電子処方箋、併用注意や院内処方、長期収載品の選定療養への対応など進めるが、「医療機関等への普及促進」が大前提―電子処方箋ワーキング
2024.6.19.(水)
電子処方箋システムについて、「併用注意」や「院内処方」、「長期収載品の選定療養」などへの対応を進めていくが、その大前提として「医療機関等、とりわけ医療機関への普及促進」が極めて重要である—。
6月19日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「電子処方箋等検討ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こうした議論が行われました。
リフィル処方箋対応も重要だが、そもそも「リフィル処方箋」発行は極めて低調である
電子処方箋は、オンライン資格確認等システムのインフラを活用し、これまで「紙」で運用されていた、医療機関から薬局への処方指示(処方箋発行)を「オンライン」で行うもので、大まかな流れは以下のようになります(関連記事はこちら)。
(a)患者が医療機関を受診し、「電子処方箋の発行」を希望する(オンライン資格確認等システムでの資格認証や診察時などに確認、マイナンバーカード以外で受診する場合には口頭で確認する)
↓
(b)医療機関において医師が、オンライン資格確認等システムの中に設けられる【電子処方箋管理サービス】に「処方箋内容を登録」する
↓
(c)医療機関は患者に「電子処方箋の控え」(紙、アプリ)を交付する
↓
(d)患者が薬局を受診し、「電子処方箋の控え」を提示する
↓
(e)薬局において、薬剤師が【電子処方箋管理サービス】から「処方箋内容」を取得し、調剤を行う
↓
(d)患者に薬剤を交付する
このうち(b)および(e)において、患者同意の下で「過去に処方・調剤された薬剤情報」の閲覧が可能になるため、重複投薬や多剤投与、禁忌薬剤の投与などを「リアルタイム」でチェックし是正を図ることが可能になります。
電子処方箋については、徐々に参加医療機関等が増加してきていますが、「機能改善」を求める声も多く、6月19日のワーキングでは次のような機能改修・追加を行ってはどうかとの考えが厚生労働省から示されました。
【2024年度】
▽患者が長期収載品を希望した場合の「選定療養」(患者特別負担)への対応
→本年(2024年)10月から▼後発品変更不可の理由(医療上必要/患者希望)を記録できるようにする▼処方内容控えに「変更不可の理由」を表示する—
▽院内処方対応への対応(関連記事はこちら)
→来年(2025年)1月以降に「入院中/院内外来/退院時処方を登録可能」にする
【2025年度以降】
▽電子処方箋管理サービスにおけるチェック機能の拡充
→現在「併用禁忌」についてチェックしアラートが表示されるが、さらに「併用注意」についても重複投薬等チェックでアラートが表示されるようにしてはどうか
→電子カルテ情報共有サービス由来の情報(検査値、傷病名、アレルギー等)ともチェックがかかるように改修してはどうか
▽処方箋事前送付の合理化・利便性向上
→現在、医療機関からの電子処方箋発行後、引換番号・被保険者番号を患者が薬局に通知することで事前に電子処方箋を取得でき、すぐさま調剤を行える状態としているが、より利便性の高い方法(例えばマイナポータルに事前に患者が「かかりつけ薬局」を設定しておき、自動的に薬局に電子処方箋が送付される仕組みなど)の実現に向けた検討を行ってはどうか
▽電子処方箋データの更なる利活用
→電子処方箋管理サービスにリアルタイムに蓄積される処方・調剤情報を、例えば▼感染症流行状況の分析や治療薬等生産計画の補助(例えばインフルエンザ治療薬の状況から流行状況を把握するなど)▼医薬品流通量の把握(供給不安薬の状況を把握し、増産・確保などに活用する)—などに活用することを検討してはどうか
▽薬局起点の情報(トレーシングレポート等)の共有・標準化等
→処方箋情報だけでなく、薬局で作成するトレーシングレポートをはじめ、患者の残薬や服薬状況、体調の変化等に関する情報や文書についても電子化し、医療機関・薬局を跨いで共有できるようにすることを検討してはどうか
こうした機能改善方向については、構成員から様々な意見が出されました。
まず長島公之構成員(日本医師会常任理事)は、「電子処方箋の普及、とりわけ医療機関での普及が進んでいない。まず電子処方箋を希望する医療機関が円滑に導入できる環境整備が重要であり、それなくして機能拡充はありえない」と訴えました。
