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2026年度医学部定員、総数9403名の枠内で「医師少数県の定員を増やす場合は、多数県の定員削減で吸収」を—医師偏在対策等検討会

2024.3.27.(水)

近い将来医師過剰になるが、医師の地域偏在が依然として生じている点に鑑みれば「医師養成数の激減」を直ちに行える状況にはないため、2026年度の医学部入学定員は2024年度水準(9403名)を上限として設定する(定員減は行わない)—。

その際、医師偏在が少しでも緩和するよう「医師多数県の定員を削り、医師少数県の定員増に振り向けていく」仕組みを設定する(今夏(2024年夏)までに結論を得る)とともに、今後も「実効性のある医師偏在対策」を検討(来夏(2025年度)までに結論を得る)していく—。

3月27日に開催された「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった方針が固められました。

3月27日に開催された「第3回 医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」

2026年度の医学部入学定員、2024年度水準:9403名」を上限として設定

検討会では、「2026年度の医学部入学定員」について最優先で検討を行っています。来年度(2024年度)の高等学校2年生が進路選択に困ることのないよう「2年後(2026年度)の医学部入学定員がどうなるのか」を今春(2024年春)までに明確にしておく必要があるためです(志願直前に「医学部入学定員が大幅削減される」などと明らかになったのでは困ってしまう)(関連記事はこちらこちら)。



医学部の入学定員は、▼恒久定員(下図の青色の部分)▼臨時定員(医師確保が必要な地域・診療科のための「暫定増」(下図の黄色の部分)・地域枠などを設定するための「追加増」(下図の赤色の部分))—で構成されます。臨時定員は、医師の地域偏在を是正するために2008年から設けられています(現在も継続)。

医学部入学定員の構造(医師偏在対策検討会2 240226)



しかし、2020年8月に行われた将来の医師需給推計によれば「現在の医学部入学定員を維持すれば2029年頃から医師『過剰』になる」ことが明らかになっています。

医師需給の最新推計によれば、早ければ2029年、遅くとも2032年に医師の需要と供給が均衡し、以後「医師過剰」となる(医師需給分科会(1)3 200831)



医師過剰は、「将来の医師の生活基盤が極めて不安定になる」「不適切な医療需要の掘り起こしが生じ、医療費の高騰→医療保険制度が逼迫する」ことにつながるため、「医学部入学定員のうち、臨時定員部分を漸減していく」ことの必要性が確認されています(関連記事はこちら)。



もっとも、東北地方を中心に医師少数県が依然として存在しており、医師偏在が解消していない(かつ偏在は拡大している、関連記事はこちら)ことから、「単純に医師養成数(医学部入学定員)を減らすべきではない、強力な医師偏在対策の実行とセットでなければ、医学部入学定員の漸減はすべきではない」と難色を示す声もあります。

東北地方を中心に医師少数県がある(医師偏在対策検討会3 240129)



3月27日の検討会では、▼近い将来「医師過剰」になる▼依然として大きな医師偏在がある—との2点を踏まえると「直ちに医学部定員数の急激な変更は行うことはすべきでない」と判断(医師偏在が継続しているため)。さらに2026年度の医学部定員については、「実効性のある医師偏在対策を行いつつ、2024年度の医学部定員数(9403名)を上限として設定する」との考えをまとめました。

もっとも、都道府県サイドからは「医師偏在は拡大しており、2025年度までの最大数(9420人)を2026年度にも適用すべき」との意見が出された一方で、「医学部入学定員削減の効果が出るまでには長い時間がかかる(医学部6年、臨床研修2年、専門研修3年、そこから数年)点を考慮しれば、なるべく早い段階で『医学部入学定員の削減』に進むべきとの思いもある」(釜萢敏構成員:日本医師会常任理事)との声も出ています。医学部入学定員をどう考えるかは「今後も継続する検討課題」であり、こうした意見交換を今後も続けていくことになります。

上限の中で、医師少数県の定員を増加する場合には、医師多数県の定員を削って調整

上述のように、「実効性のある医師偏在対策を行いつつ、2024年度の医学部定員数(9403名)を上限として設定する」方針が固められましたが、「実効性のある医師偏在対策」とは何でしょう。

この点について厚生労働省は、「医師多数県の定員を削り、医師少数県の定員増に振り向けていく」仕組みを提案しました。A県(例えば東北地方)で「自地域では医師不足が顕著であり、さらなる医学部定員増を行いたい、行う必要がある」と考えた場合、上限が「9403名」と設定されるため、単純にA県の要望を認めれば「上限超過」が生じてしまいます。このため、医師多数県(東京都や西日本など)で「医学部定員を削減」し、A県での超過分を吸収するイメージです。「都道府県別に医師確保の状況が異なる、医師不足の地域が依然として存在する」中で、新たに都道府県間で入学定員を調整する仕組みの導入は、画期的と言えるでしょう。

厚労省は、より具体的に次のような仕組み案を提示しました。

【臨時定員の基本方針】
▽各都道府県は、大学と「恒久定員内への地域枠や地元出身者枠の設置」を調整し、臨時定員の必要性を慎重に検討する

▽医師偏在対策として「真に必要な範囲」で臨時定員を設置する

【臨時定員の意向が医学部総定員の上限を超えた場合の対応】
▽各都道府県への臨時定員地域枠の配分は「2024年度の臨時定員地域枠数」を基準とする(下表(ただし2023年度数)参照)

▽医師少数県を中心に「将来的に医師不足となる都道府県」では、真に必要な範囲で「2024年度よりも多くの臨時定員地域枠数」の設置も可能とする

▽この場合、「医師多数県の臨時定員地域枠の一部」を医師少数県へ配分・調整する(医師多数県の枠を減少させ、オールジャパンで総定員9403名以下とする)

