医療機関での電子処方箋導入をどのように進めていくべきか、アレルギー情報等チェック機能追加等をどう考えるべきか―電子処方箋ワーキング
2024.9.24.(火)
電子処方箋システムについて、医療機関での普及が芳しくない。「来年(2025年)3月末に概ねすべての医療機関等で導入する」との目標を見直すべきか、目標は変えず導入スピードを加速していくべきか―。
電子処方箋に、新たに「アレルギー情報などのチェック機能」などの追加を求める声が現場からも極めて多数出ているが、「アラートが乱発されれば、かえって重要情報を見落としてしまう」危険もあり、また「五月雨式の機能追加」による負担増という面もある。こうした機能追加をどう考えていくべきか―。
「医療機関⇔薬局」での情報連携を、すでに運用がスタートしている電子処方箋システムの中で行うべきか、これから運用が始まる電子カルテ情報共有サービスの中で行うべきか—。
9月24日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「電子処方箋等検討ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こうした議論が行われました。
目次
医療機関における電子処方箋の普及が芳しくない、どのように普及を促していくか
電子処方箋は、オンライン資格確認等システムのインフラを活用し、これまで「紙」で運用されていた医療機関から薬局への処方指示(処方箋発行)を「オンライン」で行うもので、大まかな流れは以下のようになります(関連記事はこちら)。
(a)患者が医療機関を受診し、「電子処方箋の発行」を希望する(オンライン資格確認等システムでの資格認証や診察時などに確認、マイナンバーカード以外で受診する場合には口頭で確認する)
↓
(b)医療機関において医師が、オンライン資格確認等システムの中に設けられる【電子処方箋管理サービス】に「処方箋内容を登録」する
↓
(c)医療機関は患者に「電子処方箋の控え」(紙、アプリ)を交付する
↓
(d)患者が薬局を受診し、「電子処方箋の控え」を提示する
↓
(e)薬局において、薬剤師が【電子処方箋管理サービス】から「処方箋内容」を取得し、調剤を行う
↓
(d)患者に薬剤を交付する
このうち(b)および(e)において、患者同意の下で「過去に処方・調剤された薬剤情報」の閲覧が可能になるため、重複投薬や多剤投与、禁忌薬剤の投与などを「リアルタイム」でチェックし是正を図ることが可能になります。
電子処方箋については、「普及」や「機能」について課題もあり、9月24日のワーキングでも(A)普及拡大(B)機能追加(C)「医療機関・薬局間の情報」の共有・標準化等—に関する議論が行われました。
まず(A)の普及状況に関して見てみましょう。9月12日に開催された親会議(健康・医療・介護情報利活用検討会」において、本年(2024年)9月1日時点で、医療機関等の14.58%(▼病院:1.92%▼医科クリニック:4.47%▼歯科クリニック:0.25%▼薬局:44.55%)—で導入済であること、来年(2025年)3月末での「概ねすべての医療機関・薬局における電子処方箋システム導入」という目標達成に向けて、次のような対応を行うことが報告されています。
▽導入支援(電子処方箋導入補助の拡充・診療報酬上の対応(医療DX推進体制整備加算)などを実施)
▽システム改修(▼リフィル処方箋対応(昨年(2023年)12月末に対応済)▼重複投薬等チェックにおける口頭同意(マイナ保険証を利用しない患者、情報共有を同意しない患者でも、併用禁忌などを確認できる仕組み)対応(同)▼マイナンバーカードを活用した電子署名(同)▼調剤済み処方箋の保存サービス(本年(2024年)7月に対応済)▼院内処方対応(今後改修)▼薬局起点の情報共有等(今後検討)—)
また9月24日のワーキングでは、武見敬三厚生労働大臣ら厚労省幹部から公的病院に対し「普及促進」要請が行われ、本年度(2024年度)中に、厚労省所管病院(国立病院機構など)の7割、他省庁所管病院(大学病院など)の4割で電子処方箋が導入される予定であることなどが報告されました。
こうした状況について長島公之構成員(日本医師会常任理事)は「体力もあり、国から直接の働きかけを受けている公的病院でも来年(2025年)3月末の100%導入は難しい。現実的な目標に見直すとともに、導入しやすく・継続しやすく・機能追加しやすい方策を現実に即して考える必要がある」と改めて強調(関連記事はこちら)。また大道道大構成員(日本病院会副会長)は「医療機関での導入が遅れている背景には、▼五月雨式の開発が続き、『現時点での導入は得策ではない。もう少し待って機能が固まってからのほうが、無駄な追加コストが抑えられるのではないか』と考えている▼病院経営が非常に苦しい状況にあり、導入・運用コストの捻出が困難である―という2点がある。この2点を踏まえて対策が必要である」と訴えました。
ただし、横尾俊彦構成員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長、佐賀県多久市長)は「災害時に電子処方箋情報を活用して、被災者に適切な医薬品を提供するなど、電子処方箋の意義は非常に大きい。目標見直しを求める声もあるが、スピードを緩めてはいけない」との考えを提示。また厚労省サイドも「現時点では目標を見直す予定はない。医療DX推進体制整備加算では来年(2025年)4月から電子処方箋導入が要件となるため、今後、普及が加速すると期待している」とコメントしています。
