログラム(都道府県限定分):73名、連携プログラム(都道府県限定以外分):217名、特別地域連携プログラム:42名)
これを上記(1)から(5)の見直しを行うと以下のように計算されます。
・合計:2606名
・(2)の通常募集プログラム(基本数):1900名
・(3)の通常プログラムの加算分:203名
・(4)の連携プログラム等:469名(うち連携プログラム(都道府県限定分):110名、連携プログラム(都道府県限定以外分):187名、特別地域連携プログラム:172名)
・(5)の配慮分:34名
大学病院等の「指導医の地域派遣」実績等を新専門医制度の中で評価する
現行シーリングと見直し後シーリングとの大きな違いとして、▼見直し後には「指導医の派遣実績」を加算している▼特別地域連携プログラムについて、現行制度では「シーリングの外」においているが、見直し後には「シーリングの中」に含めている▼採用数が少ない研修プログラムへの「配慮」分が設けられている—点があげられます。
まず「指導医の派遣実績」加算は、「専門研修を行う上で、指導医の存在が極めて重要である」、「専門医確保の前提として指導医の確保が必要である」、「すでに大学病院や地域の基幹病院から、医師少数区域の医療機関へ、専攻医を含めた若手医師を指導する医師が相当程度派遣されている現状を、新専門医制度の中でも何らかの形で評価すべきである」という点を踏まえて設けられたものです。
また、医師偏在対策の中では、ベテラン・シニア医師の協力も仰ぐ必要があることも勘案され、大学病院や地域基幹病院の体力(医師在籍状況)にもよりますが「さらなる指導医派遣の推進」にも期待が集まります。
指導医派遣の定義に関しては、例えば▼派遣先・派遣元が連携している▼専攻医の指導を行うことが可能な形で派遣されている▼シーリング対象外の専門研修施設(新専門医研修を行う施設)へ派遣されている—ことなどがあげられました。
今後、日本専門医機構と厚労省で「実績をどう見るのか」(●年度1年間の派遣医師数を勘案する、常勤・非常勤で重みづけをつける、医師不足が顕著な地域への派遣実績を高く評価する、など)、「将来の派遣意向なども勘案するべきか」などの調整が行われることになるでしょう。
指導医派遣を行えば、短期的には「ベテラン医師が一時的にせよ数名抜けてしまう」ことになりますが、シーリングでの評価(専門医採用枠の加算)がなされるため、中長期的には「優れた医師の確保」につながると期待されます。
なお、この点について医師偏在対策の総合パッケージでは、派遣医師の手当て増などの経済的インセンティブを付与する方針が明示されています。
専攻医採用枠を確保するためには、特別地域連携プログラムなどの拡充が必須要素に
現行シーリングと見直し後シーリングの大きな違いの2つ目が、「特別地域連携プログラムの位置づけ」見直しです。
特別地域連携プログラムは、専攻医に対し例えば「東京の病院で2年間、医師充足率70%未満の地方病院で1年間の専門研修を受ける(=勤務する)」ことを求めるものです。「3分の1の期間は医師少数区域の病院等で勤務する」(例えば15人が特別地域連携プログラムで採用されれば、実質「5人」が医師少数区域の病院等で勤務することになる)ために医師偏在対策に大きな効果が出るのではないか期待されていましたが、「採用数が伸びない」(設置しなくとも採用数が減るわけではない)、「シーリングの外にあるため、東京集中などを助長する可能性もある」などの問題点も指摘されています。
こうした点を踏まえて、今般、特別地域連携プログラムを「シーリングの中に設置する」見直しを実施。これにより「特別地域連携プログラムを積極的に設置・募集しなければ採用枠がどんどん少なくなっていく」ため、基本領域学会・都道府県・日本専門医機構が「特別地域連携プログラムの拡充などに、これまで以上に積極的になる」と期待されます。
もっとも、2024年度の特別地域連携プログラムの採用実績は「42名」であるのに対し、見直し後の特別地域連携プログラム枠は「172名」分となり、4倍近く拡充が必要となります。
このため、日本専門医機構・厚労省等で「連携先病院のリストを連携して作成し、連携先病院(上記例で言えば、医師少数区域での1年間の専門研修を受ける病院)を確保する」ことなどに力を入れことが強く求められます。
