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医療DX推進には国民の理解・信頼が必要、誰がメリットを受けるかを整理し、そこから財政支援も考えていく—社保審・医療部会(2)

2023.7.10.(月)

「医療DX推進に向けた工程表」が固められたが、医療DX推進には国民の理解・信頼が必要であり、誰がどのようなメリットを受けるかを整理し、情報公表していくことが重要となる—。

財政支援についても、誰がどのようなメリットを受けるかを整理する中で考慮していくことになる—。

7月7日に開催された社会保障審議会・医療部会では、こうした議論も行われました(「医療法人の経営情報データベース(MCDB)」に関する記事はこちら)。また同日には「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト、立入検査の実施」に関する報告も行われており、これは別稿で報じます。

7月7日に開催された「第100回 社会保障審議会 医療部会」

標準型電子カルテを2030年度に概ね全医療機関に整備する目標だが、コスト支援は・・・

岸田文雄内閣総理大臣を本部長とする政府の医療DX推進本部が6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめました。そこでは「より効率的・効果的で質の高い医療サービス等を確保するためには『医療DX』の推進が必要不可欠である」ことを確認したうえで、例えば▼全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく▼標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—などの具体的なスケジュールが示されています。

なお「医療DX」は次のように定義づけられています(関連記事はこちら)。
●保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、申請手続き、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータに関し、その全体が最適化された基盤を構築・活用することを通じて、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように社会や生活の形を変えていくこと

医療DX工程表の全体像



今後、この工程表に沿って「電子カルテ情報を広く共有する仕組み」の構築・運用や、中央社会保険医療協議会等における「診療報酬DX」の詳細論議などが進められます。



7月7日の医療部会では、厚生労働省医政局の田中彰子参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室長併任)からの工程表に関する詳細な報告を受けたのち、委員間での意見交換が行われました。

まず、委員間で共通した意見としては「医療DXの推進には、国民の理解・信頼が必要不可欠となる」という点です。「国民に対し、医療DXでどのようなメリットがあるのかを具体的に丁寧に説明していくべき」との声が都竹淳也委員(全国市長会、岐阜県飛騨市長)や河本滋史委員(健康保険組合連合会専務理事)、佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)らから出ています。

適切な説明・情報提供は極めて重要ですが、医療DXには広範な内容が含まれており、「医療DX全体のメリットを周知広報していく」よりも、個別施策のメリット(例えば「電子処方箋の導入で併用禁忌を避けられる」、「電子カルテ情報を共有し、過去の診療情報を全国の医療機関で確認可能とすることで、例えば意識不明で救急搬送された場合にも過去の診療内容を踏まえた適切・迅速な治療・処置が行える」など)を具体的に、わかりやすく情報提供していくほうが、患者・国民にはわかりやすいかもしれません。

この点について田中参事官は「場面、場面に応じて、医療DXで、どのようなメリットが受けられるのかを整理し、説明していく」考えを示しています。工程表の中でも、例えば「子どもの健診結果や予防接種歴等をスマートフォン1つで確認でき、医療機関の受診の際、内容を確実に伝えることが可能となる」「かかりつけ医以外の医療機関にかかっても、必要な電子カルテ情報が共有され、スムーズに診療が受けられるようになる」「救急時に、レセプト情報から受診や服薬の状況が把握され、迅速に的確な治療を受けられるようになる」などの、患者・国民の世代別のメリットを整理し、あわせて「今後、メリットが拡充していく」ことを明らかにしています。今後、これらをより明確にし、患者・国民に情報提供していくことが重要でしょう。

患者・国民の医療DXメリット(乳幼児期-青年期)(社保審・医療部会(2)2 230707)

患者・国民の医療DXメリット(成人期-高齢期)(社保審・医療部会(2)3 230707)



なお、医療DXは「患者・国民」だけでなく、医療機関・医療従事者、行政にも大きなメリットをもたらします。例えば「医療機関等・自治体関係者の事務負担が順次軽減され、魅力ある職場を実現できるようになる」「医療機関と薬局での情報共有が進み、薬局の事務負担が軽減されるとともに、質の高い服薬指導を提供できる」ことなどが掲げられています。神野正博委員(全日本病院協会副会長)は「誰が、どのようなメリットを受けるのかを明確に分けてメッセージを示すべきである」と訴えています。

