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2022年度の自治体病院経営は悪化、「コロナ患者受け入れ実績」の経済的評価、診療報酬特例の継続など要望へ—全自病・小熊会長

2023.4.14.（金）

2022年度、自治体病院（県立病院や市立病院など）の経営状況は非常に厳しく、前年度よりも「悪化する」ところが多い―。

献身的な新型コロナウイルス感染症対応で「燃え尽き」、離職を選ぶ看護職員が増加している―。

全国自治体病院協議会が4月13日に記者会見を開き、小熊豊会長（砂川市立病院名誉院長）をはじめ幹部からこういった状況が明らかにされました。今後、政府等に「コロナ患者受け入れ実績の経済的評価」「診療報酬臨時特例の秋以降の継続」を求めていく考えです。

全国自治体病院協議会の小熊豊会長

コロナ5類移行後の診療体制に不安も、看護職員の離職が増加

全自病では「コロナ禍における自治体病院の状況」を定期的に調査・公表しています（関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら）。

今般、本年（2023年）1月31日時点における「自治体病院の経営状況」調査結果速報（177病院）がまとまり、そこから次のような状況が明らかにされました。

【経常収支見込み】
（1）2022年度の「経常収支」見込みを見ると、全体では35.2％が赤字、重点医療機関では25.4％が赤字、協力医療機関では85.7％が赤字、その他コロナ患者受け入れ医療機関では58.3％が赤字、これら以外の医療機関では65.2％が赤字

（2）2021年度から22年度にかけて「経常収支」見込みが「悪化する」病院が68.8％（重点：70.1％、協力71.4％、その他コロナ受け入れ83.3％、これら以外52.2％）、「改善する」病院が13.1％（重点：13.4％、協力28.6％、その他コロナ受け入れ0.0％、これら以外13.0％）

【医業収支見込み】
（3）2022年度の「医業収支」見込みを見ると、全体では93.2％が赤字、重点医療機関では93.3％が赤字、協力医療機関では100.0％が赤字、その他コロナ患者受け入れ医療機関では91.7％が赤字、これら以外の医療機関では91.3％が赤字

（4）2021年度から22年度にかけて「医業収支」見込みが「悪化する」病院が65.3％（重点：64.2％、協力71.4％、その他コロナ受け入れ66.7％、これら以外69.6％）、「改善する」病院が17.6％（重点：20.1％、協力28.6％、その他コロナ受け入れ16.7％、これら以外0.0％）

（5）「医業収支」見込み悪化の要因は、▼入院受け入れの制限・停止（74.8％）▼クラスター発生（56.5％）▼手術の中止・延期（47.8％）▼コスト増（45.2％）▼看護職員不足（37.4％）▼救急受け入れ制限・停止（33.9％）▼外来の制限・停止（23.5％）—など

【診療体制】
（6）2022年度中に家庭内感染・濃厚接触などによる「欠勤者」が発生した病院は、全体では98.3％、重点医療機関では98.5％、協力医療機関では100.0％、その他コロナ患者受け入れ医療機関では91.7％、これら以外の医療機関では100.0％

（7）2022年度中の看護職員の離職率は「悪化する」病院は、全体では31.2％、重点医療機関では31.3％、協力医療機関では28.6％、その他コロナ患者受け入れ医療機関では41.7％、これら以外の医療機関では26.1％（離職原因としては「コロナ感染症の影響」が大きい）

【5類移行後の診療体制】
（8）外来について、▼発熱外来の継続：26.9％▼発熱外来をやめ一般外来で対応：10.9％▼従前より発熱外来を設置しておらず、一般外来で対応：10.9％▼対応予定なし：5.1％▼検討中・その他：46.3％—など

（9）感染再拡大時の外来について、▼発熱外来を継続：30.5％▼発熱外来を新設：4.5％▼一般外来で対応：16.9％▼検討中・その他：48.1％—など

（10）入院について、▼コロナ病床確保の継続：32.9％▼コロナ病床をやめ個室・一般病床で対応：13.9％▼対応予定なし：8.1％▼検討中・その他：45.1％—など

（11）感染再拡大時の入院について、▼コロナ病床確保の継続：35.5％▼個室・一般病床で対応：17.8％▼検討中・その他：46.7％—など

（1）から（5）を眺めると、「自治体病院の経営状況は厳しく、悪化している」ことが分かります。小熊会長や竹中賢治副会長（天草市病院事業管理者）は「昨年（2022年）9月に病床確保料の見直しが行われ、これが経常収支悪化に大きく関係しているのではないか」と見ています（関連記事はこちら）

