物価急騰での「病院の控除対象外消費税負担」増、給与格差等による「医療界から他産業への人材流出」状況をデータで示す—四病協
2025.4.24.(木)
物価急騰に伴って病院の負担する「控除対象外消費税」も負担を増している。また給与格差等によって「医療界から他産業への人材流出」が増している。こうした状況をデータで示していく—。
また、2024年度補正予算に盛り込まれた「病院経営支援」に向けた事業について、2025年度以降も継続すべきとの要望を福岡資麿厚生労働大臣に宛てて要望していく—。
4月23日に開催された四病院団体協議会(日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会の4団体で構成)の総合部会(4団体の幹部会合)で、こういった方針が固められたことが、終了後の記者会見で、日本医療法人協会の加納繁照会長から明らかにされました。

4月23日の四病院団体協議会・総合部会後の記者会見に臨んだ日本医療法人協会の加納繁照会長
データに基づいて「病院経営の窮状」をより強く訴えていく
Gem Medで報じているとおり、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会の6病院団体による調査で「病院経営は危機に瀕しており、いつ何時、地域の病院が突然なくなる(倒産する)可能性もある」状況が分かりました。

赤字病院・黒字病院の状況(6病院団体調査3 250310)
こうした状況から脱却するために、6病院団体と日本医師会は次のような声明を発しています。
▽医療機関の経営状況は、現在著しく逼迫しており、賃金上昇と物価高騰、医療技術革新への対応ができない。このままでは人手不足に拍車がかかり、患者に適切な医療を提供できなくなるだけではなく、ある日突然、地域から医療機関がなくなってしまう
▽まず補助金による機動的な対応が必要だが、直近の賃金上昇・物価高騰を踏まえれば「2026年度の次期診療報酬改定の【前】に期中改定での対応」も必要と考える
▽さらに、2026年度の次期診療報酬改定に向けて以下の2点を要望する
(1)「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の廃止
→賃金上昇・物価高騰などを踏まえ、財政フレームを見直して目安対応を廃止し、別次元の対応を求める
(2)診療報酬等での賃金・物価上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入
→医療業界でも「他産業並みの賃上げ」ができるよう、賃金・物価上昇を反映できる仕組みの導入を求める
こうした中で四病協では、「病院経営が危機的な状況」をより明確にするために、(1)病院における控除対象外消費税の実情(2)病院従事者の賃金実態—を明らかにする調査を行うことを決定しました。
医療機関では薬剤や材料をはじめ多くの物品を購入し、それに伴って「消費税」を納めます。
保険医療においては「消費税は非課税」とされ、医療にかかる消費税は患者ではなく、医療機関が最終負担しています(控除対象外消費税)。この消費税負担を補填するために、特別の診療報酬改定(消費税対応改定)が行われていますが、物価の急騰や円安などにより「医療機関の負担する消費税」額も上昇しています(医療材料では海外からの輸入品が多い)。このため「仮に診療報酬改定時点で『診療報酬による消費税補填』が十分に行われていた」としても、その後の物価等急騰が生じれば、消費税負担も上昇し「診療報酬による消費税補填は十分にはなされてない」事態に陥ります。また診療報酬による消費税対応は平均値でなされるため、「そもそも物品購入量の多い高度急性期病院などでは、十分な対応がなされていない」との指摘もあります。
また、2024年度診療報酬改定で「ベースアップ評価料」が創設されるなど、医療従事者の賃金増が進んでいます。しかし、「他産業の賃上げ水準」には追い付かず、「医療従事者が、より給与の高い他産業に流出する」事態が生じているとの医療現場からの指摘があります(関連記事はこちら)。
四病協では、こうした実態をデータに基づいて明らかにし、「必要な対応」を求めて行く方針を固めました(日本慢性期医療協会も調査に参加する見込み)。加納・医法協会長は「四病協では、病院においては保険診療について消費税は課税とし、過不足のない補填の仕組みを求めていく」考えを改めて示しています(診療報酬による補填ではどうしても過不足が生じるため、「納めた消費税を還付等して過不足なく補填してもらう」ことが重要とかねてから病院団体は提唱している)。
他方、2024年度補正予算では、病院経営の窮状に対応するために「医療施設等経営強化緊急支援事業」が創設され、その一環として「病床数適正化支援事業」が盛り込まれました。医療需要の急激な変化を受けて「病床数の適正化」(ダウンサイジング)を進める医療機関に対し、診療体制の変更等による職員の雇用等の様々な課題に際して生じる負担を支援するもので、削減病床1床につき410万4000円の補助が行われるものです。
予算事業であり「補助される病院」は一定程度限定されますが、四病協では「病院経営の窮状を救済するために、2025年度以降もこの補助事業を継続してもらう必要がある」との考えで一致。連休明けにも福岡資麿厚生労働大臣に宛てて「事業継続の要望書」を提出する方針も決定しています。
さらに2026年度の税制改正に向けた四病協要望について「病院経営の窮状に適切に対応できる診療報酬上の措置等」に絞る方向で調整していることが、伊藤伸一・日本医療法人協会会長代行から明らかにされています(関連記事はこちら)。
「地域医療提供体制の確保」という点で中医協の診療側・支払側は一致している
この点について中医協委員である太田圭洋・日本医療法人協会副会長は「支払側がそれほどネガティブな姿勢であったとは受け止めていない。病院経営の実態を真摯に受け止めてくれたと感じている。過去のデフレ下の状況なども含めて必要に応じて議論すればよいと思うが、足元の厳しい経済状況に対応し、適切な地域医療提供体制を構築することが重要という点では、診療側も支払側も考え方が一致していると見ている」との見解を示しています。
なお、加納・医法協会長は「病院団体では従前より経営データをとっているが、デフレ下でも決して病院経営は楽ではなかった。例えば2019年には経常利益率はゼロであり、他産業と比べても経営状況が厳しかったことを理解してもらえると思う」とコメントし、必要に応じてデータを提供していく考えを明らかにしています。
今後の2026年度診療報酬改定論議にさらに注目が集まります。
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