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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

「マイナンバーカードの保険証利用」しない人に対し、無償で最長1年有効の「医療保険加入の資格確認書」を発行—社保審・医療保険部会(1)

2023.2.27.(月)

いわゆる医療DXの実現に向けてマイナンバーカードの保険証利用を進めていくが、マイナンバーカードの保険証利用をできない人・しない人に対しては、無償で最長1年有効の「医療保険加入の資格確認書」を発行し、これをもって保険診療を受診してもらうことになる。健康保険法などを改正し「資格確認書」発行の規定を整備していく—。

2月24日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった議論が行われました。2024年秋予定の「被保険者証(保険証)の廃止・マイナンバーカードとの一体化」に向けてさらに準備が進められます。

2月24日に開催された「第163回 社会保障審議会 医療保険部会」

マイナンバーカードの保険証利用、そのメリットを国民・患者に丁寧に説くことが重要

医療分野においても、質向上・生産性向上に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが加速化し、例えば「患者の過去の診療情報を全国の医療機関等で共有・確認し、その情報を現在の診療に活かす」取り組みが始まっています(関連記事はこちらこちら)。

この仕組みが本領を発揮するためには、「すべての医療機関等でDXの基盤となるオンライン資格確認等システムが導入」され、「すべての国民がマイナンバーカードの被保険者証(保険証)利用」を行うことが強く求められます。医療機関側の基盤は整ったが患者がその利用を求めない、逆に、国民・患者側の準備は整ったが医療機関等でそれを活用する体制が整っていないのでは、DXは進みません。

前者の「オンライン資格確認等システム」については、本年(2023年)4月以降、原則としてオンライン資格確認等システムを導入することが保険医療機関等に義務付けられます(紙レセプト対応医療機関等は例外、また一部医療機関等には経過措置を設けることが昨年末(2022年末)の中央社会保険医療協議会で決定された、関連記事はこちら)。導入状況を見ると、本年(2023年)2月19日時点で、▼カードリーダー申し込み:91.8%(義務化施設では98.6%)▼準備完了:59.3%(義務化施設では63.6%)▼運用開始:49.6%(義務化施設では53.2%)—という状況です。

後者のマイナンバーカードについては、人口比で有効申請が69.8%、交付済が62.3%となり、さらに2月21日時点では7割に乗ったことが報告されました。

オンライン資格確認等システムの導入状況、マイナンバーカードの発行状況(医療保険部会(1)3 230224)



さらに、政府は2024年秋に「保険証(被保険者証)を廃止し、マイナンバーカードの保険証利用(いわゆるマイナ保険証)に原則一本化する」方針を提示。デジタル庁・厚生労働省・総務省が「マイナンバーカードの保険証利用」原則化に向けた諸課題(マイナンバーカード特急発行(紛失時、新生児など)、代理交付、市町村による受け付け拡大、マイナンバーカード不所持の場合の取り扱い、保険者への資格情報入力のタイムラグ解消、災害時等の対応など)について解決策を議論。2月17日には次のような考えを盛り込んだ中間まとめを行いました。

(1)特急発行・交付の仕組みの創設等(申請から1週間以内(最短5日)で交付できる仕組 みを創設し、2024年秋までに1日1万枚(年間360万枚)に対応する)

(2)代理交付・申請の仕組みを緩和・拡充する(未成年者や障害者などについて、簡便に代理で申請・交付をできるようにする)

(3)「介護福祉施設等の高齢者が利用しやすい場所」や「保険証を活用する現場である医療機関等」での出張申請を推進する

(4)マイナンバーカードによりオンライン資格確認を受けることができない場合に「資格確認書」を提供する

(5)医療保険者における「情報入力」タイムラグなどの解消に努める(被保険者の情報を正確かつ迅速に入力することを制度的に促していくことを検討)

(6)医療機関等の受診時にマイナンバーカードを第3者に預ける(要介護者の同行受診時など)ことや、施設入所者のマイナンバーカードの管理の在り方などについて留意点等を整理し、安心して管理することができる環境づくりを推進する

(7)乳幼児について「出世届と同時にマイナンバーカード申請ができる」ような仕組みを設ける

●マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会の中間まとめはこちらこちら(概要)



