糖尿病治療薬を「ダイエット薬」等として処方する不適切なオンライン診療が散見、指針を見直し、国民にも周知を—社保審・医療部会(2)
2022.12.27.(火)
糖尿病治療薬を「簡単にやせられる薬」などと称して処方する、不適切なオンライン診療が散見され、健康被害も発生している—。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」について「関係学会ガイドラインを遵守する」などの改訂を行うとともに、不適切事例について国民に周知していく—。
12月23日に開催された社会保障審議会・医療部会では、こういった「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の改訂方針も決定しました。今後、詳細な改訂内容を詰めていきます
厳しすぎる情報セキュリティ確保ルールも、現実的な内容に見直しを
オンライン診療等を行う医療機関では、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下、オンライン診療指針)を遵守する必要があります。オンライン診療は通常の対面診療に比べて「医師が得られる情報」が格段に少なく、誤診や見落としのリスクが高くなります。また、禁止されている「無診察治療に該当するのではないか」との疑問がわくケースもあります。そこで、オンライン診療指針では「対象患者」「実施する場合の要件」などを定め、これを遵守してオンライン診療を行えば、医師法第20条(無診察治療の禁止)に抵触しない」とされています。
ところで、オンライン診療に関しては、かねてから「不適切な事例が散見される」との問題点が指摘されていました。オンライン診療のハードルを大きく下げよと強く主張してきた規制改革推進サイドもこの問題をついに正面から認めています。
PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)や日本医師会による調査では、例えば次のような不適切事例が明らかになっています。
▼オンライン診療を受け「糖尿病に使う薬をダイエットにも使える」という理由から処方された。薬を飲んだところ下痢、腹痛、頭痛、めまいの症状が出て治まらなかった(→かかりつけ医の受診に至る)
▼美容クリニックでオンライン診療を受け「食事制限や運動の必要もなく、毎日注射をすれば痩せる」と言われた。薬を使用すると吐き気、めまい、嘔吐、倦怠感の症状が出た。医師に相談したところ、「薬の量を減らせ」「そのうち薬に慣れてくる」と言われたため、1週間我慢したが、体重は変わらなかった
▼病院で医師から「いいやせ薬がある」と勧められ、このやせ薬を処方してもらい服用していたところ、意識を失い転倒して唇等を怪我した
▼休職目的の患者に対し、初診からオンライン診療で診察し、診療後すぐに「3か月間の自宅療養を必要とする」旨 のうつの診断書を発出している
糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬)を「ダイエット薬」として処方する不適切事例は、かねてから問題視され、関係学会も「2型糖尿病を有さない日本人における有効性・安全性は確認されていない」と警鐘を鳴らしています
今年(2022年)6月に閣議決定された規制改革実施計画では「診療内容等が適切でないと考えられる事例について周知し、患者の安全を確保するために必要な措置を講ずる」考えを示し、これを受けて厚生労働省は次のようにオンライン診療指針を見直し、国民に注意喚起する方針を提案しました。
【指針見直し方針】
▽オンライン診療は、対面診療と比べて医療へのアクセスが容易になるという側面を考慮し、安全性・必要性・有効性の観点から「各学会の対面診療においても用いられる診療ガイドライン」などを踏まえた適切な診療を実施しなければならない
▽オンライン診療を実施する医療機関は、ホームページや院内掲示等において「指針を遵守した上でオンライン診療を実施している」旨を公表することとする
【国民への周知】(例)
▽オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤を周知する
▽GLP-1受容体作動薬の不適切使用に関する周知を行う
この見直し方針案に反対する声は出ていませんが、「不適切事例は、オンライン診療だけでなく、対面診療においても許されない内容だ。厳罰に処す必要がある。法令での対応を考える必要がある」旨の声が神野正博委員(全日本病院協会副会長)や河本滋史委員(健康保険組合連合会専務理事)らから出ています。
また山口育子委員(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)は、「現在の初診からの電話・オンライン診療臨時特例は、一度も議論されないまま、規制改革推進サイドの意向で解禁された。もし継続するのであればきちんとしたルール作りを議論する必要がある」と強く指摘しました。なお、コロナ感染症が収束し、臨時特例が廃止された後には、初診からのオンライン診療に関するルールを盛り込んだ改訂「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が適用されます(関連記事はこちら)。
なお、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に対しては「情報セキュリティ確保に関するルールが厳しすぎる」との指摘があります。例えば「情報通信・患者の医療情報保管について十分な情報セキュリティ対策が講じられていることを、医師が確認しなければならない」とのルールが設けられていますが、医師はICT技術の専門家ではないため、このルールは「非現実的である」と指摘されています(医師が「専門家に確認させる」旨が適切であるとの提案もある)。
そこで厚労省は、次のような指針見直し方針案を提示。委員もこれを了承しています。
▽情報セキュリティ対策について、医療機関等の管理者が行うべき事項を明確にする
▽オンライン診療に伴う情報セキュリティのリスクについては、医療機関側から患者に十分に説明した上で、医療機関側と患者双方がリスクについて合意した旨を診療録に記載する
▽医療機関が、医療情報を取得する目的で「医療情報システム」と「PHRを含む外部の健康情報システム」とを接続する場合には、医療情報安全管理関連ガイドラインを参照する旨を記載する
▽医療機関が医療情報システム側に影響を与えずに外部の健康情報システムを利用する場合については、指針でその取り扱いを記載する
▽医療機関は「汎用サービスと医療情報システムを連結しない」設定とする
▽汎用サービスを利用する場合は、オンライン診療実施時に第三者が紛れ込むような三者通信が起こり得るリスクが特に高いため、医師は「意図せぬ三者通信が起こらないことをオンライン診療実施時に確認する」旨と、「意図せぬ三者通信の例(患者が医師の説明を一緒に聞いてもらうために第三者を呼び込む場合等)」を記載する
▽チャット機能やダウンロード機能について、診療上必要で、かつ、リスクが低減されているものに限って使用可能である旨を記載する
→例えば、医師が患者からのリンク等のないチャットを「参照」することは低リスクであると考えられるが、どのような範囲であれば「参照」とされるかを例示する
▽オンライン診療システム事業者と医療機関との間で責任分界点を踏まえた記載とする
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