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診療報酬での看護職員等の賃上げ、病院は「過不足の出ない精緻対応」、診療所は「シンプルな初・再診料等引き上げ」方針確認―中医協総会(3)

2024.1.11.(木)

2024年度の診療報酬改定において「医療従事者の処遇改善を診療報酬で手当てする」が、病院については「過不足の出ない精緻な対応」を行い、クリニックについては「シンプルな対応」を行ってはどうか—。

また「40歳未満の勤務医等や事務職員への処遇改善」も2024年度診療報酬改定の重要論点となっているが、勤務状況が極めて多様である点をどのように考えるべきか—。

1月10日に開催された中央社会保険医療協議会・総会、および先立って開催された診療報酬基本問題小委員会でこうした議論が行われました。

なお、同日には2024年度診療報酬改定に向けた「これまでの議論の整理(案)」も提示されました。1月中旬から下旬に示される「短冊」の目次に該当するもので、早ければ1月12日の会合で確定します(同日の一般病棟用の看護必要度見直し試算等に関する記事はこちら、ICU・HCU看護必要度見直し等に関する記事はこちら)。

病院は「過不足の出ない精緻な対応」、診療所には「患者負担も考慮したシンプル対応」

Gem Medで報じているとおり、武見敬三厚生労働大臣・鈴木俊一財務大臣の折衝により「看護職員、病院薬剤師、その他の医療関係職種の処遇改善(賃上げ)に向けて0.61%の診療報酬プラス改定を行う。2024年度にベースアップ分で2.5%の賃上げ、25年度に同じく2.0%の賃上げを行う」方針が決まり、入院・外来医療等の調査・評価分科会で技術的な検討が急ピッチで進んでいます。

これまでに次のような大きな方向が固まりつつあります(関連記事はこちら)。

▽病院等(入院医療)については、「賃上げに必要な金額」と「診療報酬対応で得られる収益」との間に過不足が生じないように精緻な対応を行う(看護職員処遇改善評価料のように、病院の状況にマッチする百数十種類の点数を用意する)
→入院医療では、多くのケースで高額療養費の対象となり患者負担のバラつきは吸収されうる

病院における試算2(入院料対応を150区分で行う場合)(入院・外来医療分科会5 240104)



▽クリニック等(外来、在宅医療)については患者負担のバラつきが生じないように、また医療機関等の事務負担が増加しないように、初診料や再診料、在宅患者訪問診療料の引き上げで対応する
→病院等のような精緻な対応を行えば、クリニックごとに再診料等が異なる(=患者負担も異なる)という事態が生じてしまう

もっとも、クリニック等での一律対応では「賃上げに必要な金額」と「診療報酬対応で得られる収益」との間に過不足が生じるため、この点をどう調整するかが今後の重要論点となってきます。

クリニックにおける試算2(補填状況には大きなバラつきが出る)(入院・外来医療分科会3 240104)

クリニックにおける試算1(初診料・再診料・在宅患者訪問診療料の引き上げ)(入院・外来医療分科会2 240104)



1月10日の中医協では、こうした状況を踏まえた意見交換が行われ、診療側・支払側双方が上記の方向に賛意を示しました。さらに、「患者数が限られる地域にあるクリニックや、再診料算定件数が少ないクリニックなどでは、初・再診料や訪問診療料による補填が小さくなる。そうした場合には、各医療機関が自院の状況を踏まえて『不足額を追加申請できる』仕組みなどを検討してはどうか」(診療側の長島公之委員:日本医師会常任理事)、「『賃上げに必要な額>診療報酬対応での収益』となるクリニック等には補助金や地域医療介護総合確保基金などでの対応を検討すべき」(支払側の佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、「訪問看護については、事業所で利用者数が大きく異なる点を踏まえれば、訪問看護基本療養費でなく、訪問看護管理療養費での対応が好ましい。必要額を得られない訪問看護ステーションには何らかの対応してほしい」(木澤晃代専門委員:日本看護協会常任理事)などの提案がなされており、今後の入院・外来医療等の調査・評価分科会でのさらなる技術的検討の参考意見となるでしょう。