このうち(4)の「資格確認書」について見てみましょう。政府は、例えば▼マイナンバーカードを紛失した▼マイナンバーカードを更新中である▼介護が必要な高齢者やこどもなどでマイナンバーカードを取得していない▼ベビーシッターなどの第三者が本人に同行して本人の資格確認を補助する必要がある—などの場合に、医療機関で保険診療を受けるに当たって、自身の被保険者資格(医療保険に加入していること)を証明するための「資格確認書」を医療保険者(健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険など)が発行する仕組みを設ける方針を明らかにしています。

資格確認書の有効期間は「最長1年間」(具体的な期限は各医療保険者が設定する)で、原則として本人の申請に基づいて、無償で発行することになります(ただし、様々な事情で申請しないケースも考えられ、「当面の間、医療保険者の判断で、申請を待たずに発行できる」仕組みも設け、「マイナンバーカードも持たず、資格確認書もないために保険診療を受けられない」という事態の発生を防ぐ)。

この資格確認書発行に向けて、厚労省では健康保険法や国民健康保険法などの「医療保険各法の改正」を行う考えも示しており、今後、詳細が詰められます(あわせて国民健康保険料(税)の長期滞納者向けの短期被保険者証を廃止し、3割負担でなく「一度全額を支払い、後に7割分の償還を受ける」特別療養費の対象者であることを事前に通知する仕組みも設ける)。また、現在発行されている「保険証」(被保険者証)についても「廃止から1年間有効とする経過措置」が設けられる見込みです。

資格確認書の発行制度などを、健康保険法などに規定する(医療保険部会(1)1 230224)

発行済の保険証について「保険証廃止後も1年間は使用できる」こととする(医療保険部会(1)2 230224)



ただし、この資格確認書発行には問題もありそうです。政府は、上述のように資格確認書を発行する場面としては「マイナンバーカードの紛失」などを例示していますが、マイナンバーカードの所持は「義務」ではありません。様々な理由で「マイナンバーカードを持ちたくない」と考えている人もいます。マイナンバーカードの申請は7割を超えましたが、残りの一定数は「2万円分のポイント付与などがあってもマイナンバーカードを持ちたくない」と考えていると推測されます。

こうした少なくない国民は資格確認書を医療保険者に、少なくとも毎年度申請することになります(有効期間が最長1年)。仮にこうした国民が1割いた場合には1200万人に、2割いた場合には2400万人に「毎年度、資格確認書を無償で提供する」こととなり、医療保険者には相当の事務負担が求められまることになりそうです。

また、資格確認書は「紙または電磁的方法で提供する」ことが想定されています。後者の「電磁的方法」の具体的な姿は今後検討されますが、例えば「スマートフォン等に資格事項を送付する」ことなどが考えられるかもしれません。この場合、一般の患者・国民にとっては「わざわざマイナンバーカードを携行しなくともよい。マイナンバーカードよりはるかに便利である」と受け止められ、「マイナンバーカードの保険証利用」につながっていかなくなるとも思われます。

「マイナンバーカードの取得は義務ではない」「医療保険の加入資格証明を有償とすることは難しい」などの点を考えると、上記の問題はそう簡単には解決しないでしょう。「マイナンバーカードの保険証利用のメリットを患者・国民が強く実感できるようにならなければ医療DXは十分には進まない。『患者の過去の診療情報を活用した質の高い医療が受けられる』と言っても、具体的に自分にはどういうメリットがあるのか分からない国民のほうが多いであろう。より具体的に広報していく必要がある」と指摘する識者も少なくありません。

医療保険部会でも、「国民・患者がマイナンバーカードの保険証利用のメリットを強く感じられるようにすべき、保険者の事務負担増に対する支援も充実してほしい」(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長)「オンライン資格確認等システムの普及と、マイナンバーカードの普及とを車の両輪としてさらに進めていくべき」(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)、「マイナンバーカードを所持しておらず、資格確認書も手元になく保険診療が受けられないなどの混乱が生じないように配慮すべき」(秋山智弥委員:日本看護協会副会長)—などの意見が出ています。マイナンバーカードの普及促進や、関連の制度改正(上述した資格確認書発行のための医療保険各法改正など)に向けて、こうした意見も参考にしていくことになります。

オンライン資格確認等システムのメリット(医療保険部会(1)4 230224)



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