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電子処方箋の導入率、医療機関では2025年3月末でも「1割に届かない」見込み、目標を見直し、診療報酬対応も検討へ—社保審・医療保険部会

2025.1.24.(金)

電子処方箋の導入率は、医療機関では2025年3月末でも「1割に届かない」見込みである。「2025年3月末までに概ねすべての医療機関・薬局で導入する」との目標を今夏に見直すことする。あわせて導入促進に向けた様々な取り組みを継続していく—。

1月23日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こうした点が了承されました。

なお、2024年度診療報酬改定で新設された【医療DX推進体制整備加算】では、「電子処方箋により処方箋を発行できる体制を有していること」が施設基準で求められています。この点、当初の「2025年3月末までに概ねすべての医療機関・薬局で電子処方箋を導入する」との目標に照らして、「本年(2025年)3月末までの経過措置」が設けられています。

このため、現行規定では「本年(2025年)4月以降は、電子処方箋により処方箋を発行できる体制が整っていなければ、加算が取得できないこととなります。

しかし、医療機関での電子処方箋導入率が本年(2025年)3月末時点でも「1割に満たない」と予測されること、新たな目標を今夏(2025年夏)に設定することなどを踏まえ、中央社会保険医療協議会で、近く「【医療DX推進体制整備加算】における、電子処方箋導入にかかる施設基準の経過措置」について、どのように対応するかを検討することになるでしょう。

1月23日に開催された「第192回 社会保障審議会 医療保険部会」

電子処方箋の導入率、医療機関では2025年3月末時点で「1割に届かない」見込み

電子処方箋は、オンライン資格確認等システムのインフラを活用し、これまで「紙」で運用されていた医療機関から薬局への処方指示(処方箋発行)を「オンライン」で行うもので、大まかな流れは以下のようになります(関連記事はこちら)。

(a)患者が医療機関を受診し、「電子処方箋の発行」を希望する(オンライン資格確認等システムでの資格認証や診察時などに確認、マイナンバーカード以外で受診する場合には口頭で確認する)

(b)医療機関において医師が、オンライン資格確認等システムの中に設けられる【電子処方箋管理サービス】に「処方箋内容を登録」する

(c)医療機関は患者に「電子処方箋の控え」(紙、アプリ)を交付する

(d)患者が薬局を受診し、「電子処方箋の控え」を提示する

(e)薬局において、薬剤師が【電子処方箋管理サービス】から「処方箋内容」を取得し、調剤を行う

(d)患者に薬剤を交付する



このうち(b)および(e)において、患者同意の下で「過去に処方・調剤された薬剤情報」の閲覧が可能になるため、重複投薬や多剤投与、禁忌薬剤の投与などを「リアルタイム」でチェックし是正を図ることが可能になります。

電子処方箋の概要(健康・医療・介護情報利活用検討会1 221019)



このように「リアルタイムで処方情報を確認して重複投薬や禁忌薬剤の投与を是正でき、医療の質を維持・向上できる」優れた仕組み(レセプト情報やカルテ情報の共有では一定のタイムラグが生じ、リアルタイムでの処方内容是正等は困難)ですが、その導入状況をみると、以下のように「医療機関で極めて低調」なのが実際です。
(本年(2025年)1月12日時点)
・全体:22.5%・24万7681施設
・薬局:63.2%・3万8188施設
・病院:3.9%・311施設
・医科クリニック:9.9%・8172施設
・歯科クリニック:1.7%・1010施設

電子処方箋の導入状況(社保審・医療保険部会1 250123)



国は「2025年3月末に、概ねすべての医療機関・薬局での導入を行う」との目標を掲げていますが、「薬局では今夏(2025年夏)に概ねすべての施設での導入」が実現できると見込まれるものの、「医療機関(病院・クリニック)では、本年(2025年)3月末時点でも、導入率は1割に届かない」と見込まれる、厳しい状況です。

このため、厚労省は1月22日の「『医療DX令和ビジョン2030』厚生労働省推進チーム」および1月23日の医療保険部会において、次のような方針転換を行うことを報告し、了承されています。

▽電子処方箋導入の目標を今夏(2025年夏)に向けて見直す

▽電子処方箋の導入促進に向けた取り組みを更に強化する



新目標がどのように設定されるのかは今後の議論を待つよりありません。後者の導入促進に向けた取り組みとしては、次のような方策が厚生労働省医薬局総務課の重元博道課長から提示されています。