本年(2024年)6月9日現在、電子処方箋は全国で2万3983施設にまで拡大していますが(6月2日時点の電子処方箋導入施設リストはこちら)、このうち2万2000施設程度は調剤薬局で、医療機関での対応は2000施設程度にとどまっています。
この点に関連して長島構成員は「2024年度診療報酬改定で【医療DX推進体制整備加算】が新設され、『来年(2025年)4月以降は電子処方箋発行』が要件となる。電子処方箋対応を希望するが、システムベンダーの対応遅れやシステム改修コストなどの要因で導入できなくなれば、医療DX推進に向けた大きな逆風となる。国の責務で円滑に電子処方箋を導入できる環境を整備すべき」と強く要請しました。
厚労省も「電子処方箋導入補助の拡充」(補助上限拡充、一部都道府県での上乗せ補助)を行っており、後者の自治体独自補助(上乗せ補助)については全都道府県で実施できるように厚労省から自治体サイドへの働きかけを行っていく考えが示されています。
もっとも、大道道大構成員(日本病院会常任理事)は「約8500ある病院のうち、電子処方箋導入は131施設にとどまっている。その背景には『五月雨式のシステム改修が必要となり(上述のように2024・25年度以降も改修予定あり)、どういった対応をとればよいか把握しきれない』点もある」点を指摘します。補助の拡充も重要であるが、都度都度システム改修を行えば、病院の負担も都度都度発生し、当然、改修コストもかかります。「電子処方箋の将来見通し」を明確にすることが重要である旨を大道構成員は強調しています。
また、上述の機能改善案そのものに対してもさまざまな意見が出されおり、さらなる検討を継続する必要がありそうです。
例えば、【チェック機能の拡充】については、「併用禁忌に加え、併用注意についてもアラートを出す」方針に異論は出ていませんが、「検査値や傷病名、アレルギー情報に関連したアラート」表示に関しては、「過去のアレルギー歴を踏まえてアラートを出す」などの機能は極めて有用であるものの、▼アラートが多すぎれば参照されにくくなる可能性もある▼患者の状態等は極めて多様であり、どの範囲でアラートを出せばよいのかを十分に時間をかけて慎重に検討しなければならない(渡邊大記構成員:日本薬剤師会副会長)▼確実な管理を行うために標準マスターの整備が必須であり、また医療機関ごとに管理が異なる仕組みとした場合、「A医療機関等ではアレルギーはチェックするが、B医療機関等では行わない」などの情報を患者サイドに公表する必要があろう(川上純一構成員:日本病院薬剤師会副会長)▼電子処方箋側で対応するのか、電子カルテ情報共有サービス側で対応するのかという点から検討すべきであろう。さらに先立って添付文書記載の標準化も必須である(長島構成員)▼多剤投与をチェックし、アラートを出すような仕組みも検討してはどうか(田河慶太構成員:健康保険組合連合会参与)—などの多様な意見が出されています。
また、【電子処方箋の事前送付】(例えば、患者が予め「かかりつけの薬局」を登録し、そこに電子処方箋が自動的に送付される仕組みなど)については、より円滑に事前送付が可能となれば、患者の薬局での待ち時間が短縮するなどのメリットが考えられますが、▼大手薬局チェーンによる患者の抱え込みにつながらないようにする必要があるのではないか(川上構成員)▼患者が、事前送付したところと「別の薬局」を選択した場合の対応なども考えておく必要がある(渡邊構成員)—といった注文もついています。
さらに、【電子処方箋に集積された情報・データの利活用】については、反対意見はないものの「電子処方箋の普及状況を踏まえれば、データに悉皆性がない。レセプト情報との併用等が必要になろう」(渡邊構成員、長島構成員)といった注文が出されました。
他方、今年度(2024年度)中に対応が行われる「院内処方対応」については、「医療機関への周知が遅れているのではないか、現時点で『医療機関からどこまでの引き合い(注文)があるのか』を見極められず、ベンダー側としてシステム改修対応に二の足を踏むところも少なくない」との状況報告が新垣淑仁構成員(保健医療福祉情報システム工業会事業企画推進副室長)から行われています。厚労省は「院内処方対応」について「近く技術解説書を提示し、年内にシステムベンダーにおいて対応してもらう」とのスケジュール案を描いていますが、さらなる調整が必要かもしれません。
厚労省は、こうしたワーキングでの意見も踏まえて、電子処方箋のさらなる普及に努めるとともに、機能改善に向けた検討を継続していきます。
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