また、（7）で「看護職員離職が増加している」状況が伺えます。長引くコロナ禍で医療従事者、とりわけ患者に接することの多い看護職員が身体的にも精神的にも「著しく疲弊」しており、「離職を選択する」看護師の増加につながっていると考えられます。全自病幹部では「これまで使命感に燃えて業務継続してきたが、コロナ感染症がやや落ち着きを見せたことから、『しばらく何もしたくない』と考える看護職員が多いようだ。またコロナ感染症で亡くなられた患者は『納体袋』に収めるが、これに大きなショックを受ける看護職員も少なくない」（小熊会長）、「昨年（2022年）の調査では『メンタル不調を訴えるスタッフが急増している』ことが明らかになった。時間の経過で『離職』という形で顕在化しているのではないか」（竹中副会長）、「コロナ禍で実習を受けられず医療現場に出た若手看護職員の離職が増加しているように感じている。実習の重要性を再認識する必要がある」（望月泉副会長：岩手県・八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長、田中一成副会長：静岡県立病院機構理事長）と分析しています。

また小熊会長は「通常3－4％程度の離職率が10％超になっている。さらに年度末の離職を加えれば、さらに離職率が上がる可能性がある」と指摘。看護職員不足は「医療提供体制の崩壊」にもつながるため「心身両面の支援」を行い、離職防止対策に勤める必要があるでしょう。もっとも個別病院に任せきりにするのではなく、国や都道府県による「支援」も検討する必要があります。

他方、（8）から（11）の「5類移行後の診療体制」は「本年（2023年）1月末時点の考え」、つまり「5類移行後の医療体制の方針が示される『前』の考え」です。このため「検討中」の回答が多くなっています。

ところで5類移行後の医療体制の方針では、5月8日以降、例えば病床確保料は半減され、重点医療機関の特定機能病院では一般病床1床・1日当たり3万7000円、同じく一般病院では3万6000円となります（関連記事はこちら）。これは一般的な急性期病院の単価（1床1日当たりの診療収益）に届かず、「コロナ患者受け入れの他の空床確保」を行うよりも、「コロナ病床を設けず、診療を継続する」ほうが経営的に好ましい状況です。

このため小熊会長は「5類移行後の医療体制の方針が明らかになった現時点で調査を行えば、例えば入院について『コロナ病床確保を継続する』医療機関はかなり減ると思う」と見ており、「5類移行後の実際の状況についても改めて調査を行う」考えを示しています。

ここからは「5月8日の5類移行後のコロナ診療提供体制」には、「やや不安が残る」と言えるかもしれません。

全自病では、こうした「自治体病院の経営状況が厳しく、さらに悪化している」「コロナ診療体制の確保には大きな困難が生じている」状況を踏まえ、政府や自治体病院議員連盟に宛てて、今後、次のような要望を行っていく考えです。

（a）従来の「空床確保」に対する支援ではなく、今後は「実際にコロナ患者を入院させた実績」を支援してほしい

（b）診療報酬臨時特例について今秋以降も継続してほしい（2024年度診療報酬改定による恒久措置まで継続）

詳細は今後詰められますが、小熊会長・竹中副会長は（a）のコロナ患者受け入れ支援について「診療報酬、補助金のいずれでも良いと思うが、コロナ患者1名を受け入れるには『1床』の対応ではすまない。手厚い看護体制を敷かなければならず、感染拡大防止対策も季節性インフルエンザ等に比べてより強固に行わなければならない点をご理解いただき、こうした『労力』にみあった経済的評価を行ってほしい」と求めています。

全自病では、毎年2回（春・秋）、▼自治体病院議員連盟（会長：森英介・衆議院議員、自民党労政局長）▼総務省▼厚生労働省—などに宛てて、「地域医療を守る自治体病院の経営安定」などに向けた要望を行っており（関連記事はこちら）、本年春の要望は5月23日に予定されています。今後、この日程に合わせて詳細な要望内容を詰めていくことになるでしょう。

4月13日の定例記者会見に臨んだ全国自治体病院協議会幹部。前列左から、田中一成副会長（静岡県立病院機構理事長）、望月泉副会長（岩手県・八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長）、小熊豊会長（砂川市立病院名誉院長）、竹中賢治副会長（天草市病院事業管理者）、末永裕之参与（愛知県・小牧市病院事業管理者）