なお、上述した大臣合意では「2024年度にベースアップ分で2.5%の賃上げ、25年度に同じく2.0%の賃上げを行う」とされていますが、診療報酬では「2.3%の賃上げ」を行うとされています。この点について厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は「24年度・25年度のベア(+2.5%、+2%)を平年化すると『3.5%のベースアップ』となる。このうち、0.6%相当を『医療機関等による通常のベースアップ』(関連記事はこちら)、0.6%相当を『賃上げ促進税制』で行い、残りの2.3%を今回の診療報酬対応で行う」旨を説明しています。

若手勤務医の処遇改善に向け「基本診療料の引き上げ」すべきか、「加算」を設けるべきか

また、武見厚労相・鈴木財務相の折衝では「40歳未満の勤務医・勤務歯科医、薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所に勤務する歯科技工士などの賃上げに資する措置分」としてプラス0.28%程度を充当する方針も固められました。

1月10日の中医協総会では、この点も議題にあがり、上述した「医療従事者の処遇改善」に比べて▼40歳未満の若手勤務は大学病院や急性期大規模病院で「本務」を行うと同時に、関連病院やクリニックで「兼務」を行うケースが多い。また若手医師は長期間の継続勤務モデルが当てはまらないケースも多い(どの医療機関が処遇改善を行えばよいのかが明確でない)▼事務職員の中には「民間企業からの派遣」スタッフも少なくなく、医療機関が給与をコントロールしにくい▼歯科技工所と歯科医療機関との関係は「複数-複数」であり、歯科医療機関が給与をコントロールしにくい—などの特殊事情(極めて多様な勤務形態など)があることが確認されました。

例えば若手勤務医の勤務形態は極めて多様である(中医協総会(3)1 240110)



こうした状況を踏まえて診療側の長島委員は「特殊事情を踏まえれば『基本診療料の引き上げ』が唯一無二の方法であろう。そこで得られた財源を、どのように若手医師に配分するかなどは各医療機関の裁量に任せるよりない」とコメント。他の診療側委員もこの見解に賛同しました。

一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「大臣合意では若手勤務医の給与をどこまで引き上げるべきかは示されておらず、また勤務形態の特殊事情もある。しかし、単純な基本診療料の引き上げは『病院・クリニックの経営格差』や『患者負担の増加』、『医療機関等ごとのスタッフ配置の違い』などという点を考慮すれば、データに基づいた十分な議論を経て検討・決定すべき事項であり、現状の時間が限られた中では決められない。仮に基本診療料で対応するとした場合でも『一定の要件を設けたうえで、加算での対応』とすべきである」との考えを示しました。

診療側は「基本診療料の引き上げと賃上げとは紐づけを行わず、賃上げの内容などは医療機関の裁量に委ねるべき」との、支払側は「診療報酬と賃上げとを一定程度紐づけるべき」との考えを示しており、両者には一定の差があります。上述した「若手勤務医等の勤務形態の特殊性・多様性」を考慮すれば診療側の意見を重視すべきと考えられます。一方、診療報酬対応は患者負担増に直結し、「『一般的に高所得者である医師』の賃上げを『より低い給与であることが多い患者』の負担増で行う」という点を考慮すれば、支払側の意見も十分に考慮する必要がありそうです。

この点は、後述する「診療報酬での対応が、きちんと医療従事者の賃金増に結び付いているか」の確認・検証にもつながってきます。今後、さらに検討が深められます。

診療報酬による処遇改善、事後検証のために「賃上げ計画と実績」報告を求める

「看護師など医療従事者の処遇改善」も、「40歳未満勤務医などの処遇改善」も、使途を限定して診療報酬プラス改定財源が確保されています(前者は+0.61%、後者は+0.28%)。このため、厚労省が「別の点数増などのために財源を使用する」ことも、各医療機関等が「処遇改善のためとして得た診療報酬収益を、他の用途(例えば機器の購入など)に充てる」こともできません。

そこで、「処遇改善のためとして得た診療報酬収益が、実際に処遇改善に充てられているのか」を確認・検証することが必要となります。

この点、看護職員処遇改善評価料では、「事前の賃金引き上げ計画」と「事後の賃金引き上げ実績」の報告を求めており、眞鍋医療課長は「同様の対応(事前の計画、事後の実績について報告を求める)としてはどうか」との考えを提案しました。

