大学病院勤務医の研究・教育時間確保のために1059億円のコスト増が必要であり、診療報酬等による支援を―医学部長病院長会議
2023.5.2.(火)
大学病院においても、光熱水費・医療材料費が高騰しており経営が厳しくなっている。診療報酬等による適切な対応が必要である—。
新型コロナウイルス感染症が5類に移行した後、「検査の公費負担終了」や「病床確保料の縮減」などで、コロナ対応に不安が出ている—。
医師働き方改革推進、病院の収益確保のため、大学病院勤務医が「教育」「研究」にかける時間確保が困難になってきてる。教育・研究支援のための人材確保・ICT導入のためには、大学病院全体で1059億円のコスト増が生じ、診療報酬等による支援が必要不可欠である—。
全国医学部長病院長会議が4月28日に記者会見を開き、こうした点を明らかにしました。
目次
光熱水費等が2021年度から22年度にかけて787億円も増加、大学病院の経営を圧迫
会見では、(1)物価高騰への影響(2)新型コロナウイルス感染症の5類移行(3)医師働き方改革(4)第8次医療計画—の4テーマについて、医学部長病院長会議の考え方が明らかにされました。
まず(1)について横手幸太郎会長(千葉大学医学部附属病院病院長)は、大学病院全体における医療材料費・光熱水費が次のように「急騰している」状況を報告。
▽2021年度:医療材料費3820億円、光熱水費448億円→合計4268億円
▽2022年度見込み:医療材料費4083億円(前年度から263億円・6.9%増)、光熱水費677億円(同229億円・51.1%増)→合計4760億円(同492億円・11.5%増)
▽2023年度見込み:医療材料費4256億円(2021年度から436億円・11.4%増)、光熱水費799億円(同351億円・78.3%増)→合計5055億円(同787億円・18.4%増)
高度急性期医療を担う大学病院では、「電力を多く使用する医療機器・設備」が多く、節電には限界があります(例えば「節電のために人工呼吸器を少し停止しよう」、「病室が暑くても(寒くても)患者に我慢してもらおう」などの選択肢はあり得ない)。
また、都道府県による補助(地方創生臨時交付金、こちら)も「2022年度には26億円」(上記787億円増のわずか3.3%)にとどまっており、焼け石に水といった状況です。他方、保険診療においては「病院の判断で、コスト増を診療単価に上乗せする」ことも一切認められません。
横手会長は、大学病院での適切な医療提供を維持するために「診療報酬上の適正な措置が必要である」と強く訴えています。
コロナ検査の公費負担終了、病床確保料縮減などで「コロナ医療」に不安
また、(2)のコロナ5類移行後については、病床確保料の削減や診療報酬臨時特例の見直しなどが行われます。政府は「幅広い医療機関でのコロナ患者受け入れ」を求めていますが、こうした補助縮減の中でどれだけの医療機関がコロナ対応を行うのかに疑問の声・不安の声が少なからず出ています(関連記事はこちら)。
横手会長も同旨の不安を述べたうえで、とりわけ「コロナ検査の公費負担廃止」に懸念を示しました。
5類移行後にコロナウイルスの性質が変わるわけではなく、引き続き「強い感染力」を持ち、高齢者・傷病に罹患している者などのハイリスク者では重篤化する可能性が高いままです。一方、コロナ感染症は「罹患しても無症状である」患者も少なくありません。このため、入院時・手術前などに「検査によるあぶり出し」をしなければ、「コロナ感染患者と分からないまま」に入院・手術等が行われ、院内に蔓延し、クラスターが発生してしまう可能性が高くなります。
しかし「スクリーニング目的」の検査を保険診療の中で行う(入院患者全員に一律に検査を行う)ことは認められていません。仮に「入院患者全員に一律に検査を行う」場合には、すべての診療を自由診療として患者の自己負担にしなければならなくなります(混合診療の禁止)が、現実的ではありません(松村到副会長:近畿大学医学部長)。「病院の負担でコロナ検査を行う」ことも考えられますが、費用負担が莫大になり、簡単に決断できる手法でもありません。この点について横手会長をはじめ、医学部長病院長会議幹部は「大きな不安」を抱えていることを明らかにしました。
