オンライン診療でのアフターピル処方、3週間後の産婦人科受診等の厳格要件の下で可能に―オンライン診療指針見直し検討会(2)
2019.4.3.(水)
レイプ被害者などを救済するために、「オンライン診療でのアフターピル(緊急避妊薬)処方」を、「初診対面原則」の例外として認める。ただし、薬剤の転売や薬害などのリスクもあることから、例えば「3週間後に確実に産婦人科医を受診するよう求める」「産婦人科専門医など、高度な専門知識をもつ医師のみに限定する」「1回分のみの処方とし、調剤薬局の薬剤師が内服の事実を確認する」などの厳格な要件を設定する―。
3月29日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)では、こういった方針も固められました。
具体的な要件については、今後、検討会で詰めていくことになります。
産婦人科学会や産婦人科医会から「厳格な要件設定」の指摘
昨年(2018年)3月末に、スマートフォンやタブレット端末などの情報通信機器を活用したオンライン診療を、安全かつ有効に実施するための指針が取りまとめられました。▼指針は、保険診療はもとより、自由診療分野でも遵守しなければならない▼診療の原則は「患者と医師が対面して行う」ものであり、原則としてオンライン診療を初診で行うことは認められない(緊急の場合等の例外あり)▼オンライン診療は対面診療と組み合わせ、計画的に実施されなければならない▼患者にオンライン診療の限界を十分に説明し、同意を得なければならない―ことなどが規定されています(関連記事はこちらとこちら))。
この指針については、医療・医学や情報通信技術の進歩等を踏まえて「少なくとも1年に1回以上更新する」こととなっており、検討会では、2019年に「現在生じている課題(医師でない者がオンライン診療を実施している)」などに対応するための次の見直しについて議論を行っています(2019年5月改訂予定)。
【2019年改訂での見直し項目】
(1)指針の対象(オンライン受診勧奨・遠隔健康医療相談等の整理)
(2)オンライン診療における診療行為(「対面診療との組み合わせ」「初診対面診療原則」の見直し、予測された症状への対応、「同一医師による診療原則」の見直し)
(3)オンライン診療の提供体制(セキュリティの観点に基づく適切な通信環境の明確化、「D to P with N」(看護師による「医師が提供するオンライン診療」の補助)の明示)
(4)その他(オンライン診療を提供する場合の「研修」必修化など)
3月29日の検討会では、(2)の「初診対面診療」原則の見直し、(3)の「D to P with N」などについて議論を行いました。本稿では前者「初診対面診療」原則の見直しに焦点を合わせて紹介します。
スマートフォン等の画像では、▼触診ができない▼匂いなどを覚知できない―といった限界があるため、オンライン診療においては、▼初診は対面で行わなければならない▼事前の対面診療で患者の情報等を十分に収集し、医師と患者の相談に基づいてオンライン診療を実施しなければならない―などの原則が定められています。
この点、「緊急避妊(薬)」について「初診対面原則」の例外として、初診からのオンライン診療を認めるべきではないか、との要望が出ています。例えばレイプの被害者などでは心の傷が大きく、産婦人科受診すらハードルが高いことから、オンライン診療でまず医師が相談に応じて緊急避妊薬(アフターピル)を処方すると同時に、後の産婦人科受診を促してはどうか(「対面の初診を行ってからオンライン診療につなげる」という原則とは別に、「初診でオンライン診療を行ってから対面診療につなげる」という流れを例外的に認めてはどうか)という要望です。しかし、安易に初診対面原則の例外を認めれば「薬害」などが生じてしまうことにもつながります(関連記事はこちら)。
3月29日の検討会では、アフターピル処方等の実態に詳しい日本産婦人科医会および日本産科婦人科学会から、こうした点についてヒアリングを行いました。両学会ともに「安易なアフターピルの処方は好ましくない」(健康被害等につながる可能性がある)との大原則を強調した上で、レイプ被害者等を救済する必要性も勘案し、例えば▼対面診療の機会を担保する(アフターピル処方から3週間後に産婦人科医を必ず受診してもらう)▼本人がアフターピルを内服したことを、その場で確認する▼アフターピルの処方(つまりオンライン診療を行う医師)は「高度な産婦人科の専門知識を持つ」医師(産婦人科専門医や母体保護法指定医師など)に限定する―などの厳格な要件を設定した上で、オンライン診療によるアフターピル処方を認めても良いのではないか、との考えを示しました。