処遇改善について「賃上げ計画と、賃上げ実績」の報告を求めることで事後検証を行えるようにする必要がある(中医協総会(3)2 240110)



これに反対する声はありませんが、「個々のスタッフの状況などを細かく報告させることは事務負担増につながり好ましくない。賃上げ効果が把握できれば良いわけで、『賃上げ総額』の報告を求めるという簡素な仕組みとすべき」(診療側の長島委員)、「医療機関によっては定期昇給とベースアップを混然と行っているケースもある。柔軟な対応を可能とすべき」(診療側の池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長・福井県医師会長)、「短時間で完璧な対応を行うことはできず、制度改善のためにも検証が重要である。どのような診療報酬対応を行うにしても、事前の計画と、事後の実績について、きちんと報告してもらう必要がある」(支払側の松本委員)といった注文がついています。

ここで前述した「40歳未満勤務医などの処遇改善」を、「紐のついていない基本診療の引き上げ」で行うべきか、「賃上げと紐づけた加算」で行うべきかの論点が改めて浮上します。

支払側の提唱する「賃上げと紐づけた加算」であれば、「診療報酬による収益」と「賃上げに充てた費用」との追跡・検証が比較的容易に行えます。透明性、効果検証の面では、こちらの手法に軍配が上がりそうです。

一方、診療側の提唱とする「紐のついていない基本診療料の引き上げ」の場合には、「診療報酬による収益」と「賃上げに充てた費用」との追跡・検証が難しくなってきます。とりわけ改定を重ねる中で、両者の関係が見えにくくなります。

非常に難しい論点であり、今後の検討に注目する必要があります。

中医協論議を「改定基本方針」に沿って整理した「短冊の目次」を近く固める

また1月10日の中医協総会には、これまでの中医協論議を、診療報酬改定の基本方針の項目立てに沿って振り分けた「これまでの議論の整理(案)」が提示されています。

具体的には、(1)現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進(2)ポスト 2025 を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進(3)安心・安全で質の高い医療の推進(4)効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上—という4つの基本方針の柱に沿って、これまでの改定論議を整理しています。

たとえば(1)では、上述した「医療従事者の処遇改善」のほか、医師事務作業補助体制加算などタスク・シフティングなどを推進する診療報酬の充実、ICTを利活用した業務効率化の推進、地域医療体制確保加算の見直しなどが盛り込まれています。

「これまでの議論の整理(案)」(今後、修正が行われます)

これは、1月中旬から下旬にかけて示される「短冊」の目次にもなり、「2024年度診療報酬改定の一覧」と位置付けることもできるでしょう。早ければ1月12日の会合で「短冊の目次」が確定します。



また同日には、▼SUC(単回使用医療機器、Single-use Device)の使用促進を図るため、医療機関による患者説明・分別・研修受講などの手間を考慮し、SUDを用いた手術(経皮的カテーテル心筋焼灼術など)の評価充実を図る(例えば使用実績等に応じた加算等)▼孤独孤立等に伴う精神的な疾病や早期の自殺対策を図るため、【こころの連携指導料(I)】取得にかかる「かかりつけ医の研修」について明確化を図る—などの点も議論されています。

2022改定で心の連携指導料が設けられた(中医協総会(3)3 240110)



