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新たな認知症治療薬「ケサンラ点滴静注液」、レケンビと同様の考え方で薬価算定・市場把握・費用対効果評価を検討—中医協

2024.10.10.(木)

新たな認知症治療薬「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ(遺伝子組換え))が9月24日に薬事承認され、遅くとも90日以内に保険適用することが求められる—。

先に保険適用された「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))と同様の考え方で薬価算定・市場把握・費用対効果評価を検討する—。

10月9日に開催された中央社会保険医療協議会の「薬価専門部会」「費用対効果評価専門部会」合同部会(以下、単に「合同部会」)で、こうした方針が概ね固められました。今後、下部組織である薬価専門組織で具体的な算定ルール案を固め、その後、中医協での承認を受けた後、再度、薬価算定組織で具体的な値決め(薬価案の作成)が行われる見込みです(同日の中医協総会に関する記事はこちら)。

認知症患者が増大しており、ケサンラも市場規模が巨大になる可能性がある

新たな認知症治療薬の「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ(遺伝子組換え))が9月24日に薬事承認されました。臨床試験成績では、次のような有効性が確認されています。

▽プラセボ群と比べて▼アルツハイマー病の手段的日常生活機能・認知機能を評価する統合評価尺度(iADRS)の低下を22.3%抑制している▼記憶・見当識・判断力と問題解決能力・地域社会の活動・家庭および趣味・身の回りの世話の状況から認知機能低下を評価するCDR-SBの低下を28.9%抑制している—

ケサンラの有効性データ1(中医協・合同部会1 241009)



▽脳内アミロイド(アルツハイマー病の原因物質)を大きく減少させている

ケサンラの有効性データ2(中医協・合同部会2 241009)



▽投与52週目にケサンラからプラセボに切り替えても、76週時点まで本薬の症状進行抑制作用が持続している

ケサンラの有効性データ3(中医協・合同部会3 241009)



認知症高齢者数の推移(介護保険部会3 220516)[/caption]



こうした状況を踏まえると、優れた認知症治療薬の登場は極めて好ましいと言えます。一方、患者数が大きく増加する可能性を踏まえれば、「医療保険財政」の側面からは手放しで喜ぶこともできません(医療費・薬剤費が増加すれば医療保険財政が厳しくなる)。

このため、先に薬事承認・保険適用された認知症治療薬「レケンビ点滴静注」については、次のような特別の薬価算定ルールが設けられました。2022年度の薬価制度改革で「年間1500億円超の市場規模が見込まれる医薬品が承認された場合には、通常の薬価算定手続きに先立ち、直ちに中医協総会に報告し、当該品目の承認内容や試験成績などに留意しつつ、薬価算定方法の議論する」との考え方に沿ったものです。

レケンビの薬価収載時・収載後の対応(中医協総会1 240925)



ケサンラについても、レケンビと同様に「特別のルール」検討が始まっており、10月9日の合同部会では次のような方向性が概ね固められました。ケサンラとレケンビとは、薬理作用、組成、化学構成、用法は同一ではないものの、「同様の効能・効果を有する抗体医薬品である」ことを重視し「レケンビに倣って考えていく」方向と言えます。

【薬価算定方法】
→本剤(ケサンラ)はレケンビと同様のアルツハイマー病治療薬であることを踏まえ、レケンビと同様に「現行の薬価基準に基づき算定」(類似薬があれば類似薬効比較方式として「類似薬と同じ薬価」とする、類似薬がなければ原価計算方式として「原価の積み上げ」とする)し、「補正加算は既存のルール」に従って評価する

【薬価収載(保険適用)後の価格調整】
→最適使用推進ガイドラインが設けられ「対象患者の限定」「使用可能医療機関の限定」が行われるが、国民の期待も大きく、簡便な患者選定法の開発・医療機関の体制整備・長期間投与などにより患者数が想定を大きく超える可能性もある(医療費・薬剤費も当然、急騰する可能性あり)
→このため、レケンビと同様に4半期での速やかな再算定の適否を判断する必要があり、薬価算定方法・2年度目の販売予想額にかかわらず「NDBにより把握」する(関連記事はこちら

