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病床機能報告 DPC特定病院群への昇格・維持のために今やるべきこと

2022年10月の「一定以上所得高齢者の2割負担」導入、医療機関受診控えが一定程度生じるが、想定の範囲内—社保審・医療保険部会(3)

2024.9.4.(水)

2022年10月に「一定以上所得の後期高齢者」について、医療機関等の窓口負担を1割から2割に引き上げたが、その直前(2022年9月)に「駆け込み需要」が生じたと考えられる—。

「一定以上所得者で窓口負担が2割になった」グループと、「一定未満所得者で窓口負担が1割のままであった」グループとを比較すると、負担割合変更後(1割→2割)に医療サービスの利用割合が1%程度、医療費総額が3%程度、医療サービスの利用日数が2%程度減少した。制度改正見込み時点よりも影響は小さかったと考えられる—。

受診動向の変化は、傷病によって大きく異なることも分かった—。

8月30日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こうした研究報告も行われました(同日のマイナ保険証利用促進策に関する記事はこちら、医療DX推進に向けた制度整備に関する記事はこちら)。

8月30日に開催された「第181回 社会保障審議会 医療保険部会」

高齢者の窓口負担割合引き上げ(1割→2割)で、受診日数は2%程度の減少

2021年の健康保険法等改正(全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)により、「一定所得以上(単身世帯では課税所得が28万円以上かつ年収200万円以上、複数世帯では後期高齢者の年収合計が320万円以上)の後期高齢者ついて、医療機関等の窓口負担割合を従前の1割から2割に引き上げる」制度改正が行われました(2022年10月施行、関連記事はこちら)。

窓口負担割合引き上げ(1割→2割)の概要1

窓口負担割合引き上げ(1割→2割)の概要2

窓口負担割合引き上げ(1割→2割)の概要3



「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し、全ての世代で広く安心を支えていく『全世代対応型の社会保障制度』構築」の一環ですが、「負担増により高齢者の医療機関の受診が過度に抑制されてしまわないか?」との指摘もありました。

そこで厚労省は、「2割負担導入前後6か月の受診日数」を分析し、2023年9月29日の医療保険部会において「約95%がマイナス2.0-マイナス4.1%範囲に収まっている」との状況報告を行いました。なお、いわゆる「長瀬効果」(患者負担増を行った場合、一時的に受診抑制が生じる)についても、この範囲内の「マイナス2.6%」と見込まれていました。

窓口負担割合引き上げ(1割→2割)による受診行動の変化分析(厚労省による短期分析)(社保審・医療保険部会(3)4 240830)



ただし、この報告に対し医療保険部会委員からは「より長期間の影響を見る必要がある」との指摘もありました。これを踏まえて、医療経済学者の研究班が、2割負担導入(2022年10月)をはさんだ20か月(2021年11月-2023年6月)の単身かつ特定の所得層のレセプトデータ(10万人程度)を使用した、より長期間のデータに基づく分析を実施(複数世帯では受療行動が複雑になるため、単身世帯に限定した)。今般、次のような分析結果が、厚生労働省保険局調査課の鈴木健二課長から報告されました。

▽一定以上所得者では、窓口負担が1割から2割になる直前(2022年9月)に「駆け込み需要」が生じたと考えられる(下グラフを見ると、2022年9月に医療サービス利用割合・医療費総額・医療サービス利用日数のいずれもが跳ね上がっている)

▽「一定以上所得者で窓口負担が2割になった」グループと、「一定未満所得者で窓口負担が1割のままであった」グループとを比較すると、負担割合変更後(1割→2割)は次のような状況である
▼医療サービスの利用割合:1%程度減少
▼医療費総額:3%程度減少
▼医療サービスの利用日数:2%程度減少

窓口負担割合引き上げ(1割→2割)による受診行動の変化分析(研究班による長期分析1)(社保審・医療保険部会(3)5 240830)



制度改正前の見込み時点では「受診日数2.6%減」と、上述の厚労省によるデータ分析では「受診日数が3.1%減」とされており、今般の長期間分析では「制度改正による受診抑制効果は、見込み等よりも小さかった」と見ることもできそうです。



また、研究班では「疾患別」の受診動向についても分析。具体的には一定程度の外来利用がある45疾病を抽出し、「1割→2割負担の導入で外来受診の状況がどのように変化したか」、「2割負担導入から一定期間経過後(2022年10月→2023年3月、5か月経過後)に外来受診の状況がどのように変化したか」を分析。そこから次のような状況が明らかとなりました。

▽1割→2割負担の導入で外来受診の状況がどのように変化したか(下の左グラフ)
→2022年10月(1割→2割)には、17疾病(う蝕、腰痛症・坐骨神経症、結膜炎、白内障など、赤下線)で外来利用が有意に減少した
→ほぼ差のない疾患(結腸がん、脊柱障害、骨折など)もある

▽2割負担導入から一定期間経過後(2022年10月→2023年3月、5か月経過後)に外来受診の状況がどのように変化したか(下の右グラフ)
→2022年10月(1割→2割)に外来受診が大きく減少した17疾病のうち、11疾病(う蝕、眼及び附属器の疾患、喘息など)では、2023年3月の効果の大きさが2022年10月に比べて20%以上小さくなった(受診減が回復した)
→2疾病(白内障、 その他の筋骨格系及び結合組織の疾患、青下線)では効果の大きさが大きく変わらなかった(受診減のままである)

窓口負担割合引き上げ(1割→2割)による受診行動の変化分析(研究班による長期分析2)(社保審・医療保険部会(3)6 240830)



ただし、主傷病に関する分析にとどまり、副傷病等は考慮していないことなどから、鈴木調査課長は「傷病によって状況が大きく異なることが分かった」とコメントするにとどめています。



こうした分析結果に対し、医療保険部会委員からは▼医療保険改革では窓口負担見直しも選択肢の1つだが、受診抑制が生じたことは明白だ。医療機関受診が必要な患者が、制度改正で必要な受診を控えてしまい、結果、病状が悪化し、健康が阻害されてしまう。こうしたことが生じないように、窓口負担割合見直しは慎重かつ丁寧に検討すべき(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼医療機関受診は命にかかわる問題でもある。今回のデータ等をもとに「窓口負担をどんどん引き上げてよい」という議論につなげることは危険である(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)—などの指摘が出ています。

しかし、一方で▼窓口負担増の影響は想定の範囲にとどまり『限定的なもの』と言える。今後、全世代型社会保障制度の構築、現役世代の負担軽減のために『さらなる窓口負担割合の見直し』が必要と考えられる。医療保険財源は公費・保険料・窓口負担しかなく、今後、高額療養費の自己負担上限額なども見直しを検討していくべき(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)▼「受診控え=悪」ではない。例えば、抗菌剤の不適切使用など、望ましくない・好ましくない医療機関受診もある点に留意し、研究を継続してほしい(中村さやか委員:上智大学経済学部教授)—との声もあります。

今後、双方の意見を眺めながら、さらなる分析データも踏まえながら、「窓口負担の在り方」を議論していくことになるでしょう。関連して島弘志委員(日本病院会副会長)は「地方では医療機関閉鎖が続いている。医療へのアクセスという視点も加味した分析が必要ではないか」とコメントしています。



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