電子処方箋による「リアルタイムでの医薬品処方・調剤情報の共有」のメリットは横尾構成員の指摘する通り、きわめて重要です(レセプト情報では1か月超の遅れが生じる)。どのように普及を図っていくか、さらなる議論・検討が求められています。
電子処方箋、アレルギー等のチェック機能や事前処方箋送付機能の追加をどう進めるか
(B)の機能追加項目としては、例えば▼アレルギー情報や検査値、併用注意などの「チェック機能」の拡充▼処方箋の薬局への事前送付—などが検討されており、いずれについても医療機関や薬局から「有用であり実装してほしい」との声が極めて数多く出ています。
ただし、チェック機能を拡充した場合には「アラートが数多く出されることとなり、かえって重要なアラートを見逃してしまうことにならないか」との、処方箋事前送付に関しては「患者が異なる薬局を訪れてしまうこともあり、そうした場面への対応が必要ではないか」との課題も浮上しています。
今後、メリットとデメリットの両面を勘案しながら「機能追加・拡充」が図られていきます。
この点については、▼機能の拡充は、それ自体を望む声が現場に多いのは当然であるが、追加費用を勘案すれば現場の声も変わってくる。機能追加・拡充によるメリットと、それに伴う負担とのバランス、さらには優先順位を慎重に勘案すべき。現時点の最優先課題は「普及」であり、機能追加→負担増によって、最優先課題である「普及」が阻害されないか留意すべきである。また五月雨式の機能追加ではなく、ある程度「一括した機能追加」を考える必要がある(長島構成員)▼チェック機能の拡充は極めて重要であるが、アラートが乱発されれば、重要なものを見落としてしまうことにもつながりかねない。現場の運用実態も見ながら機能追加を検討していく必要がある。また患者の視点も忘れてはならない(紙処方箋に慣れている患者が電子化で混乱することも考えられる)(原口亨構成員:日本薬剤師会副会長)▼どの機能をオンするかを薬局側が選べるようにしてはどうか。例えば、ある薬局では「併用禁忌の薬剤が出ている場合にはロックされる」機能をオンするが、重要でないと考えるアラートはオフにするなどすれば、過剰なアラートを避け、適切な調剤が可能となる(川上純一構成員:日本病院薬剤師会副会長)—など、多様な意見が出ています。
厚労省も「追加機能のオプション化(薬局サイドでどの機能を実装するかを選択可能とする)」を考えていることを明らかにしており、今後、さらに「どのような機能を、どの時期に追加するのか」の議論が継続されます。
「医療機関⇔薬局」の情報連携・共有をどう進めていくことが望ましいか
また(C)の「医療機関・薬局間の情報」の共有・標準化等も、機能追加・拡充案の1つです。
現在の電子処方箋にも「薬局から医療機関へのコメント」機能がありますが、▼コメント機能にとどまっている▼調剤時などに限定されている—ため、「薬局→医療機関への情報伝達」機能として十分とは言いにくいのが実際です(例えばトレーシングレポートを薬局から医療機関へ送付する機能は現行電子処方箋にはない)。
そこで、「薬局→医療機関への情報伝達」を充実するための新機能を電子処方箋システムに追加すべきではないか、との意見が出ているのです。これにより、▼例えば調剤報酬上の【服薬情報等提供料】や【服用薬剤調整支援料】で要件となっている「薬局→医療機関への情報伝達」がより円滑に行えること▼医療機関の負担(現在、メールやファクシミリで得た情報を医療機関で電子カルテ等に入力している)が軽減する▼副作用の重篤化の回避などや、最適な処方内容の検討など、医療の質の向上につながる—などの効果が期待されます。
こうした「医療機関-薬局」間の情報連携の重要性は構成員間でも共有されており、疑うところはありませんが、「別に構築が進んでいる電子カルテ情報共有サービスとの機能分担なども考えなければならない」などの課題もあります。
構成員からは、▼一方的な「薬局→医療機関」の情報提供だけでなく、「医療機関⇔薬局」双方向の情報共有が重要である。その観点からすれば電子カルテ情報共有サービスで情報連携・共有を行うほうが自然で、現場負担も小さいのではないか(長島構成員)▼短期的には電子処方箋による情報共有が良いと思う(電子処方箋はすでにスタートしているが、電子カルテ情報共有サービスは2025年1月からモデル事業がスタートし、2025年度中に本格運用となる)が、処方とは直接関係しない情報(例えば持参薬など)の連携を考慮すれば、将来的には電子カルテ情報共有サービスでの情報連携・共有が望ましい(川上構成員)▼かつては電子カルテを各病院がバラバラに導入し、現在、標準化に難渋している。トレーシングレポートについても、現在の様式はバラバラであり、早めに標準化を進めたほうがよい(鳥飼幸太構成員:群馬大学医学部附属病院システム統合センター准教授)▼例えばトレーシングレポートを電子的に共有するとして、その範囲をどう考えるのか(個別の医慮機関のみで閲覧可能とするのか?全国の医療機関で閲覧可能とするのか?かかりつけ医は閲覧できるのか?)を事前に明確にする必要がある(大道構成員)—など、さまざまな視点に立った意見が出されました。
電子カルテ情報共有サービスとの役割分担も含め、「医療機関⇔薬局」の情報連携をどう進めることがもっとも効率的かつ効果的かを、今後、さらに議論していくことになります。
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