オンライン診療での緊急避妊薬処方、現実的かつ厳格な要件設定に向けた議論を―オンライン診療指針見直し検討会
2019.5.2.(木)
オンライン診療での緊急避妊薬処方について、その必要性は十分認められるが、安全性を確保するために、例えば「医師の要件」「3週間後の産婦人科受診」などの厳格な要件を設定する必要があるのではないか―。
4月24日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。
緊急避妊薬は「妊娠していない」ことを確認してから処方しなければならないが、、、
昨年(2018年)3月末に、スマートフォンやタブレット端末などの情報通信機器を活用したオンライン診療を、安全かつ有効に実施するための指針が取りまとめられました。▼指針は、保険診療はもとより、自由診療分野でも遵守しなければならない▼診療の原則は「患者と医師が対面して行う」ものであり、原則としてオンライン診療を初診で行うことは認められない(緊急の場合等の例外あり)▼オンライン診療は対面診療と組み合わせ、計画的に実施されなければならない▼患者にオンライン診療の限界を十分に説明し、同意を得なければならない―ことなどが規定されています(関連記事はこちらとこちら)。
この指針については、医療・医学や情報通信技術の進歩等を踏まえて「少なくとも1年に1回以上更新する」こととなっており、検討会では、2019年に「現在生じている課題」などに対応するための見直し内容を検討しています。
「2019年見直し」では、「緊急避妊薬のオンライン診療による処方を、初診対面原則の例外として認めるべきか」というテーマが重要論点の1つとなっています。
スマートフォン等の画像には、▼触診ができない▼匂いなどを覚知できない―といった限界があるため、オンライン診療においては、▼初診は対面で行わなければならない▼事前の対面診療で患者の情報等を十分に収集し、医師と患者の相談に基づいてオンライン診療を実施しなければならない―などの原則が定められています【初診対面原則】。
この点、「例えばレイプ被害者などでは心の傷が大きく、産婦人科受診すらハードルが高いことから、オンライン診療でまず医師が相談に応じて緊急避妊薬(アフターピル)を処方すると同時に、後の産婦人科受診を促してはどうか」(「対面初診→オンライン診療」という原則とは、別に「オンラインでの初診→対面診療」という流れを例外的に認めてはどうか)という要望が出ています。
検討会では「ニーズがある」ことを確認したうえで、オンライン診療による処方のハードルをむやみに下げれば「薬害」に結びついてしまうこと、妊娠の有無を事後に必ず確認する必要があることなどを踏まえ、「厳格な要件を設定する」方向で議論を進めています(関連記事はこちら)。
4月24日の検討会では、厚生労働省から、日本産婦人科医会・日本産科婦人科学会の意見も踏まえた、次のような要件案が提示されました。
(1) 緊急避妊薬をオンライン診療で処方する医師は、産婦人科専門医または「事前に厚労省が指定する研修を受講する」ことを必須とする
(2)オンライン診療で緊急避妊薬を処方する際は、緊急避妊薬内服後、避妊を失敗することや異所性妊娠の存在等も想定し、3週間後の産婦人科受診の約束を確実に行う
(3)緊急避妊薬の処方は「1錠のみ」とし、処方後「内服の確認」をしなければならない(例えば、調剤可能な薬局を示し、薬剤師の前で内服すること等、内服確認する方法を確立することが望ましい)
(4)処方する医師は、医療機関のウェブサイト等で▼緊急避妊薬に関する効能(避妊成功確率など)▼その後の対応の在り方▼オンライン診療受診から薬が配送されるまでに要する時間(オンライン診療で受診可能な時間)▼転売や譲渡が禁止されていること―などを明記する
しかし、検討会構成員や参考人からは「より厳格な要件を設定する必要があるのではないか」といった意見が相次ぎました。
まず(1)に関しては、「緊急避妊薬は『妊娠していないこと』を確認してから処方する必要があるが、妊娠しているか否かの判断、緊急避妊薬の効果が出ているかの判断には、高度な産婦人科領域の専門知識が必要となる。妊娠している女性に緊急避妊薬を投与することは避けなければならない。研修を受講するのみで、そうした知識は得られないのではないか」との意見が今村聡構成員(日本医師会副会長)や、学会等を代表する参考人から出されました。
また、緊急避妊薬は▼性交後72時間以内の服用しなければならない▼72時間以内の服用でも妊娠阻止率は81%にとどまる(臨床試験結果)―ことから、(2)で「3週間後の産婦人科受診」を求めています(妊娠してしまっている場合もあるため)。しかし「受診の約束では弱いのではないか」との意見が多数出ています。例えば、緊急避妊薬を服用したのちに、出血があった場合、患者が「月経があり、妊娠していない」と安心し、産婦人科医を受診しないことが考えられるでしょう。しかし、「出血=月経」ではなく、「妊娠に伴う不正出血」というケースもあります。この場合、妊娠(とくに子宮外妊娠など)に気づかず患者が危険な状態に陥ってしまうことも考えられます。ただし、「3週間後の受診」を制度的に担保することは非常に難しい問題で、「最終的には患者の自己責任になる」(山口育子構成員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)との声も出ています。
さらに黒木春郎構成員(医療法人社団嗣業の会理事長、日本オンライン診療研究会会長)は、「オンライン診療は慢性期疾患の対面診療の補完には馴染むが、急性期疾患には馴染まない。例えば、オンライン診療を行った医師が処方箋を患者宅に郵送し、そこから薬局で緊急避妊薬を調剤してもらい、服用することになるが、時間が経過すれば緊急避妊薬の効果が薄くなることもある(72時間以内の服用が必要)」との考えを述べています。
もっとも、検討会では「緊急避妊薬のオンライン診療による処方」そのものへの明確な反対意見は出ていません。レイプ被害者等を救済する必要性は確認しており、「厳格な要件」(かと言って実現可能性のない要件では意味がない)をどう設定すべきか、さらに議論が続けられます。
オンライン診療指針の見直し案、5月中にも取りまとめへ
4月24日の検討会では、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」案に基づく議論も行われました。これまでの議論を踏まえた「2019年見直し」案と言え、例えば次のような点が目立ちます。
▽セキュリティ対策の明確化(新たなガイドラインの作成等も踏まえた明確化)
▽離島・へき地などにおいて、医師が急病などで診療を行えない場合に実施するオンライン診療ルールの明確化
▽オンライン診療計画の「2年間」の保存義務設定
▽患者において「予測される症状」に対する、オンライン診療による医薬品処方ルールの明確化
▽チャット機能によるオンライン診療補助ルールの明確化(チャットのみでオンライン診療を完結できないとの原則を変えず、利用可能な範囲などを明示)
▽訪問看護によるオンライン診療補助(D to P with N)ルールの明確化(関連記事はこちら)
▽遠隔手術(D to P with D)の考え方整理(関連記事はこちら)
▽研修受講義務の設定(2020年4月以降にオンライン診療を実施する医師は厚労省が指定する研修の受講を必須とし、既にオンライン診療を実施している医師は2020年10月までに研修を受講する)
このうちセキュリティに関連し、検討会構成員からは「オンライン診療システムなどの認証」を求める声が多数だされました。ICT技術等に詳しくない医師には、事業者のオンライン診療システムが「指針の求めるセキュリティ対策要件などを満たしているのか」を判別することが困難です。このため、第三者機関などが「当該オンラインシステムは、指針の要件を満たしいてる」と認証してくれれば、医療機関側はこの認証の有無を手掛かりにシステムの選定を行えばよくなり、また患者側も「セキュリティ対策が十分である」と安心してオンライン診療を受けることが可能になるでしょう。
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