病院の定員1人当たり建設費は2387万円で、2022→23年度に6.3%増加、さらなる建築費上振れなど想定した建築・改築計画を―福祉医療機構
2024.7.2.(火)
病院を建設する際の「定員1人当たり建設費」は、昨年度(2023年度)には前年度から6.3%上昇し、2387万2000円となった。当面の間、建築費が大幅低下することは考えにくく、病院建設や大規模改築にあたっては、「これまで以上に建設費コストの上振れをあらかじめ想定する」「資材不足や人材不足による工期の長期化を見越してスケジューリングする」ことが必要である—。
また特別養護老人ホームの定員1人当たり建設費を見ると、東京などの首都圏では低下しているように見えるが、全国的には依然として高止まりが続いている—。
このような状況が、福祉医療機構(WAM)が6月28日に公表したリサーチレポート「2023年度福祉・医療施設の建設費について」から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前年度(2022年度)の記事はこちら、2021年度の記事はこちら、2020年度の記事はこちら、2019度の記事はこちら、2018年度の記事はこちら)。
物価や人件費等の高騰はもちろん、資材調達そのものが難しくなってきている状況もあり、今後の病院等建設・大規模改築については「計画を慎重に立てる」必要があります(工期の伸びによる建設費の上昇、開設遅れによる収益減などが生じる)。
病院の1人当たり建設単価は2022→23年度に上昇、当面の間、大幅減少は見込めず
昨年度(2023年度)における病院の建設費を見てみると、全体の平米単価は全国平均で41万1000円となりました。前年度から2000円・0.5%上昇しました。2021→22年度にかけていったん下落しましたが、再び「単価増」に転じています。
また病院の「定員1人当たり建設費」を見ると、昨年度(2023年度)は2387万2000円で、前年度に比べて123万1000円・5.4%増加しました。平米単価と同じく「再びの増加」に転じています。
なお、この点について機構では「2023年度のサンプルは回復期機能を中心とする病院の割合が比較的高いことから、平米単価・1人当たり建設費の上昇が実態よりも抑えられたデータとなっている可能性も考えられる」とコメントしています。
病院の1人当たり建設費は2011年度に底(1130万8000円)を打ってから上昇傾向にあります。例えば東京五輪・パラリンピックの開催に伴う建設資材の高騰に加えて、新型コロナウイルス感染症の影響(資材納期の遅延や工事の延期・中断など)、さらに現下の物価・人件費・光熱費高騰、歴史的円安などがその背景にあります。機構では▼物価高騰は沈静化の兆しがみられず、福祉・医療施設の経営状況が悪化している。2024年度診療報酬改定は、プラス改定部分のほとんどが処遇改善に関するものであり、経営状況への影響は不明瞭。医療法人による施設整備をはじめとする投資意欲が抑制されている状況が推察される▼「見積もり」段階で、想定金額との乖離から計画実行に二の足を踏んでいるケースも少なくないと思われる—と見通したうえで、「当面の間、建設費が大きく低下することは考えにくい。施設整備の際には、これまで以上に建設費コストの上振れをあらかじめ想定するなど、様々なリスクを考慮した資金計画を策定するほか、資材不足や人材不足による工期の長期化を見越してスケジューリングすることが必要」とアドヴァイスしています。
このように、病院の新築・改築にあたっては「どのようにコストを抑えるか」という視点が必要不可欠となりますが、そこでは「適切な病床数」の設定も非常に重要な要素となってきます。病床整備が過剰になれば、「空床の発生」→「空床を埋めるための、不適切な入院の発生(在院日数延伸など)」につながり、患者のADL・QOL低下や感染リスクの上昇、医療費の上昇などを招いてしまいます。「病院の規模は適切なのか?病院の機能は適切なのか?」などを、地域の医療ニーズ(中心となるニーズが急性期から回復期・慢性期ニーズに移行していないか)、近隣病院の動向、自院のリソース(医療資源)などを正確に分析し、「自院の適正な機能と規模」を探ることが必要不可欠です。
特養ホームの建築費、首都圏で低下しているように見えるが「全国的に高止まり」続く
また特別養護老人ホーム(ユニット型)について、(1)首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)(2)全国―の地域別に見てみると、次のような状況です。
(1)首都圏
【平米単価】2010年度:21万7000円 →→ 2022年度:34万2000円 → 2023年度:32万6000円(前年度から1万6000円・4.7%減)
【定員1人当たり建設単価】2010年度:869万8000円 →→ 2022年度:1781万9000円 → 2023年度:1377万1000円(同404万8000円・22.7%減)
(2)全国
【平米単価】2010年度:19万9000円 → 2022年度:32万7000円 → 2022年度:34万2000円(前年度から1万5000円・4.6%増)
【定員1人当たり建設単価】2010年度:1003万5000円 →→ 2021年度:1612万1000円 → 2022年度:1508万円(同104万1000円・6.6%減)
機構では、首都圏の特養ホームで建築費減が見られる点・全国と逆転している点について「サンプルにおける定員規模の構成の違いが影響している」との考えを、また1人当たり建築費の動向について「首都圏は平米単価が低下したことに加え、1人当たり面積も小さくなったことから減少幅が大きくなっているが、全国的には依然高止まりが続いている」との考えを示しています。
介護分野のニーズは、ある地域では、今後も増加し続けるが、別の地域では、今後しばらくすると減少に転じるなど、非常に複雑です。地域の介護ニーズを詳しく精査した上で、施設の新設・改築計画を組んでいくことが必要です(関連記事はこちら)。
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