また、病床確保料の縮減により「コロナ専用病床の確保」から「一般個室での対応」にシフトする大学病院も少なくありません。本年(2023年)3月の調査では「コロナ専用病床を維持する」病院が半数超(51.4%)であるものの、「コロナ専用病床を縮小する」病院が29.7%、「コロナ専用病床を廃止し、一般個室で対応」病院が18.9%であることが明らかになりました。
ただし、一般個室には限りがあることから、横手会長は「コロナ患者を受け入れるか、コロナ以外の一般傷病患者を受け入れるかのトレードオフが生じる」可能性を指摘し(コロナ患者を多く受け入れれば、他の一般傷病患者受け入れの制限が生じる)、「手遅れになる前に何らかの支援・対応を行ってほしい」と国に訴えています。
大学病院経営維持のため、研究・教育時間を削り、診療に充てざるを得ない状況・・・
一方、(3)の医師働き方改革に関しては、すでに「大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書」が公表され、例えば「大学病院の医師において研究時間・教育時間が減少し、我が国の医学研究水準の低下が強く懸念される」状況にあることなどが明らかにされています(関連記事はこちら)。
このため、全国医学部長病院長会議では研究・教育の時間・質を確保するために、▼研究や教育をサポートするスタッフの確保▼ICTの推進—が急務であるとしています。4月28日の会見では、馬場秀夫・医師の働き方改革検討委員会院長(熊本大学病院病院長)からこうした人員・設備整備には「1059億円」という莫大な費用が必要なことが新たに示されました。
▽人件費に関する必要な経費増:955億円(医師採用96億円、教員(医師)への手当て552億円、特定行為研修修了看護師等採用72億円、タスクシフト先となる医師事務作業補助者等採用65億円ほか)
▽ICT推進に必要な経費:104億円(院内のコンピュータ確保、サーバー確保等19億円、出勤怠管理システムの導入維持等25億円、電子カルテ改修15億円ほか)
こうした費用を賄うためには、大学病院の医師に求められる「診療」「教育」「研修」の3業務のうち、「診療」の割合を増やし、収益を上げる必要があります。馬場委員長は、「診療に割く時間を増やさなければならず、それが研究・教育にかける時間削減につながる。その結果、将来の我が国の医療・医学水準低下をもたらす可能性がある」と警鐘を鳴らします。
また、大学病院だけでこうした費用を賄うことは困難であり、馬場委員長をはじめ全国医学部長病院長会議は「診療報酬や補助金による支援」を強く要望しています。
なお、2024年度から、医療機関は▼時間外・休日労働が960時間までのA水準▼自院における時間外・休日労働が1860時間までのB水準▼他院と自院における時間外・休日労働が1860時間までの連携B水準▼研修医・専攻医(専門医資格取得を目指す医師)向けのC1水準(18060時間の時間外・休日労働が可能)▼高度技能獲得を目指す医師向けのC2水準(同)—のいずれかを申請しなければなりません。A水準以外の申請を行わないまま「勤務医に960時間を超える時間外・休日労働を課す」ことは許されません。
昨年(2022年)11月時点における大学病院の申請予定を見ると、▼A:47.9%▼B:7.0%▼連携B:24.6%▼C1:2.5%▼C2:0.1%—などとなっており、C2が非常に少ないことが分かりました。
この点について横手会長や馬場委員長らは「大学病院勤務医の多くは他院での副業・兼業を行い連携B水準に該当しており、手続きが煩雑なC2申請をする医師が少なくなっている(連携Bで1860時間までの時間外・休日労働が可能であり、C2の高度技能獲得がこの中で可能となる)。高度技能獲得に消極的なわけではない」との見方を示しています。
さらに(4)の第8次医療計画については、「医師偏在の解消」「地域医療構想の実現」「医師の働き方改革」をセットで実施しなければならない点を大屋祐輔・地域の医療及び医師養成の在り方に関する委員会委員長(琉球大学病院病院長)が強調。一方で、上述のように「教育にかける時間」確保が厳しくなっている点などを売前「医学部教育の充実、大学病院の安定運営のための支援」が必須であると強調しています。
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