▼導入されていない医療機関等に対するフォローアップ(医療機関の規模、医科・歯科、診療科等のセグメントごとに導入阻害要因を更に分析し、その結果を踏まえ必要な施策を検討する)
▼更なる導入策の措置(これまでの導入策や診療報酬による対応に加え、公的病院等への導入再要請、システムベンダーへの早期導入・開発要請、医療機関・医師を中心とした医療関係者等向けの周知広報の強化、都道府県による電子処方箋の導入支援施策、医療機関内・薬局内のシステムとの連携推進も含めて、更なる導入策を講じる。電子カルテ情報共有サービスの導入等とも併せ、医療機関の負担が小さくなる形で導入できるよう施策の検討を進める)
▼機能の追加実装の一時停止(現在「必要最小限の基本機能」が開発されたことから、更なる機能の追加については、必要な改修を除き、当分の間行わない)
▼医療機関等における利活用状況や効果等の調査(電子処方箋活用による効果を提示し、医療関係者の理解向上・活用促進に繋がるよう、早期に電子処方箋を導入した医療機関等に対して電子処方箋の利活用状況や効果等について調査を実施する)



厚労省は、医療現場やシステムベンダーから聞き取りを行い、電子処方箋導入の阻害要因として、例えば▼医薬品のマスタ設定等が適切に行われているかなどが不安(昨年(2024年)末に不備が見つかり、一斉点検を実施)▼複数システムの断続的改修による負担が大きい▼取引ベンダーが電子処方箋導入に対応していない▼そもそもの導入負担が大きい▼周囲の医療機関・薬局が導入しておらず緊要性を感じない▼電子カルテ未導入で、電子処方箋導入が効率化につながらない—などの点が浮上してきています。

重元総務課長はこうした阻害要因の解消に向けて、▼システムの点検▼必要な改修を除き、医療機関・薬局側に係る機能追加を、当分の間見送る(医療機関等の負担増抑制)▼導入補助金を継続(2024年度補正予算対応、関連記事はこちら)▼公的病院等のフォローアップやチェーン薬局等を中心に継続した導入要請▼国民向け周知広報の実施▼標準型電子カルテ・クラウド型電子カルテの普及(関連記事はこちらこちら—などの対応を進める考えを強調しています。



こうした対応について医療保険部会では、▼重複投薬のチェックなどに一定の効果がでている。病院での早期導入が重要であり、少なくとも公的病院では早期の100%導入を実現すべき。今後、効果検証を行い、その結果を公表してほしい(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)▼電子処方箋には重複投薬チェックなど大きなメリットがあり、課題に適切に対処して、利用促進を図ってほしい(横本美津子委員:日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)▼導入の遅れは医療機関の責によらないものであることが明らかである。現場の意見を踏まえた対応をきちんと行うとともに、新目標設定に向けて「電子処方箋システム全体の徹底的な見直し」も行うべき(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼高齢者向けの「電子処方箋のメリット周知」もしっかり行うべき(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)▼将来像が不明瞭ではメリットがあっても導入に二の足を踏んでしまう。国は早期に将来の姿を示し、医療機関等の予見可能性を高めるべき。また電子処方箋のメリットを国民全体に分かりやすく広報してほしい(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)▼電子処方箋の運用費用は医療保険者も負担しており、一刻も早い完全導入を目指すべき(北川博康委員:全国健康保険協会理事長)—などの注文が付いています。ほか、都道府県サイドからも「電子処方箋の普及促進に向けた国による医療機関等への支援、都道府県による上乗せ支援への助成なども継続してほしい」との要望が出されています。

また、これまでの電子処方箋は「院外処方」のみに対応してきましたが、この1月(2025年1月)から一部医療機関等で「院内処方」への対応に関するプレ運用がスタートします。プレ運用期間に課題等を発見し、そこへの手当てをしたうえで全国展開を図ります。渡邊大記委員(日本薬剤師会副会長)は「がん化学療法の外来実施が進展し、病院で抗がん剤点滴を受け、その情報を薬局で確認できるようになれば、かなり安全な化学療法が実現できる」と強い期待を寄せています。

電子処方箋で院内処方対応のプレ運用をこの1月(2025年1月)から実施(社保審・医療保険部会2 250123)



