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高額療養費の見直し(上限アップ、所得区分細分化)論議続く、高齢者の外来受診頻度、現役世代の負担感等が考慮要素—社保審・医療保険部会(2)

2024.12.3.(火)

高額薬剤等が登場して医療保険財政が厳しくなってきている点、「現役世代の負担」を軽減すべき点などを踏まえて、高額療養費の上限額引き上げ・所得区分の細分化を行ってはどうか―。

その際、「高齢者では外来受診頻度が高く、そうした点への配慮をどう考えるか」、「現役世代の負担の重さをどう軽減していくか」といった視点で検討することが重要である—。

こうした議論が11月28日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こうした議論が行われました。さらに議論が重ねられます(同日の医師偏在対策に関する議論の記事はこちら)。

11月28日に開催された「第187回 社会保障審議会 医療保険部会」

高齢者では外来受診頻度が高く、約4割が毎月医療機関を受診

Gem Medでも報じているとおり、未曽有の少子高齢化が進み、「減少していく現役世代」で、「増加する高齢者」を支えなければならない状況では、現在の「負担は現役世代中心、給付は高齢者中心」という社会保障制度から、「少しでも多くの方に『支えられる側』ではなく『支える側』として活躍してもらうことで、『支える側』と『支えられる側』のバランスを見直していく。負担能力のある高齢者には、社会保障の支え手側に回ってもらう」ことを柱とする全世代型社会保障制度への見直しが進められてきています(関連記事はこちらこちらこちら)。

その一環として、医療保険部会では「高額療養費について見直しを行うべき」(自己負担上限の引き上げ、所得区分の細分化など)をテーマに議論を行っています。

我が国の医療保険制度では「毎月の医療費自己負担を一定程度に抑える」(患者自身が支払える額に抑える)ための【高額療養費制度】が設けられています。自己負担額上限は「年齢」と「所得」に応じて下表のように複雑に設定されていますが、たとえば70歳未満・年収約370-770万円の人で、ある月の医療費が100万円であった場合には、自己負担額は「30万円」(100万円の3割)ではなく、「8万7430円」(8万100円+(100万円-26万7000円)×1%)となります。

高額療養費の概要1(社保審・医療保険部会2 241121)

高額療養費の概要2(社保審・医療保険部会3 241121)



このように高額療養費制度は「安心して保険医療を受けられる」ための非常に重要な意味を持っていますが、(a)上記の全世代型社会保障の視点に立つと、年齢ではなく「負担能力」に応じた負担(自己負担上限)とすべきではないか(b)医療の高度化が進む中で、高額療養費の対象等が増え、「高額療養費の増加」→「医療保険の負担増」→「現役世代の保険料負担増」につながっており、上限額などを見直すべきではないか(c)「所得に応じた自己負担額」を設定しているが、「所得」をざっくりと設定しすぎではないか—などの課題が指摘されているのです。

11月28日の会合では、厚生労働省保険局保険課の佐藤康弘課長から次のような新たなデータが示されました。

(1)後期高齢者(75歳以上)では、外来受診者のうち約4割が「毎月」外来診療を受けている(受診頻度が若人に比べて非常に高い)

医療機関外来の受診状況(社保審・医療保険部会(2)1 241128)



(2)70歳以上では高額療養費に外来特例(外来医療費について「より低い上限)を設ける」が設けられている。「月単位」の外来特例には1割から5割程度の者が該当する(下図上段)が、「年単位」の外来特例に該当する者は少ない(下図下段)

70歳以上における「外来特例」の該当状況(社保審・医療保険部会(2)2 241128)



(3)高齢者では「給付費」(下図青色部分)が多いが、現役世代では「負担」(下図緑色部分)が多い

医療にかかる「給付と負担」と年齢との関係(社保審・医療保険部会(2)3 241128)



たとえば(3)からは「現役世代の負担を軽減するために、高齢者にも相応の自己負担をお願いしてはどうか」(→高額療養費上限を引き上げてはどうか)と、また(2)からは「『年単位』の外来特例の上限を引き上げても、大きな影響はなさそうだ」(上限まで医療費を使う人は少ない)と見ることができそうです。しかし(1)からは「高齢者では外来受診の頻度がどうしても高くなり、相応の特例の必要性は高い」と考える必要が出てきそうです。

こうした状況を踏まえて医療保険部会では、▼高額療養費の見直しにあたっては「セーフティネットの必要性」と「負担に関する納得感」とのバランス確保が重要である。前者のセーフティネット機能については、例えば70歳以上高齢者における「年単位の外来特例」については利用が少なく、見直しが必要と言える(上記(2))。また後者の納得感については、現役世代では負担が多く給付が少ない点に鑑み(上記(3))、「現役世代の負担軽減」に向けた見直しが必要となる(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)▼医療保険財政の逼迫は理解できるが、高齢者の外来受診頻度の高さ(上記(1))は「高齢者は複数疾患を抱え、毎月の医学管理が必要」な状況が伺える。高額療養費制度の見直しにより受療行動の悪影響(=受診控え)が生じてはいけない。丁寧に議論を続けるべき(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼高齢者の「年間外来特例」利用は想定していたよりも少ないようだ。高齢者における高額療養費制度は「低所得者対策」の側面がある点にも留意すべき(伊奈川秀和委員:東洋大学福祉社会デザイン学部教授)▼高額療養費の上限引き上げが受療行動にどういった影響を及ぼすのかが見えない。こうした研究が可能な環境を整えてほしい(中村さやか委員:上智大学経済学部教授)▼70歳未満で「外来受診頻度の高い者」の状況がどうなっているのか、見ていく必要があるのではないか(菊池馨実部会長代理:早稲田大学理事・法学学術院教授)—といった意見が出ています。

今後、厚労省からの「具体的な見直し案」や「見直しを行った場合のシミュレーション結果」が示され、それをベースに詰めの議論が行われる見込みです。

全世代型社会保障を目指す改革の道筋(改革公定)(社保審・医療保険部会1 241121)



なお、高額療養費の見直しを行えば「保険者・自治体(国民健康保険)のシステム改修」が必要となり、その時間を確保しなければなりません。また、自己負担上限の見直しを国民に十分に周知する必要もあり、そうした点を踏まえて施行時期などを考える必要があります。



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