公立・公的病院等の再検証スケジュールは新型コロナの状況見て検討、乳がん集団検診で医師の立ち合い不要に―社保審・医療部会(2)
2020.12.28.(月)
新興感染症対策を医療計画に位置付け、平時からの対応・感染拡大時の対応方針を明確化。一方で、地域医療構想の考え方などは維持し、約440の公立・公的病院等の機能転換に向けた再検証のスケジュールは、新型コロナウイルス感染症の今冬(2020年から21年にかけて)の状況を踏まえて改めて検討する―。
乳がん集団検診(マンモグラフィ)について、胸部エックス線検査と同様に「医師の立ち合いを不要とする」ことを認める―。
12月25日に開催された社会保障審議会・医療部会では、こういった議論も行われています。
新興感染症対策を医療計画に位置付け、地域医療構想の考え方などは維持
12月25日に開催された医療部会では、(1)医療計画の見直し、地域医療構想の実現(2)外来医療の機能分化推進(3)医師の働き方改革(4)医療機能情報提供制度、医療広告規制の見直し(5)全国の医療機関等で患者の医療情報等を確認出来る仕組み(EHR)、電子カルテの標準化(6)乳がん集団検診(マンモグラフィ)における医師の立ち合い―という、非常に幅広い項目について関係検討会等から報告を受け、各項目に関する意見交換を行いました。
本稿では、(1)の医療計画見直し、地域医療構想の実現、さらに(6)の乳がん集団検診について見ていきます((2)の外来医療の機能分化には関してはお伝え済))。
(1)の医療計画に関しては、Gem Medで繰り返しお伝えしているとおり、次のような方針が固められています(医療計画の見直し等に関する検討会、地域医療構想に関するワーキンググループ)。
▽「新興感染症対策」を医療計画の6事業目(医療法第30条の4第5項の「救急医療等確保事業」の1つ)に位置付ける
▽医療計画への記載内容については、「平時からの取り組み」(感染拡大に対応可能な医療機関・病床整備、感染症に対応する専門人材の確保など)と「感染拡大時の取り組み」(医療機関間の連携、役割分担など)とに分けて整理する
▽地域医療構想については、その基本的な枠組み(病床の必要量の推計・考え方など)を維持し、引き続き着実な取り組みを進めていく。感染拡大時の短期的な医療需要には、各都道府県の「医療計画」に基づき機動的に対応する
▽公立病院・公的病院等の一部(約440病院)における再編・統合も含めた機能分化の再検証スケジュールについては、この冬(2020年から21年にかけて)の感染状況を見ながら、改めて具体的な工程の設定を検討する
このうち、公立・公的病院等の再検証スケジュールについては、河本滋史委員(健康保険組合連合会理事)らから「現下の状況(新型コロナウイルス感染症患者の急増)ではやむを得ないが、再検証は適宜再開する必要がある。新型コロナウイルス感染症が流行する中でも人口構造・疾病構造が変化する状況に変わりはなく、2024-29年度の第8次医療計画策定も見据え、2022年度中に地域医療構想の実現に向けた議論を精力的に進める必要がある」と強く求めました。
人口の大きなシェアを占める、いわゆる団塊の世代が2022年度から75歳以上の後期高齢者になりはじめ、2025年度にはすべてが後期高齢者に到達します。このため、医療ニーズが急速に増加することから、それまでに人口構造・疾病構造の変化に対応できるような医療提供体制への再構築が求められるのです。新型コロナウイルス感染症により、少子化がさらに進行することが予想され、河本委員らは「地域医療構想の実現」を進めるべきと強く求めているのです。
これに対し、遠藤直幸委員(全国町村会、山形県山辺町長)や久喜邦康委員(全国市長会、埼玉県秩父市長)、平井伸治委員(全国知事会、鳥取県知事)ら自治体サイドは、「新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、地域医療構想の実現に向けた取り組みを進めれば、地域医療は崩壊してしまうのではないか。新型コロナウイルス感染症が一定程度収束するまでは、地域医療構想の実現に向けた動きは停止すべきではないか」との考えを示しています。
もちろん、検討会やワーキンググループでも上述のとおり「新型コロナウイルス感染症の状況をみて、公立・公的病院等の再検証スケジュール等を改めて考える」としており、現下では、新型コロナウイルス感染症対策が最優先されることは述べるまでもありません。一定の収束を待って、地域医療構想の実現に向けた取り組みをどのように進めていくべきかを検討していくことが重要です。
乳がん集団検診(マンモグラフィ)、医師による立ち合いを不要に
(6)は、乳がん集団検診(マンモグラフィ)における医師の立ち合いを不要にしてはどうかという提案です。
診療放射線技師法では、乳がんマンモグラフィの集団検診には医師の立ち会いを求めています。胸部エックス線撮影にかかる集団検診では「医師の立ち合いを不要とする」こととなりました(2014年6月)が、乳がん検診では、医師による「視診」「触診」が必要であったため、引き続き「医師の立ち合いが必要である」とされているのです。
この点、▼医師の確保が困難なこと▼乳がん検診をさらに促進する必要があること―こと、さらに2016年2月からから乳がん検診でも、医師による「視診」「触診」が不要とされたこと、などから、地方自治体より「乳がんマンモグラフィの集団検診においても、医師の立ち合いを不要としてはどうか」との提案がなされています。
また、厚労省の調査では、乳がん検診の3割超が「子宮頸がん検診などの医師の立ち合いが必要な検査」とは別個に行われていることも明らかになりました(仮に、ほとんどの乳がん検診が、子宮頸がん検診などとセットで行われていれば、乳がん検診のみ医師の立ち合い不要としても意味はない)。
厚労省はこうした状況を踏まえ、乳がんマンモグラフィの集団検診でも「医師の立ち会いは不要とする」との法令改正を提案。委員もこれを了承しています。
今後、診療放射線技師法施行規則(厚生労働省令)を改正し、胸部エックス線検査(コンピュータ断層撮影装置を用いたものを除く)とともに、「乳がんマンモグラフィ」についても「医師の立ち合い」が不要となります。ただし、安全性を確保する必要性を踏まえて、▼事前に責任医師の明確な指示を得る▼緊急時や必要時に医師に確認できる連絡体制を整備する▼必要な機器・設備、撮影時や緊急時のマニュアルを整備する▼機器の日常点検等の管理体制、従事者の教育・研修体制を整備する―ことが求められます(胸部エックス線検査と同様)。
なお、井伊久美子委員(日本看護協会副会長、香川県立保健医療大学学長)は「被験者の心情に配慮し、女性の診療放射線技師による検査実施など、女性スタッフの配備が重要である」旨を強調しています。この点、法令などに「女性スタッフが行うこと」などの規定を設けることは困難ですが、「女性スタッフが配置されていない乳がん検診」は被験者(女性)から選択されないと考えられ、自然に淘汰されていくことでしょう。
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