認知症治療薬「レケンビ」(レカネマブ)、保険適用後の販売実績みて「薬価調整」の必要を改めて検討、介護費分析には課題多し—中医協
2023.10.30.(月)
新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))について、市場規模が極めて巨大になる可能性があるが、それを現時点で見通すことはできない。保険適用後の販売実績を見て「薬価調整(引き下げ)の必要性があるかどうか、どのように調整を行うか」を改めて検討してはどうか—。
認知症治療薬ゆえ「介護費用の縮減」効果が期待されるが、現時点では様々な課題があり、研究継続が必要である—。
10月27日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会・費用対効果評価専門部会(合同部会)で、こうした議論が行われました。近く、業界からの意見聴取が行われ、それを踏まえて「レケンビの薬価設定ルール」が固められます。
患者数の見通しが難しく、保険適用後の販売状況見て「薬価調整ルール」を検討
Gem Medで報じているとおり、9月25日に新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))が薬事承認され、市場規模が極めて巨大になる可能性があることなどを踏まえ「特別ルールを設けるべきか否か」という議論が中医協で進められています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
これまでの議論で、概ね次のような方向が固まりつつあります。
▽薬価算定時(当初の薬価設定)には通常ルール(類似薬があれば類似薬効比較方式を採用し、なければ原価計算方式を採用)で対応することとし、詳細は薬価算定組織で判断する(判断理由を中医協に報告する)
▽薬価算定に用いるデータについては、メーカーから提出された資料に基づき「既存のルール」に従って有用性等の評価を行う(「介護費縮減効果」について既存の補正加算では評価する項目はなく、後述するように「費用対効果評価」の中での対応を研究・検討する)
▽薬価基準収載後の価格調整に関しては、▼今後、より簡便な適応・副作用等判定の検査などが登場し、患者が想定よりも増加する可能性がある▼投与期間が長期に及ぶ可能性もある(延べ患者数が増加する)—ことから「特別ルール」の必要性も考えられる。ただし、不確定要素の多い現時点では具体的な特別ルールの検討は困難であり、保険適用後の状況(販売実績など)も見ながら対応が必要となった場合に改めて検討する
▽アルツハイマー型認知症を対象とする別の抗体医薬品を保険適用(薬価基準収載)することになった場合には、必要に応じて中医協で「本剤を含む取り扱い」を改めて検討する
NDB・介護DBのデータ紐づけに当たり「精度」の問題も浮上したが、将来に期待
ところで「レケンビ」については「介護費縮減効果」が期待されます。この効果を「保険適用(薬価基準収載)後の費用対効果評価」の再に勘案するかどうかが重要検討テーマの1つになっています。
この点について10月27日の合同部会では、京都大学医学部附属病院診療報酬センター/病床運営管理部の加藤源太教授から、次のような「介護費用縮減効果に関する課題と検討方向」が報告されました。
▽医療保険のレセプトを格納するNDB(National Data Base)と介護保険のレセプトを格納する介護DB(介護保険総合データベース)との連結解析(同一人物のレセプトを紐づけした分析・解析)が制度上可能となっているが、精度などに問題もある(現在、精度向上に向けた研究が続けられている)
▽要介護度の情報(自立、要支援1-2、要介護1-5)は毎月のレセプトに記載されているが、「認知機能等に関する詳細な情報」は認定時に遡って収集しなければならない(現在、最大48か月間、要介護認定結果が有効であり、この場合には2年前の情報を別に収集する必要が出てくるなど、相当の業務負担が発生する)
▽医療レセプトで把握できる「検査や処置等の診療行為」が、認知症に対して行われたものなのか、その他の併存疾患に対して行われたものなのかを判定することが難しい。介護レセプトで把握できる「介護サービス」についても、認知症であるがゆえに必要とされたものなのか、併存疾患があるがゆえに必要とされたものなのかの判定が難しい
▽NDBデータには検査結果や病状の現状を反映する直接的なデータがないため、治療効果等の検証は容易ではない
▽NDBデータの「傷病名」には、いわゆるレセプト病名が含まれる可能性があり、また処方のない認知症事例の場合は「傷病名が付与されていない」可能性が高い。介護DBデータでは、要介護・支援認定を受けている利用者であれば比較的正確に認知症の有無が評価されている可能性が高いが、「認知症があるにもかかわらず、要介護認定を受けていない利用者」も相当数あると見込まれる
こうした点を踏まえると、現時点で「レケンビを投与された高齢者の介護費用縮減効果」をダイレクトに把握することはそう簡単ではないことが伺えます。
もっとも加藤教授は「例えば、『障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)』(身体機能に近い情報である)と『認知症高齢者の日常生活自立度』とを用いて、認知機能の違いが医療費・介護費にどういった差をもたらしているのかを評価できる」(『障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)』や、年齢等を同じにしたうえで『認知症高齢者の日常生活自立度』の違いが、介護費用の差にどう表れるかを介護報酬単位数合計などから明らかにするなど)可能性にも言及。また、長期間の追跡が必要となりますが、仮にレケンビ投与により利用者の要介護度が低くなれば、「区分支給限度基準額(要介護度別の在宅要介護者が1か月に使用できる介護サービスの上限)が下がる」→「介護費が縮減する」という効果を測定できる可能性も出てきます。
診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)、池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、こうした報告内容を踏まえて「腰を据えた研究」を継続してほしいと加藤教授に要請。また加藤教授は「データ紐づけ等の精度を向上させ、多くの研究者が分析に参加すれば、さまざまな良いアイデアが出てくる。そもそも、NDBについても『宝の山』と評価する研究者もいれば、『レセプト病名が入っており、使い物にならない』と酷評する研究者もいて、現在『とりあえず使ってみよう』と考える研究者が増えてきている」と今後を見通しています。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も「現時点では介護費縮減効果を把握し、それを費用対効果評価に用いることは難しそうであるが、分析の可能性も見えてきており、研究を継続してほしい」と要望しています。
このような状況を踏まえると、「費用対効果評価の時点であっても、介護費縮減効果の薬価へ反映することは、現時点では難しい」状況が伺えそうです。今後の研究に期待・注目が集まります。
合同部会では、こうした考え方について近くメーカーサイド(医薬品業界)から意見聴取を実施。その結果も踏まえて「レケンビの薬価設定ルール」を固め、「12月24日までの薬価基準収載」につなげます(合同部会・中医協総会でルール決定→ルールに沿って薬価算定組織で値決めを行う→中医協で薬価を決定という流れ)。
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