医療者などの医療DXメリット(社保審・医療部会(2)4 230707)



他方、多くの医療提供サイド委員からは「医療DX推進に向けた財政支援」を求める声が多数出されました。例えば山崎學委員(日本精神科病院協会会長)は「電子カルテが中小病院で普及しない背景には、導入・維持に膨大なコストがかかるためだ。2030年度にはほぼすべての医療機関に標準型電子カルテを導入すると謳われているが、その費用は誰が出すのか。現在の微々たる診療報酬の下では、電子カルテ導入費用を捻出できず、普及目標を掲げるのであれば国が責任を持った財政的炎上をすべきである。財源論なき政策論は片手落ちである」旨を強調。また、小熊豊委員(全国自治体病院協議会会長)も「公民関係なく、医療DX推進に必要な財政的支援を行うべき」と要望しています。

確かに、標準型電子カルテ導入をはじめとする「医療DXの費用」は重要な問題ですが、例えば、医療機関への補助を行う場合には必要な予算を確保しなければならず、その際には政府全体での合意が必要となります。また診療報酬上の手当てを行う場合には、中央社会保険医療協議会での詳細な議論を経なければなりません。さらに、そうした「財源捻出」論議の前に「医療DXで誰がどのような恩恵を受け、そのためには誰がどの程度の費用負担をするのか」という議論を進め、国民全体で合意することが必要となる点に留意がいります。

上述のように、医療DXの推進により「より質の高い医療等サービスを患者・国民が受けられるようになる」点を考慮すれば、「国民による負担=税負担」「患者による負担=診療報酬」という構図が導かれそうです。一方、電子カルテ導入により医療機関の業務効率が図られるとすれば「医療機関にも応分の負担を求める」ことにもなってきそうです。今後もこうした議論を積み重ね、「誰がどのように負担するのか」の合意を得ていく必要があるでしょう。この点、6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義—未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現—」(骨太方針2023)では、「医療DX推進に向けた取り組みについて『必要な支援』を行いつつ、政府を挙げて確実に実現する」考えを示しています。

なお、標準型電子カルテの導入については「医療情報化支援基金」を活用した導入等支援策が検討されており、そこでは「主に中小規模医療機関が支援の対象になる」方向で議論が進められています。2020年の電子カルテ普及状況を見ると、200床未満の病院で48.8%、診療所で49.9%にとどまっており(400床以上病院では91.2%、200-399床病院で74.8%)、「中小医療機関への支援が重要となる」と考えられるためです。また、大規模病院では「電子カルテをはじめとする院内情報システムの構造が複雑かつ大規模であり、個別性も大きい」ために支援がしにくい一方で、中小医療機関では「相対的に、共通した標準仕様の比較的簡易なシステムで済み」支援しやすいことも背景にありそうです。

標準型電子カルテについて、「厚労省が仕様を示し、多くのシステムベンダーそれぞれに開発を促す」のか、「1社、あるいは限られた数社に開発を促す」のかなどは決まっておらず、今後、厚生労働科学研究で「どのような手法が好ましいのか(コスト面も含めて)、どのような機能・仕様が求められるのか」なども探っていく考えを田中参事官は提示。あわせて「医療DXでは、様々なコストの提言も目指している」点を田中参事官は強調しています(例えば診療報酬DXにより医療現場の改定対応負担軽減が目指されている)。しています。

電子カルテなどの普及状況(厚生労働省調べ)



このほか「ICT等に不慣れな国民も少なくない。手厚いサポートが必要である」(野村さちい委員:つながるひろがる子どもの救急代表)、「看護情報(看護情報提供書、訪問看護ステーションの収集した情報など)も、より質の高いサービス提供には不可欠であり、標準化したうえで共有対象に含めるべき」(井伊久美子委員:日本看護協会副会長、香川県立保健医療大学学長)、「地域において『現在、この病院は、どのベッドが何床空いており、そこではこういった状態の患者を受けられる』といったような情報は一目で分かるなど、地域医療の実態を踏まえた仕組みづくりから進めてほしい」(小熊委員)などの意見も出ています。今後、工程表に沿って医療DXを進める中で重視されます。

なお、医療DXの基盤となる「マイナンバーカードによるオンライン資格確認」について、「信頼回復に努めてほしい」との声が多数の委員から出されています(関連記事はこちら)。



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