大学病院本院に「医師派遣機能」が強く求められているが、「地域医療機関に派遣できる医師」数が限定される点などに留意を―医学部長病院長会議
2024.12.2.(月)
医師偏在の是正が重要課題となる中、大学病院本院について「医師派遣機能」が強く求められている。しかし、大学病院本院には「地域医療機関に派遣できる医師」は限られており、その限度で「医師派遣」が求められるべきである—。
大学病院には「高度医療研究」が求められるが、医師働き方改革、病院経営の逼迫の中でどうしても「診療」に重きを置かねばならず、「研究」に充てる時間を確保できない。研究をサポートする人材や環境の整備に向けた「支援」が強く求められる—。
全国医学部長病院長会議が11月29日に記者会見を開き、こうした考えを強調しました。
大学病院における研究機能維持が、医師働き方改革で困難に
Gem Medで報じているとおり、「医師の地域偏在、診療科偏在」対策に向けて、8月30日に示された「近未来健康活躍社会戦略」で示された「医師偏在対策総合パッケージの骨子案」などをベースに、精力的に議論が進められています。
また、「新たな地域医療構想等に関する検討会」や、社会保障審議会・医療保険部会などでは、以下の5つの具体案をもとに議論を行っています(結論は出ておらず、さらに議論を継続する)。
▽新たに「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、医師偏在是正プランの策定を求めて強力に医師偏在対策を進める
▽医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関の拡大、医師少数区域等での勤務経験期間の延長を行う(規制的手法1)
▽外来医師多数区域における新規開業希望者へ「地域で必要な医療機能」を要請する仕組みの実効性を確保する、保険医療機関の管理者要件を設定する(規制的手法2)
▽経済的インセンティブを付与する
▽中堅・シニア医師等と医師少数区域医療機関との全国的なマッチング機能支援や、都道府県と大学病院等の連携パートナーシップ協定締結を促す
こうした方針の中では「大学病院からの医師派遣」が極めて重要な要素の1つとなっています。例えば大学病院本院から「医師少数区域の医療機関」へ直接医師派遣を行うことや、大学病院本院から地域の中核病院へ医師派遣を行い、中核病院から「医師少数区域の医療機関」へ医師派遣を行うことなどに期待が集まっています。
また、大学病院本院からの医師派遣実績を見ると、次のような状況が明らかになっています。
▽大学附属病院本院からの常勤の医師派遣については、「100人以下の病院」が2割程度ある一方で、「1000人以上の病院」も2割程度あるなど、ばらつきが見られる
▽都道府県内に所在する大学附属病院本院の数が増えるごとに、医師派遣実績は低下する傾向にある
▽医師少数区域への派遣は、1大学附属病院本院の都道府県で多い
▽医師少数区域への医師派遣についても、「非常に少ない病院」が3分の1程度存在する一方で、「多数の派遣」を行っている病院も一部存在する。
▽「医師1人当たりの医師派遣」の状況を見ても相当程度のバラつきがある
このように「大学病院本院の医師派遣機能」が重視される一方で、大学病院本院には「派遣する医師の確保が難しい」旨が、11月29日の医学部長病院長会議で相良博典会長(昭和大学病院長)と大屋祐輔「地域の医療及び医師養成の在り方に関する委員会」委員長(琉球大学病院長)から報告されました。学位や専門医資格獲得を目指す医師は大学病院本院に集まってきているものの、「地域の医療機関に派遣できる医師」には限りがあると相良会長は強調します。
▽今後、大学病院からの医師派遣実績が、特定機能病院としての承認要件に加わってくると考えられる。そうした中で、大学病院によって「派遣可能な医師の数」には大きな差異がある点を十分の考慮する必要があり、たとえば「一律の実績基準」などを設けることはできない。大学病院本院の類型化を行うとともに、例えば一定期間を定め、「その期間内の医師派遣実績」を踏まえて、次期期間の「医師派遣に係る承認要件」の基準値を設定するなどの取り組みが必要であろう。また、同じ大学病院であっても、診療科によって「派遣可能な医師数」は変わってくるし、地域で「どの診療科の医師を派遣してほしいのか」のニーズも異なる。そうした点の検討も必要であろう(相良会長)
▽医師免許取得後の新医師臨床研修により、大学病院から一般病院への医師移動が進んでいる(関連記事はこちら)。こうした中では「大学から地方へ派遣できる医師」には限りがある。また、新専門研修制度の中では、例えば内科領域では「大学病院で専門研修を受ける医師」は全体の10%程度にとどまっている。「大学病院本院の医師派遣機能」を強化するためには、「大学に医師を残す」取り組みが重要になってくる(大屋委員長)
▽医師が比較的充足している西日本と、医師不足が堅調な東日本では状況が大きく異なり、「医師派遣」の在り方も地域ごとに考える必要があろう(大屋委員長)
このほか、大屋委員長と前田嘉信「医師の働き方改革委員会」委員長(岡山大学病院長)から次のような考えも示されました。
▽現在の医師偏在対策は、人口10万対医師数に「医師の年齢構成、性別構成」などを勘案した【医師偏在指標】(地域の医師が相対的に多いか、少ないかをランク付けする指標)に基づいて検討されているが、2024年4月からの医師働き方改革によって「若手医師よりもベテラン医師・シニア医師の方が労働時間が長くなっている」状況や、男女共同参画社会の推進によって「男性医師も育児休業等を取得するようになっている」状況がある。こうした状況を踏まえて、【医師偏在指標】もアップデートしていく必要があるのではないか(関連記事はこちらとこちら)
▽医師働き方改革によって、大学・大学病院医師の、とりわけ助教クラス医師の研究時間確保が難しくなっており(関連記事はこちら)、現在でも状況は改善していない。研究をサポートする人材や環境の整備に力を入れたいが、大学病院経営は厳しく、予算捻出も難しい
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