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新型コロナ対策に注力する中、公立病院等の再検証について「期限を切る」べきでない―国と地方の協議の場

2020.10.29.(木)

約440の公立病院・公的病院等について「再編・統合の再検証」が求められているが、まず新型コロナウイルス感染症対策に注力すべきであり、「再検証の期限」を現時点で切るべきではない—。

新型コロナウイルス感染症に対応する医療機関(とりわけ公立病院)に対して、経営が維持できるような財政的な支援をより強力に行うべきである—。

10月29日に開催された「地域医療確保に関する国と地方の協議の場」(以下、単に「協議の場」とする)において、地方3団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)からこうした要請が国に対してなされました。

また全国知事会・社会保障常任委員会の平井伸治委員長(鳥取県知事)からは「医療の在りようが変わっている点を踏まえ、地域医療構想・医師偏在対策・医師働き方改革といった『医療提供体制の再構築』そのものを再検討していく必要があるのではない」との指摘も出ています。

10月29日に開催された「第5回 地域医療確保に関する国と地方の協議の場」

約440の公立病院等の再検証、「期限を切れる状況にない」と地方3団体

「協議の場」は昨秋(2019年秋)に、厚生労働省の地域医療構想に関するワーキンググループにおいて「424(当時)の公立・公的等医療機関に対し、機能分化等を含む再編・統合を要請してはどうか」との見解がまとめられたことに対し、地方自治体から「地域医療の確保に苦労している現場の意見を踏まえてほしい」との要望があったことを受けて設置されました。厚生労働省・総務省と自治体病院の開設者である地方3団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)との間で「効果的・効率的な地域医療提供体制の在り方」について議論を重ねています(関連記事はこちらこちらこちら)。

新型コロナウイルス感染症の影響で一時ストップしていましたが、地方3団体側の「新型コロナウイルス感染症を踏まえた地域医療構想に関する議論」をすべきとの要望があり再開されたものです。

地方サイドからは国に対して、▼公立・公的医療機関等の再編・統合の再検証スケジュールについて思い切った見直しをすべき▼新型コロナウイルス感染症等に対応する医療機関の経営を維持するための財政措置を行うべき▼有事(新型コロナウイルス感染症が正のその1つ)にも対応できる地域医療提供体制の在り方を議論すべき—などの強い要請が行われています。これを受け、山本博司厚生労働副大臣・熊田裕通総務副大臣から「現場の状況を確認できた。今後も協議の場を引き続き開催したい」との返答がなされています。今後、関係審議会・検討会等において、こうした地方自治体の意見も踏まえて議論していくことになります。



このうち「公立・公的医療機関等の再編・統合の再検証」は、次の(A)(B)に該当する約440の公立・公的病院等に対し、「公立・公的病院等でなければ果たせない役割を地域で果たしているのか」を改めて検証し、必要に応じて機能分化やダウンサイジングも含めた再編・統合を検討するよう求められているものです(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

(A)診療実績が特に少ない公立・公的病院等
▼がん▼心疾患▼脳卒中▼救急▼小児▼周産期▼災害▼へき地▼研修・派遣機能―の9領域すべてで、地域における診療実績が下位3分の1の病院

(B)類似の機能を持つ病院が近接している公立・公的病院(人口100万人以上の地域医療構想区域にある病院については、別途、再検証方針等を定める)
自動車で20分以内の距離に、▼がん▼心疾患▼脳卒中▼救急▼小児▼周産期―の6領域すべてで、「診療実績が類似する病院」がある病院

(A)の診療実績が特に少ない病院については「急性期医療提供が期待される公立・公的病院等としての存在意義」が問われており、(B)の病院では「類似・近接する病院が、当該公立・公的病院等の役割を代替できるのではないか」と考えられるためです。ただし留意しなければいけないのは、「再検証を求められた約440病院は、再編・統合しなければならない」わけではなく、「再検証の結果、公立・公的病院等でなければ果たせない役割を担っていることが判明したので、機能分化やダウンサイジング、再編・統合などは行わない」という結論になることも十分ありうるという点です。