▽ただし、医師多数県の激変を避けるため、減少数は「2024年度の臨時定員地域枠数からり5分の1以内」とする(下表(ただし2023年度数)参照、東京都では「20名」の臨時定員地域枠数があり、減少対象となった場合には最大5分の1(20×1/5)の4名が削られる)

2023年度の都道府県別医学部入学定員(医師偏在対策検討会1 240327)



この提案内容に反対意見は出ていませんが、例えば▼各都道府県の臨時定員について、本来の趣旨(医師少数な地域の医師確保)に沿って、本当に必要な範囲で設定されているかを精査する必要があるのではないか(木戸道子構成員:日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)▼医師多数県の定員を削り、医師少数県の定員に振り向ける調整は難しいと思う、どういった場で、どういったプロセスで調整を行うのか、さらに詰める必要がある(神野正博構成員:全日本病院協会副会長)▼医師多数県であっても、若手医師が減り、将来、医師が少数になる地域もある。「医師多数県から削る」という括りは大きすぎるかもしれない。医師の年齢構成、診療科なども勘案すべき(馬場秀夫構成員:国立大学病院長会議)▼医師少数県の地域枠医師が「県内の医師多数である地域」に配置されるケースもあれば、医師多数県の地域枠医師が「県内の医師少数である地域」に配置されるケースもあり(下図参照)、詳しくみていく必要がある(國土典宏構成員:国立国際医療研究センター理事長)—といった提案・注文がついています。

都道府県別の地域枠医師の配置状況(医師偏在対策検討会2 240327)



このため遠藤久夫座長(学習院大学経済学部教授)は「より実効性のある仕組みにすべく、さらに検討を重ねる必要がある」と判断しています。もっとも、具体的に「●県の●●大学医学部の定員が●名」という情報は早期に確定する必要があり、厚生労働省は「今夏(2024年夏)までには、具体的な配分方法を固める」考えを示しています。

今後、配分方法を詰めるとともに、各都道府県・各大学の意向(臨時定員地域枠を増やしたのいのか、現状でよいのか、減員にも甘んじるのか)を踏まえて検討会で具体的に検討していくことになります(上述のとおり今夏(2024年夏)までに決定)。

実効性のある医師偏在対策を模索、「報酬での誘導」「診療科別医師数設定」などの提案も

「医師の地域偏在、診療科偏在」は、述べるまでもなく従前からの大きな課題です。

この解消に向けて、これまでに▼医学部に「地域枠・地元枠」を設け、臨床研修医・専攻医の大都市集中を防ぐためにシーリングを設ける(国による取り組み)▼各都道府県で「医師確保計画」(医療計画の一部分)を作成し、医師少数県・区域を中心に「医師確保」を図る(自治体による取り組み)▼医師働き方改革によりこれらを支える—などの対策がとられてきています。

医師偏在対策の全体像(医師偏在対策検討会1 240129)



しかし、こうした対策の効果はまだ十分には出ているとは言えないでしょう。

厚労省の調査分析によれば、▼若手医師に限れば、医師多数県よりも医師少数県で大きく増加している(地域偏在の是正)▼若手医師は病院・大学病院で増加している(病院/診療所間の偏在是正)—ことも分かっていますが、▼医師全体でみると「医師多数県では若手医師も多い」(依然として大きな地域偏在がある)▼リハビリ科や麻酔科など医師が大きく増加している診療科もあるが、外科では2008年度から医師数がほとんど増えていない(診療科偏在が依然として大きい)—ことも事実です。

医師全体でみると病院勤務医が多く、増加も続いている(医師偏在対策検討会3 240327)

診療科別の医師数の状況(医師偏在対策検討会4 240327)

男性若手医師の診療科状況(医師偏在対策検討会5 240327)

女性若手医師の診療科状況(医師偏在対策検討会6 240327)



また、第8次医療計画作成論議の中では「2016年から20年にかけて医師偏在が進んでしまった」ことも明らかになっています(関連記事はこちら)。

2016年から20年にかけて医師の地域偏在が助長されてしまっている(地域医療構想・医師確保WG(1)4 221027)



このため検討会では「より実効性のある医師偏在対策」の検討も進められています。

今後の重要検討課題となりますが、3月27日の検討会では、例えば▼診療科別の医師数を国がコントロールすべき時期に来ているのかもしれない。学会や若手医師、自治体など関係者間で十分に議論して「診療科別医師数」の設定も検討テーマの1つとなろう(釜萢構成員)▼「やりがい」よりも「貢献度に応じた報酬」による誘導をかんがえなければならない(木戸構成員)▼若手医師が都市志向となる背景には「子育て環境」もある。多面的な検討が必要である(馬場構成員)▼強制的手法での偏在是正は好ましくない。例えば手術担当医師が、手術点数(診療報酬)の相当部分を得られるような報酬による誘導が適切ではないか(國土構成員)▼若手医師の価値観を知る必要があり、参考人招致などを検討してはどうか。また東京では病院/診療所偏在が先行していると考えられる。東京の実態を詳しく見て対策を検討することが有益ではないか。また「同じ話の蒸し返し」ではなく、実効性・実現性のある対策を複数施策の組み合わせも含めて検討すべき(神野構成員)—といった意見が出されています。いずれも重要論点と言え、今後、さらに具体化していくことに期待が集まります。

また國土構成員や馬場構成員は「外科医の最多年齢ゾーンは60歳以上である。外科学会とコミュニケーションを図り、外科医の魅力アピールなどを考える必要がある」旨も強調しています。

今後、現行施策の評価なども行いながら、「より実効性のある偏在対策」を検討し、来夏(205年夏)に一定の方向性をとりまとめることになります。

検討会論議スケジュール(医師偏在対策検討会6 240129)



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