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回復期・慢性期を含めた「新型コロナへの医療提供体制の在り方」を地域ごとに議論すべき—日病・相澤会長

2021.1.25.（月）

新型コロナウイルス感染症から回復した患者の転院等が十分に進まず、これが医療提供体制の逼迫の大きな要因となっている。まず正しい知識（退院基準など）を再整理して、為政者・医療関係者・国民全体を共有するとともに、回復期・慢性期を含めて「地域において、新型コロナウイルス感染症に対応するために、どう各医療機関が役割分担するのか」などを話し合い、決しておくことが重要である—。

日本病院会の相澤孝夫会長は1月25日の定例記者会見で、このような考えを示しました。

1月25日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長

1 コロナ感染症への正しい知識を整理し、為政者・医療関係者・国民の共通認識を
2 回復期・慢性期を含めて「地域におけるコロナ感染症への医療提供体制確保」の検討を

コロナ感染症への正しい知識を整理し、為政者・医療関係者・国民の共通認識を

新型コロナウイルス感染症が昨年（2020年）初頭から世界中で猛威を振るい、我が国でも、いわゆる第3波が到来。新規感染者の急増、医療提供体制の逼迫を重く見た菅義偉内閣総理大臣は1月7日、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県の１都３県を対象に緊急事態宣言を発令。14日には対象を栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県にも拡大。飲食店を中心に営業時間短縮等を要請するなど感染拡大防止に強力に取り組むとともに、医療提供体制の確保に向けた強力な支援を行っています。

医療提供体制については、新規感染者の増加→中等症者・重症者の増加により各地で「病床逼迫」が生じています。

この点、新型コロナウイルス感染症から回復した患者（退院基準を満たして退院した患者）の後方病床による受け入れが滞り、それがために「新型コロナウイルス感染症受け入れ病床が逼迫」し、新規感染患者を受け入れらない状況が指摘されています。入院が適わない患者は「宿泊施設」や「自宅、介護施設」等での療養を余儀なくされ、医療体制が必ずしも十分でないという課題も生じています。

政府もこうした状況を把握しており、昨年（2020年）12月には「新型コロナウイルス感染症から回復した後、引き続き入院管理が必要な患者（再発等の有無は問わない）を受け入れた医療機関では、当該患者について、いずれの入院料を算定する場合であっても、『750点』（【二類感染症患者入院診療加算】の3倍相当の点数）を算定できる」との、また今年（2021年）1月13日には「療養病床で新型コロナ患者受け入れた場合、一般病棟の【特別入院基本料】算定可能とする」との、同じく1月22日には「新型コロナウイルス感染症からの回復患者を受け入れた後方病院では、同日以降、【救急医療管理加算1】（950点）を90日間、【二類感染症患者入院診療加算】の3倍相当の点数（750点）とは別個に算定可能である」との診療報酬上の臨時特例措置を講じました。

こうした特例によって回復患者の転院が進むことが期待されますが、相澤会長は「病院や介護施設の中には退院基準を知らず、『PCR検査で陰性と確定しなければ受け入れない』と考えている病院が少なからずあり、正しい情報を再度伝達すべき」ことや、「後方病院においても『空床確保』を計画的に行うべき」ことをしなければ、後方病院での回復患者受け入れが十分に進まないのではないかとの考えを示しています。

まず前者の「退院基準」については、次のような点が厚労省から示されています（11月25日付の事務連絡）。

【退院基準】（有症状の者）
（1）発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合
（2）発症日から10日間経過以前に症状軽快した場合に、症状軽快後24時間経過した後に核酸増幅法（PCR）また抗原定量検査の検査で「陰性」が確認され、その検査の検体を採取した24時間以後に再度検体採取を行い「陰性」が確認された場合

最新の知見で「発熱等の症状が出てから7－10日程度経つと、新型コロナウイルス感染者の感染性は急激に低下し、PCRで検出される場合でも感染性は極めて低い（ウイルスの死骸が検出されている）」ことがわかってきていることを受け、（1）の基準が設けられているものです。

しかし一部の医療機関や介護施設等では「PCR検査で陰性が確認されない限り、受け入れることはできない」と考えているところもあるようです。

また、回復患者を受け入れた後方病院に対し、地域の住民等から心無い誹謗中傷が浴びせられることも少なくないようです。退院基準を満たして退院した患者であれば、「当該患者を起点とした感染拡大は生じない」にもかかわらず、「あそこの病院では新型コロナウイルス感染症患者を受けており、かかると感染してしまう」などと考える一般国民が少なくないようです。

こうした状況を踏まえて相澤会長は、「今一度、正しい情報を整理し、為政者、医療関係者、一般国民の全員が共有すること、正しい共通認識を持つことが極めて重要である」と訴えました。

回復期・慢性期を含めて「地域におけるコロナ感染症への医療提供体制確保」の検討を

また（2）は、通常時でさえ稼働率の高い療養病床等に、突然「新型コロナウイルス感染症患者を受けてほしい」とお願いしても、即座のベッド確保は難しいという問題です。

療養病床の病床利用率は9割程度であり、通常時から、それほどの余裕があるわけではありません。また多くの地域では「冬場に利用率が高くなる」状況があります。

このため、新型コロナウイルス感染症からの回復患者であろうと、それ以外の患者であろうと「受け入れをお願いしたい」と要請したからといって、即座に受け入れが進むものではない、という医療現場の状況を相澤会長は指摘。そのうえで本来であれば、地域の医療関係者で話し合い、例えば「療養病床、回復期病床を持つ〇〇病院と●●病院で、新型コロナウイルス感染症からの回復患者を受け入れるために〇床程度確保できないか」という調整（つまり、回復期・慢性期でも一定程度の空床を確保しておく）をしておく必要があると強調しました。

急性期では、例えば「即応病床」（新型コロナウイルス感染症患者を直ちに受け入れられる病床）と「準備病床」（新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ要請があってから1週間程度で受け入れを可能とする病床）、「重点医療機関」（新型コロナウイルス感染症の重症患者を専ら受け入れる病院）と「協力医療機関」（新型コロナウイルス感染症の疑い患者を専ら受け入れる病院）、といった具合に「役割分担」を進めることとなっています。

しかし、回復期・慢性期についてはこうした役割分担論議が進んでおらず、現在の第3波の中で、その点の脆弱性が一気に露見したと考えることができます。

回復期・慢性期を含めて「新型コロナウイルス感染症に対して、どの病院が、どういう役割を担うのか」を明確にし、それを地域住民等に周知しておけば、一般国民が「あの医療機関は新型コロナウイルス感染症患者を受けておらず、協力していない。新型コロナウイルス患者を受け入れる病床は日本全体でもごくわずか（これ自体は事実であるが）で、ほとんどの病院は新型コロナウイルス感染症に何らの対応もしていない」と誤解することも避けられることでしょう。

我が国においても、いわゆる「変異種」の市中感染も確認されはじめ、第3波をはるかに超える「第4波」が到来する可能性もあります。今後に向けて、早急に、各地域で「回復期・慢性期を含めた役割分担」論議を進めることが必要です。あわせて新型コロナウイルス感染症への対応が長期化する中で、経営支援策についても継続していくことが重要でしょう。

関連して相澤会長は「感染症法を改正し、新型コロナウイルス感染症等への対応に対する勧告・罰則規定の創設が検討されているようだが、これは医療計画に沿った『地域での医療機能分化・連携に向けた話し合い』とは考え方が大きく異なる。こうした法改正には反対である」との考えを明確にしています。