この再検証について、厚労省は当初、▼機能の見直しについては2019年度中(2020年3月末まで)▼再編統合については2020年秋まで―行うというスケジュールを示していました(2020年1月の通知「公立・公的医療機関等の具体的対応方針の再検証等について」)。しかし、新型コロナウイルス感染症が我が国でも猛威を振るい始めたことを受け、再検証スケジュールは白紙となり、「再検証等の期限を含め、地域医療構想に関する取組の進め方について、(経済財政諮問会議や社会保障審議会・医療部会などの)議論の状況や地方自治体の意見等を踏まえ、厚生労働省において改めて整理して示す」こととなりました(2020年8月の通知「具体的対応方針の再検証等の期限について」)

現在までに期限はいつになるのかは明らかにされていませんが、例えば、来年(2021年)6月に予定される「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針2021)などが一つの目安となってきそうです。この点、平井知事は「現場はとてもではないが、期限を決めた再検証を行える状況ではない。今は新型コロナウイルス感染症対策に注力すべきである。また、新型コロナウイルス感染症対策の中で公立病院・公的病院が重要な役割をはしていることがクローズアップされた。凍結も含めて、現実的かつ弾力的な検討を行うべきである」との考えを記者団に語っています。

協議の場終了後に、記者団の質問に答えた全国知事会・社会保障常任委員会の平井伸治委員長(鳥取県知事)

新型コロナで医療内容が変化し、「医療提供体制の再構築」を議論し直すべきとの声も

ところで、新型コロナウイルス感染症により、従前と比べて地域の医療そのものが大きく変化してきています。例えば、患者の受療行動を見ると、▼新型コロナウイルスへの感染を避けるために、医療機関を受診しない▼衛生面の向上や他者との接触機会の減少などにより、他の感染症(ウイルス性腸炎など)の罹患者が大きく減っている▼外出の減少により交通事故等で救急搬送される患者が減少している—ことなどが分かっています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

このように医療の中身そのものが変化する中では「地域医療体制の再構築」論議そのものを見直す必要があるのではないか、との考えも平井知事は提示しています。

例えば、患者数の減少は、地域医療構想の核となる必要病床数が「より少なくて済む」ことを意味します。一方で、「感染症に対応する病床」が不足している地域もあり、「各都道府県で策定している地域医療構想そのものの妥当性を考える」必要が出てくるかもしれません。

他方、新型コロナウイルス感染症対策において「医療機関の機能分化・連携の重要性」が再確認され、その観点からは「地域医療構想の実現をいそぐべき」との指摘もあります。

また、従前より地域間・診療科間の医師偏在が大きな問題とされ、各都道府県において「医師確保計画」を作成し、段階的に偏在対策を進めていく(医師多数地域から医師少数地域への医師派遣の拡大や、地域枠医師の拡大など)こととなっています。しかし、患者の受療同行の変化、さらに疾病構造の変化(感染症対策のクローズアップ)などを踏まえ、「地域でどのような医師をどの程度確保すべきか」という点を見直す必要が出てくる可能性もあります。

さらに、こうした医療内容の変化は「医師の働き方」に大きな影響を及ぼし、医師の働き方改革の方向等についても検証をしていく必要があるかもしれません。



このように、地域医療構想の策定時や、上述の再検証対象医療機関(約440病院)の設定時とは、地域医療を取り巻く状況が全く異なることを平井知事は強調し、「振出しに戻せとまでは考えないが、新型コロウイルス感染症の教訓を踏まえ、時間をかけて『医療提供体制の再構築』論議を考え直す必要もあるのかもしれない」ともコメントしています。



もっとも、こうした見直しを行えば、現在のスケジュール(地域医療構想であれば2025年度の実現、医師働き方改革については2024年度から新制度がスタート、医師偏在対策については2036年に偏在解消)を後ろ倒しする必要が出てきます。

地域医療構想のゴールが2025年度とされているのは、「人口の大きなボリュームを占める、いわゆる団塊の世代が2025年度にすべて75歳以上の後期高齢者となり、医療需要が高まるため、現在の医療提供体制では対応しきれない」点を解決しなければならないためです。この人口動態は待ってくれないことから、地域医療構想の実現が遅れれば、かえって地域医療提供体制が逼迫してしまうことになります。

今後、「地域医療構想ワーキング」や「医療計画の見直し等に関する検討会」、さらに「社会保障審議会・医療部会」などにおいて、「新型コロナウイルス感染症によって、地域医療提供体制はどのような状況に置かれているのか」というエビデンスをベースに、地方3団体の意見も踏まえながら、冷静に議論していくことが必要でしょう(関連記事はこちらこちらこちら)。

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