アフターピルを内服しても望まない妊娠を完全に防げるわけでなく(出血があっても、それが月経とは限らず、妊娠していることもある)、患者が子宮外妊娠に気づかずに重篤な事態に陥る可能性などもあることから、3週間後の産婦人科受診が必要となります。また、アフターピルの転売等を防ぐために、「内服の事実をその場で確認する」ことなどが求められるでしょう。また、すべての患者にアフターピル処方が望ましいわけではない(患者が希望したとしても)ことから、専門的知見を有する医師のみに処方を認める必要があります。
検討会では「レイプ等の被害女性を救済する必要がある」点を重くみて、厳格な要件設定を条件として「オンライン診療によるアフターピル処方」を「初診対面原則の例外」に位置付ける方針を固めました(指針を見直す)。
今後、検討会において具体的な要件設定論議を行います。
たとえば、「事後(3週間後)の産婦人科医受診」義務付けについては、オンライン診療の担当医師が、単に「では3週間後にお近くの産婦人科を受診してください」と伝えるだけでは確実な受診が担保できないでしょう。この点、日本産婦人科学会では「アフターピル処方の前提として『3週間後に産婦人科医を受診する』旨の同意書を取得する」ことを提案しています。その際には、あわせて「どの産婦人科医療機関を受診すればよいか」という情報を患者へ提供することも重要と考えられます。
また、アフターピルの転売防止策については、厚生労働省から▼1回分のみの処方を徹底する▼薬局で「薬剤師の眼の前での内服する」ことなどを推奨する―こととしてはどうか、との提案が行われました。オンラインで処方を行い、薬局でアフターピルが調剤されるケースが多いと考えられ、薬剤師が「服用の事実を確認する」ことが現実的と考えられます。
もっともアフターピルの在庫がある薬局(かつ夜間等も開局している薬局)は限定されるため、「アフターピル調剤が可能な薬局のリストを作成し、オンライン診療の担当医から情報提供を行う」ことなども検討する必要があるでしょう(処方箋のみが発行され、患者がどこでアフターピルを調剤してもらえるのかが把握できなければ意味がない)。
さらに、アフターピルをオンライン診療で処方できる医師について、▼産婦人科専門医▼母体保護法指定医―のほか、他科であっても「高度な専門研修を受講し、必要な知識を有する医師」などの要件を設定することが考えられます。
このほか厚労省は、オンライン診療でアフターピルを処方するのみではなく、利用者が犯罪被害を受けた可能性がある場合には▼最寄りの警察署への相談を促す▼未成年で虐待の疑いもある場合には児童相談所へ通報する▼カウンセリングを実施する―ことなども必要ではないか、との見解も示しています。ただし、この点について山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は、「犯罪にあったという事実を知られたくない、と考える被害者も少なくない。例えば『児童相談所へ必ず通報される』こととなれば、通報を恐れてオンライン診療の受診を躊躇してしまうことも考えられる」と指摘し、被害者の心情に配慮した慎重な検討を求めています。
なお、厳格な要件設定を行った場合、「初診対面原則の例外として、オンライン診療でアフターピルを処方できる医療機関・医師」が限定され、アフターピル処方を求める患者の受診アクセスが難しくなるという弊害も出てきます(さらに、あまりに厳格な要件設定を行えば、オンライン診療でのアフターピル処方が事実上不可能になってしまう)。このため、現実的な要件設定とともに、性犯罪被害者の支援団体などが「どの医療機関が、オンライン診療でアフターピル処方をしているか」などといった情報を把握し、被害者に適宜情報提供するような仕組みも検討する必要がありそうです。
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