なおGem Medではオンラインの改定セミナーで詳細な解説を行っています。是非、ご活用ください。



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一部に「歪んだオンライン診療」、適切な形でのオンライン診療推進を目指せ!D to P with Nの量・質の拡充を―入院・外来医療分科会(4)
外来医療の機能分化が2024年度診療報酬改定でも重要テーマ、生活習慣病管理の取得・算定推進に向けた手立ては―入院・外来医療分科会(3)
入退院支援加算について「入院料別の施設基準・算定要件」など検討しては、緊急入院患者の退院支援が重要課題―入院・外来医療分科会(2)
がん化学療法の外来移行、「栄養指導」や「仕事と治療との両立支援」などと一体的・総合的に進めよ―入院・外来医療分科会(1)
高額な医薬品・医療機器など、より迅速かつ適切に費用対効果評価を行える仕組みを目指せ、評価人材の育成も急務―中医協
新薬創出等加算の企業要件には「相当の合理性」あり、ドラッグ・ラグ/ロスで日本国民が被る不利益をまず明確化せよ―中医協・薬価専門部会
在宅医療ニーズの急増に備え「在宅医療の質・量双方の充実」が継続課題!訪問看護師の心身負担増への対応も重要課題—中医協総会
入院医療における「身体拘束の縮小・廃止」のためには「病院長の意識・決断」が非常に重要―入院・外来医療分科会(3)
地域包括ケア病棟、誤嚥性肺炎等の直接入棟患者に「早期から適切なリハビリ」実施すべき―入院・外来医療分科会(2)
総合入院体制加算から急性期充実体制へのシフトで地域医療への影響は?加算取得病院の地域差をどう考えるか―入院・外来医療分科会(1)
「特許期間中の薬価を維持する」仕組み導入などで、日本の医薬品市場の魅力向上を図るべき―中医協・薬価専門部会
乳がん再発リスクなどを検出するプログラム医療機器、メーカーの体制など整い2023年9月から保険適用―中医協総会(2)
高齢患者の急性期入院、入院後のトリアージにより、下り搬送も含めた「適切な病棟での対応」を促進してはどうか—中医協総会(1)
2024年度の薬価・材料価格制度改革論議始まる、医薬品に関する有識者検討会報告書は「あくまで参考診療」—中医協総会(3)
マイナンバーカードの保険証利用が進むほどメリットを実感する者が増えていくため、利用体制整備が最重要—中医協総会(2)
かかりつけ医機能は「地域の医療機関が連携して果たす」べきもの、診療報酬による評価でもこの点を踏まえよ—中医協総会(1)
2024年度の診療報酬・介護報酬・障害福祉等サービス報酬の同時改定で「医療・介護・障害者福祉の連携強化」目指せ—中医協総会(2)
医師働き方改革サポートする【地域医療体制確保加算】取得病院で、勤務医負担がわずかだが増加している—中医協総会(1)
患者・一般国民の多くはオンライン診療よりも対面診療を希望、かかりつけ医機能評価する診療報酬の取得は低調―入院・外来医療分科会(5)
医師働き方改革のポイントは「薬剤師へのタスク・シフト」、薬剤師確保に向けた診療報酬でのサポートを―入院・外来医療分科会(4)
地域包括ケア病棟で救急患者対応相当程度進む、回復期リハビリ病棟で重症患者受け入れなど進む―入院・外来医療分科会(3)
スーパーICU評価の【重症患者対応体制強化加算】、「看護配置に含めない看護師2名以上配置」等が大きなハードル―入院・外来医療分科会(2)
急性期一般1で「病床利用率が下がり、在院日数が延伸し、重症患者割合が下がっている」点をどう考えるべきか―入院・外来医療分科会(1)

総合入院体制加算⇒急性期充実体制加算シフトで産科医療等に悪影響?僻地での訪問看護+オンライン診療を推進!—中医協総会
DPC病院は「DPC制度の正しい理解」が極めて重要、制度の周知徹底と合わせ、違反時の「退出勧告」などの対応検討を—中医協総会
2024年度の費用対効果制度改革に向けた論議スタート、まずは現行制度の課題を抽出―中医協
電子カルテ標準化や医療機関のサイバーセキュリティ対策等の医療DX、診療報酬でどうサポートするか—中医協総会

日常診療・介護の中で「人生の最終段階に受けたい・受けたくない医療・介護」の意思決定支援進めよ!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
訪問看護の24時間対応推進には「負担軽減」策が必須!「頻回な訪問看護」提供への工夫を!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは—中医協・介護給付費分科会の意見交換
2024年度の診療報酬に向け、まず第8次医療計画・医師働き方改革・医療DXに関する意見交換を今春より実施—中医協総会

2022年度改定での「在宅医療の裾野を広げるための加算」や「リフィル処方箋」など、まだ十分に活用されていない—中医協(1)