【費用対効果評価】
→算定方式に応じた区分によって指定し、▼H1指定の場合(類似薬効比較方式+有用性系加算、あるいは原価計算方式で薬価算定された場合)には、介護費用の取り扱い・価格調整範囲のあり方に関して、レケンビの際に議論された「レケンビに対する費用対効果評価について」に準じて進める▼H5指定の場合(類似薬効比較方式で有用性加算なしで薬価算定された場合)には、レケンビの類似品目として対応する—(関連記事はこちら

薬価算定方式と費用対効果評価との紐づけ(中医協・合同部会6 241009)



(参考)レケンビの費用対効果評価に関する特例ルール
▽費用対効果評価の結果、ICER(「費用対効果が優れているか、劣っているか」を判断する物差しで、「類似技術βの費用(b)と新規医療技術αの費用(a)との差(つまりb-a)」を「類似技術βの効果(B)と新規医療技術αの効果(A)との差(つまりB-A)」で除して算出する。現行ルールではICERが500万円未満の場合には「費用対効果が優れている」と判断し、価格が維持される)が「500万/QALYとなる価格」と「見直し前の価格」の差額を算出し、差額の25%を「調整額」とする

▼「ICERが500万円/QALYとなる価格」>「見直し前の価格」の場合は、「見直し前価格+調整額」を調整後価格とする(薬価の引き上げ、ただし「見直し前の1.1倍」を引き上げの上限とする。引き上げ条件は現行規定を適用)

▼「ICERが500万円/QALYとなる価格」<「見直し前の価格」の場合は、「見直し前 価格-調整額」を調整後価格とする(薬価の引き下げ、ただし「見直し前の0.85倍」を引き下げの下限とする)

レケンビの費用対効果評価における「価格調整範囲」の特例的な考え方(中医協総会(1)4 231213)



ほか、中医協委員からは▼レケンビに比べ、本剤(ケサンラ)のほうがアミロイド関連画像異常(ARIA)などの有害事象発生頻度が高いとのデータが示されている。安全性に関する情報は逐次医療現場にフィードバックしてほしい(診療側の森昌平委員:日本薬剤師会副会長、支払側の高町晃司委員:日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)▼費用対効果評価においては、より適正な価格となるように調整範囲をレケンビ同様に広く考えるべき(支払側の松本真人委員:健康保険組合連合会理事)—などの声が出ています。

今後、下部組織である薬価専門組織で具体的な算定ルール案を固め、その後、中医協での承認を受けた後、再度、薬価算定組織で具体的な値決め(薬価案の作成)が行われる見込みです。

ケサンラの有害事象データ(中医協・合同部会4 241009)

レケンビの有害事象データ(中医協・合同部会5 241009)



なお、NDBを活用した市場拡大状況把握について、現行制度には次のような課題があります。

(仕組みの概要)
「薬価制度の抜本改革について」骨子の別紙(厚労省サイトはこちら、Gem Med編集部で抜粋し、一部改変)
I 効能追加等による市場拡大への速やかな対応
→効能追加等により市場規模が急激に拡大した医薬品について、2年に1回の改定を待たず迅速かつ機動的に対応するため、下記要件いずれかに該当する医薬品についてNDBにより2年間使用量を把握し、市場規模が350億円を超えたものは、年4回の新薬の保険収載の機会に市場拡大再算定ルールに従い薬価を改定する
(1)効能追加等がなされた医薬品
(2)薬価基準収載時に「2年度目の販売予想額が100億円(原価計算方式)または150億円(類似薬効比較方式)以上」とされたもの

(問題点)
上記(2)要件について、「薬価基準収載時の予想では、2年度目の販売額が100億円・150億円を下回る」が、薬価基準収載後の「実際の販売額」が販売予想額を大きく上回る可能性がある



この点について診療側の森委員は「見直しを検討する必要がある。2年度目販売予想額如何に関わらず、既収載医薬品も含めてNDBでの市場把握を行うべき」と提案。これに対し厚生労働省保険局医療課の清原宏眞薬剤管理官は▼制度見直しは2026年度の次期薬価制度改革に向けて検討してはどうか▼NDB活用には費用もかかるため、まずは「超高額医薬品」を対象にして市場把握を行ってはどうか―とコメントするにとどめています。今後の重要検討課題の1つとなるでしょう。



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