外来医師偏在の解消に加え、「かかりつけ医機能の明確化、機能を発揮できる方策」の検討も進める―第8次医療計画検討会(1)
2022.6.16.(木)
2024年度からスタートする第8次医療計画においては「外来医師の偏在解消」も重要なテーマとなる(医療計画の一部である「外来医療計画」の充実・強化など)。が、それにとどまらず、あわせて「かかりつけ医機能の明確化、かかりつけ機能を発揮するための方策」についても議論していく—。
6月15日に開催された「第8次医療計画等に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった点が確認されました。
目次
外来医療ニーズだけでなく、在宅・救急ニーズなども含めて「外来医療」を考えるべき
Gem Medで報じているとおり「2024年度からの新たな医療計画(第8次医療計画)」に向けた議論が進んでいます(都道府県が作成する医療計画のベースとなる厚生労働法の指針論議)。
医療計画の中には「外来医療計画」が包含されています。
「医療従事者の受給に関する検討会」や「医師需給分科会」における医師偏在対策論議の中で「外来診療を担う医師の偏在も大きな問題である」との問題意識の下、都道府県において次のような「外来医療計画」を作成し、「外来診療を担う医師の偏在」解消に向けて取り組むこととされました(2018年の医療法改正、関連記事はこちら)。
(1)新たな「外来医師偏在指標」(人口10万人あたりの医師数をベースに「診療所による外来対応割合」などを勘案)をもとに、「外来診療を担う診療所医師」が相対的に多い地域(上位3分の1)を「外来医師多数区域」とする
↓
(2)外来医師多数区域に「新規の診療所開業」がなされる場合には、地域の外来医療情報提供などを行う(「当該地域ではすでに外来医師が多く、競争が激しいです」などの情報を提供することで、開業を最高することなどを期待する)
↓
(3)外来医師多数区域に「新規の診療所開業」がなされる場合には、▼在宅医療▼初期救急(夜間・休日の診療)▼公衆衛生(学校医、産業医、予防接種等)—など「地域に必要とされる医療機能を担う」よう求める
この外来医療計画は2020年度からスタートしていますが、2024年度から「新たなフェイズ」に入るために必要な見直しが検討会で議論が進められています。
厚労省からは、(A)多くの地域で「外来患者数の減少」が想定されている点をどう踏まえるか(B)新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり「地域が必要とする医療機能を担う等の外来医師偏在対策の取り組み」(上記(3)など)が必ずしも十分になされていない状況を踏まえ、外来医師偏在指標を含む対策の在り方や実効性の確保をどう考えるか—という大きく2つの論点が示されました。
まず(A)は、高齢化の進展とともに「多くの2次医療圏で外来医療のピークはすでに過ぎ、今後は外来医療ニーズが減少していく」点をどう考えるかという点です。外来医療ニーズが減少していくのであれば、「外来医療の供給」、つまり「外来診療を担う診療所の開業」などに歯止めをかけることも必要になってきます。
この点、今村知明構成員(奈良県立医科大学教授)は「マクロ(日本全国)で考えれば高齢化の進展とともに外来医療ニーズは増加していく。とりわけ大都市では外来医療ニーズは大きく増加する。過疎化の進む地域が多く、面積として『外来医療ニーズが減少する地域が多い』という点に留意しなければならない」とコメントしています。
また、高齢になるほど「医療機関を外来受診できず、在宅医療が必要になる」度合が高まります。このため在宅医療ニーズは、多くの地域で「今後も増加」していきます。また「救急搬送」のニーズも高まっていくという推計結果があります。
こうした点を踏まえて、多くの構成員(田中滋座長代理:埼玉県立大学理事長、尾形裕也構成員:九州大学名誉教授加納繁照構成員:日本医療法人協会会長ら)から「外来医療と在宅医療・入院医療(急変時の救急搬送など)はセットで考えなければならない。外来医療だけ切り離して計画を立てるのではなく、地域医療全体を考え、その1要素として『外来医療についてはこう考える』という立て付けをしなければならない」との声が出されました。
「地域で必要な在宅医療や初期救急」提供を新規開業医にどのように要請していけばよいか
また(B)は、コロナ禍でもあり、「外来医療計画に基づく取り組みが必ずしも十分に行われていない」状況をどう解消していくか、「外来医療の情報提供(上述(2))をどう進めていくか」「外来医師多数区域で新規開業する場合に、地域で必要な医療機能提供(上述(3))をどう求めていくか」という論点です。
