医師偏在是正に向け、「若手医師時代に一定期間、中山間地域での勤務を義務付ける」仕組みを検討へ―国と地方の協議の場
2020.2.28.(金)
医師偏在是正に向け、地方自治体からの強い要望を踏まえて、若手医師時代に「一定期間、中山間地域での勤務を義務付ける」仕組みを検討していく。もっとも勤務地の義務付けには賛否両論があり、厚生労働省の検討会等でその在り方から議論していく―。
2月26日に開催された「地域医療確保に関する国と地方の協議の場」(以下、協議の場)において、こういった議論が行われました。
2021年度終了予定の医学部臨時定員増、地方3団体は2022年度以降の継続要望
「協議の場」は昨秋(2019年秋)に、厚生労働省の地域医療構想に関するワーキンググループにおいて「424(当時)の公立・公的等医療機関に対し、機能分化等を含む再編・統合を要請してはどうか」との見解がまとめられたことに対し、地方自治体から「地域医療の確保に苦労している現場の意見を踏まえてほしい」との要望があったことを受けて設置されました。厚生労働省・総務省と自治体病院の開設者である地方3団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)との間で「効果的・効率的な地域医療提供体制の在り方」について議論を重ねています(関連記事はこちら)。
2月26日には「医師偏在対策」を議題としました(新型コロナウイルス感染症対策についても議論しており、既に別稿でお伝え済です)。地方3団体からは▼全国知事会社会保障常任委員会の平井伸治委員長(鳥取県知事)▼全国市長会の立谷秀清会長(福島県相馬市長)▼全国町村会の椎木巧副会長(山口県周防大島町長)―の3氏が、国サイドからは▼稲津久・厚生労働副大臣▼長谷川岳・総務副大臣▼亀岡偉民・文部科学副大臣―や担当局長が出席しています。
地域間(都道府県間、都道府県内)・診療科間に「大きな医師偏在がある」ことが分かっています。医師の偏在を放置すれば、「医師の働き方改革」や「地域医療構想」を実現することはできません。医師の少数の地域では、1人1人の医師の負担が大きく、時間外労働の短縮が困難となります。医師少数地域を放置していれば、医療機能の集約や分化・連携の強化などが立ち行かなくなります。
このため、厚生労働省では医師需給分科会(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)において医師偏在対策を議論。そこでは昨冬(2019年2月)に▼人口10万対医師数に地域や医師の人口構成等を踏まえた、新たな医師偏在指標をもとに「医師多数地域」(上位3分の1)、「医師少数地域」(下位3分の1)を定める▼各都道府県で「医師確保計画」を定め、システマティックに医師確保を進めていく(医師多数の地域から、医師少数の地域への「医師派遣」などを強力に進め、医師多数の地域では医師偏在が進まないように「医師派遣」等の実施を認めないなど)▼将来の医師不足に対応するため、医学部に地域枠・地元枠を設定することを要請できる権限を都道府県知事に付与する▼外来医師が多い地域でのクリニック新規開業では、在宅医療や初期救急の実施を求める―などを柱とする報告書を取りまとめました。現在、各都道府県で「医師確保計画」作成が進められており、2020年度から実行に移されます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
また、医師需給分科会では、▼将来の人口減・医療ニーズ減▼医師働き方改革の推進―などを踏まえた医師の需給を科学的に推計。その結果を「2022年度以降の医学部入学定員」に反映させることになりますが、そこでは「医師偏在の是正」も当面、検討すべき重要な要素の1つに据えられています。
さらに、診療実績データ(DPCデータ)をベースに「都道府県別・診療科別の必要医師数」を推計し、これを新専門医制度における専攻医(専門医資格の取得を目指す研修医)採用数上限(シーリング)に反映させています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
これらを総合すると、▼医学部入学時点での「地域枠」や「地元枠」の設定▼初期臨床研修段階での「採用枠」設定▼新専門研修におけるシーリングや地域連携プログラム(研修期間の一定割合を他地域での勤務とするプログラム)の設定▼医師多数の地域から医師少数の地域への医師派遣推進(医師少数の地域での6か月以上勤務を認定し、これを将来の地域医療支援病院の管理者要件となる仕組みもこの一環)―など、さまざまな場面で医師偏在対策が進められることが分かります。協議の場では、国サイド(厚生労働省、総務省、文部科学省)からこうした対策が詳細に説明されています(関連記事はこちら)。
もっとも、これら医師偏在対策は始まったばかりであり、その効果が現れるまでには時間がかかります。このため地域医療を預かる自治体の首長からは「医師偏在の是正に向けた対策」への要望が様々な角度から出されています。
例えば、▼2022年度以降も、大学医学部の臨時定員増(下図の赤色部分、2021年度で終了することとなっている)を継続すべきである▼若手時代に「中山間地域での勤務」を一定期間義務付ける仕組みを検討してほしい▼過疎地勤務に対するインセンティブ付与を検討してほしい▼過疎地でオンライン診療がより進むよう、指針の見直しや診療報酬上の評価の見直しを進めてほしい▼大学医学部の入学定員について、地域枠や地元枠を十分に確保し、活用するようにしてほしい▼初期臨床研修医について、1人立ちして診療が行えるような養成を行うべき―などの意見が地方3団体サイドから出されています。
このうち「若手時代に『中山間地域での勤務』を一定期間義務付ける仕組み」については、国側もしっかりと受け止めており、厚労省医政局医事課の佐々木健課長は、協議の場終了後の記者会見で「義務付けについては賛否両論があるが、地方3団体からこぞって『義務付け』を検討すべきとの意見が出された。厚労省の検討会(医師需給分科会や、医道審議会・医師分科会「臨床研修部会」など)で専門家の意見を踏まえて議論してもらう」との考えを示しました。主に医師偏在対策全体を議論する「医師需給分科会」で大きな筋道をつけ、それを踏まえて具体的な制度設計を各分科会(例えば、初期臨床研修の期間に中山間地域での勤務を求めることになれば「臨床研修部会」)で検討していくことになるでしょう。
また「初期臨床研修医について、1人立ちして診療が行えるような養成」については、研修医であっても医師国家試験に合格し、保険医登録が完了していれば「1人で保険診療を行える」ことになりますが、現実には指導医の下で医行為を行うこととなり、例えば「過疎地等で1人立ちして保険診療を行うこと」は結果として難しいのが実際です。この点、医学部教育の中で臨床実習を強化するなどし、医師免許取得時点で基本的な医行為を1人で行える、つまり「研修医の段階から即戦力となる」ような医師養成を行うことを地方3団体は要請していると考えられます。まさに厚労省と文科省で「医師養成の在り方」を見直す方向と同じ視点に立った要望が出されている格好です。
協議の場は、今後も地域医療確保に向けた課題について議論を重ねていくこととなり、「医師偏在対策」についてもさらに具体的な意見交換が行われると考えられます。
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