また、「2026年度採用分については、特別地域連携プログラムを連携プログラムに振り替える」という緩和措置(2026年度採用は今秋(2025年11月頃)から始まるため、今から連携先を十分に確保することは困難であるため、より設定しやすい連携プログラムへ振り替える緩和措置)も設けられます。
例えば医師少数の都道府県等で「若手医師に来てほしい病院」をリストアップし、それを日本専門医機構・基本領域学会・研修施設などと連携し、「どの基幹病院と、どの地域病院とで連携することが好ましいか」などを2026年の夏頃(2027年度採用に向けたプログラムの決定)までに決定することが求められます。連携先を確保できなければ、上記(4)の「連携プログラム等」枠が徐々に少なくなり、結果「採用総数の減少」につながってしまうため、早急な取り組みが求められます(上記(1)から(5)にあるように「過去3年の採用数」がベースとなるため、採用枠の維持・確保のためには、連携プログラム等の確保が必要不可欠)。
患者代表・国民代表という立場で議論に参画する山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は、このような仕組みを俯瞰して「特別地域連携プログラムが増えていく」ことに期待を寄せています。後述するように、連携プログラム等は「医師偏在の是正」とともに「地域医療を理解する、総合診療能力を獲得する」ために極めて重要であり、積極的な拡充が求められます。
見直し後のシーリングに基づく専攻医採用状況など眺め、改善に向けた検証論議を実施
こうした見直し案に対し「指導医派遣実績の評価は良い視点である」といった歓迎の声が多くの委員から出されています(牧野憲一委員:日本病院会常任理事・旭川赤十字病院院長、花角英世委員:全国知事会・新潟県知事ら)。また、今後に向けて▼どのように医師が都会から地方に動くのか、など今後の検証が重要である(立谷秀清委員:全国市長会・福島県相馬市長、今村英仁委員:日本医師会常任理事)▼指導医の「質」評価も今後の重要な検討テーマになる。特別地域連携プログラムで専門研修を受けた医師の声を聞くことなども重要である(山口委員)▼関西から東北への医師派遣は現時点ではハードル高い(連携が薄い)点なども踏まえた配慮(連携関係が構築されている地域の指導医派遣などを評価する仕組み)も検討すべき(片岡仁美委員:京都大学医学教育・国際化推進センター教授)—といった提案・注文もつきました。さらに自治体サイドから「専門研修施設の指定をまだ受けていないが、指導医と専攻医がセットで派遣されるようなケースへの対応も今後検討すべき」との声も出ています。
なお、(3)の通常プログラムの加算分について、「通常募集プログラム(基本数)の15%」とした背景には、▼加算率が小さすぎれば、連携プログラム等の枠が大きくなり、「日本専門医機構・基本領域学会等において、連携先の医師少数区域等にある病院を確保するための負担も大きくなってしまう」▼加算率が大きすぎれば、通常プログラム(基本分+加算分)が大きくなり、「東京など、都市部で前例踏襲の度合いが高まり、医師偏在是正効果が小さくなってしまう」—という点があります(両者の中間に位置付けた)。
今後、2026年度・27年度と見直しを行ったシーリングをもとに専攻医採用を進め、その結果を眺めながら「通常プログラムの加算率が15%で妥当なのか」などの検証が進みます。
こうした点も参考に、今後、日本専門医機構・基本領域学会を中心に具体的な「都道府県別・診療領域別の採用数」に落とし込んでいきます。
また併行して「連携プログラム・特別地域連携プログラムを今後、どう考えていくか」という議論・検討も専門研修部会で進められる見込みです。連携プログラム・特別地域連携プログラムは、いわば「都会の病院で研修を受けるが、一定期間、医師不足等の地域にある病院で研修を受ける」ことを求めるものです。「医師偏在の是正」や「地域医療を研修医が学び、総合診療能力を身につける」などの点で極めて重要な仕組みですが、さらなる拡充に向けたどういったことが考えられるか、今後の議論に注目する必要があるでしょう。
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