厚労省の調べによれば、2021年度に報告のあった「外来医師多数区域での新規開業」は1063件。このうち3分の1超の363件は「地域で必要な機能提供」に合意して不足機能に合意していません。
一部構成員からは「より厳格な開業規制」を求める声も出ていますが、憲法上・法律上、上記(1)-(3)よりも厳しい規制を設けることは極めて困難です。このため▼新規開業を考えている医師との協議をよりきめ細かく行う▼情報提供をよりきめ細かく行う—などの取り組みを強化していくことが現実的でしょう。
この点、今村聡構成員(日本医師会副会長)は「『地域で必要な機能提供の要請』時期をみると、『開設届け出時』などとなっているが、届け出時では遅すぎる」と指摘。確かに「開業準備を整え、届け出を行った」時点で「在宅医療をやってください」などと要請されても、「突然要請されても対応できない」医療機関が少なくないことは容易に想像できます。そこで、たとえば「開業を検討する段階」などに情報提供することが期待されますが、都道府県に「どの医師が、どの地域で開業を検討しているか」を察知し、そこに介入せよと求めるのは酷です(現実的に不可能)。どのような方策が考えられるのか、今後、知恵を絞る必要がありそうです。
また、外来偏在指標についても「病院と診療所では外来機能が大きく異なり、病院の中、診療所の中でも千差万別である。それを一括りに指標化するのは無理ではないか」など、見直しを求める声も出ています。ただし、▼2020年度からスタートしたばかりの新たな仕組みである▼2020年度からコロナ感染症が流行している—ことなどを踏まえれば「見直しは時期尚早ではないか」とも考えられます。コロナ感染症が落ち着きを見せ、各都道府県が外来医療計画に本腰を入れた後に「外来医師偏在が是正されてきているのか」などを見てから見直し論議をするほうが現実的と考えられそうです。
なお、上記(2)(3)の取り組みは「外来医師多数区域」では義務となりますが、それ以外の地域で「取り組んではいけない」ものではありません。例えば「在宅や初期救急の機能が不足している」地域では、新規開業医はもちろん、既存のクリニック(診療所)や中小病院に「地域で必要な医療機能を提供してほしい」と求めることが十分可能である点に留意が必要です。
かかりつけ医機能の明確化、かかりつけ医機能の発揮方策なども検討テーマに
ところで、外来医療を考えるうえでは「かかりつけ医」の話を忘れることはできません。「紹介中心型の高機能病院」(特定機能病院、地域医療支援病院、紹介受診重点医療機関など)と、「そこに紹介を行うかかりつけ医機能を持つ診療所、中小病院」とが、車の両輪といて地域ごとに稼働することで、効果的かつ効率的な外来医療提供体制が構築可能となるのです。
この点、本年(2022年)6月7日の「骨太方針2022」(経済財政運営と改革の基本方針2022)では「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」方針を明確化。
また、昨年(2021年)12月の「新経済・財政再生計画改革工程表2021」では、「かかりつけ医機能の明確化と、患者・医療者双方にとってかかりつけ医機能が有効に発揮されるための具体的方策について、2022年度・2023年度に検討する」方針を掲げています。
一方、2024年度からの第8次医療計画スタートを行うためには、「2022年度中に厚生労働省が基本方針を示す」(方針をもとに各都道府県で2023年度に医療計画を作成し、24年度からスタートさせる)ことが求められます。
厚労省医政局総務課の熊木正人課長は「かかりつけ医機能の明確化、かかりつけ医機能が発揮される方策を考えるとともに、現状の課題把握などを行う必要がある。法律上は医療計画・外来医療機能計画の中に『かかりつけ医』に関する記載は求められていないが、附随する事項として考えていく必要がある」とし、今後、検討会において「かかりつけ医機能」を検討していく考えを示しました。ただし、▼検討スケジュールをどう考えるのか(工程表では2022・23年度に検討すべしとされているが、検討会の議論のゴールは遅くとも「2022年度末」である)▼どこまで議論するのか・どこまで掘り下げるのか—などは今後、調整・整理していくことになります。今後の検討会論議に注目する必要があります。
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