ところで、電子処方箋の推進に向けた診療報酬上の対応として、2024年度の診療報酬改定での【医療DX推進体制整備加算】創設があげられます(2024年10月に改定、関連記事はこちら)。

本加算の施設基準では「電子処方箋により処方箋を発行できる体制を有していること」が求められています。

ただし、当初の「2025年3月末までに概ねすべての医療機関・薬局で電子処方箋を導入する」との目標に照らして、「本年(2025年)3月末までの経過措置」が設けられています(本年(2025年)3月末までは「電子処方箋を導入している」とみなす)。

したがって、現行規定のままでは「本年(2025年)4月以降(経過措置が切れた後)は、電子処方箋により処方箋を発行できる体制が整っていなければ、加算が取得できない」こととなります。上述のように医療機関での電子処方箋導入率が本年(2025年)3月末時点でも「1割に満たない」と予測されることに照らせば、「9割程度の医療機関では医療DX推進体制整備加算を4月から取得・算定できなくなる」と考えられます。

この点、やはり上述のように「新たな目標を今夏(2025年夏)に設定する」方針が固められたことなどを踏まえて、今後、中央社会保険医療協議会で、「【医療DX推進体制整備加算】における、電子処方箋導入にかかる施設基準の経過措置」をどのように考えるのか(経過措置の延長などが必要ないのか)を検討していくことになるでしょう。今後の動きに要注目です。

高額療養費、段階的に上限額引き上げ・区分の細分化を実施

なお、1月23日の医療保険部会には「高額療養費の見直し」について厚労省保険局保険課の佐藤康弘課長が次のような報告を改めて行いました。委員からは「患者の受療行動変化などの検証を行う」こと、「国民に上限額引き上げの趣旨と内容について十分に広報・説明を行う」ことを求める声が出ています。

高額療養費見直しポイント(社保審・医療保険部会3 250123)

高額療養費見直しイメージ(社保審・医療保険部会4 250123)



【上限額の引き上げ(2.7-15%、高所得者で大きな引き上げ幅)+区分の細分化】
▽本年(2025年)8月から、既存区分のまま「上限額」を引き上げる

高額療養費見直し(2025年8月から)(社保審・医療保険部会5 250123)




▽来年(2026年)8月から、既存区分を細分化(3分化)し、上位の区分については上限額を引き上げる

高額療養費見直し(2026年8月から)(社保審・医療保険部会6 250123)




▽再来年(2027年)8月から、さらに上限額を引き上げる

高額療養費見直し(2027年8月から)(社保審・医療保険部会7 250123)



【70歳以上高齢者における外来特例の見直し】
▽一般所得者、住民税非課税世帯では、上限額を引き上げる
▽住民税非課税かつ一定所得以下では、上限額を据え置く

これらの見直しにより、医療保険加入者の保険料は年間1100円(後期高齢者)から5000円(健保組合加入者)程度の軽減となります。

医療保険改革等の前提として「病院経営の維持」が不可欠であると病院代表委員が強調

ところで、今後も医療保険制度改革が進められますが、島弘志委員(日本病院会副会長)は「医療保険・医療提供体制改革は『現在の医療提供体制』(病院・クリニック等の存続)を前提に議論されているが、物価高騰等で病院経営は危機に瀕しており、今後、倒産する病院が出てくると予想される。その状態が続けば地域医療提供体制が崩壊し、医療保険改革も地域医療構想も実現できなくなる。病院経営の危機的な状況を認識してほしい」と強く他委員に要望しました。

保険医療制度では「公定価格」(診療報酬)が決まっており、病院サイドが価格(診療報酬)にコスト増を上乗せすることはできません。このため「コスト増に対応した診療報酬の引き上げ」がなければ、医療機関、とりわけスタッフを多く抱え、物品購入量の多い「病院」の経営は厳しくなっていきます。このため病院団体は、次のような要望を福岡資麿厚生労働大臣に宛てて行っており(関連記事はこちら)、1月23日の医療保険部会で城守委員も同趣旨の考えを強く訴えています。
(1)直近の病院の経営状況を考慮し、地域医療を守るため、緊急的な財政支援措置を講ずること
(2)病院の診療報酬について、物価・賃金の上昇に適切に対応できる仕組みを導入すること
(3)社会保障予算に関して財政フレームの見直しを行い、「社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という取扱いを改めること

こうした要望等に、国がどのように対応していくのか注目する必要があります。



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