全体で見れば、5月→6月→7月→8月と患者数・医療費は順調に回復―社保審・医療保険部会
2020.12.24.(木)
新型コロナウイルス感染症の影響で患者が減少しているが、休日補正後のデータを見ると、全体では「5月→6月→7月→8月と患者数・医療費は順調に増加(回復)」している―。
レセプトを詳しく分析すると、「乳幼児において、8月になっても外来受診緒激減が続いている」、「呼吸器系疾患や感染症などの患者数減が著しい」「初・再診、入院、手術・麻酔などの請求点数減が著しい」ことも再確認できる―。
12月23日に開催された社会保障審議会・医療保険部会に、こういった報告が行われました(厚労省のサイトはこちら(医療保険部会資料)とこちら(概算医療費、2020年度8月号)とこちら(医療保険医療費、2020年度8月号))。
目次
医療費・患者数、全体でみれば5→6→7→8月と順調に回復
Gem Medでお伝えしているとおり、新型コロナウイルス感染症に伴う患者減(▼予定手術・予定入院の延期▼軽症患者の受診適正化▼衛生面の向上や他者との接触機会減少による他の感染症(ウイルス性腸炎など)の減少―など)により、医療機関の収益が大きく減少していることが各種の調査から明らかになってきています。
【新型コロナウイルス感染症の病院経営への影響調査等の関連記事】
●GHC分析:7-9月、7月、6月、 5月、4月、3月
●厚生労働省分析:4-6月、4-7月
●支払基金データ:7月、6月、5月、4月、3月
●日病・全日病・医法協調査:7-9月調査、7月調査、第1四半期、追加報告、最終報告、速報
●全自病調査:5月分調査、4月分調査
●健保連調査:9月分、8月分、7月分、6月分調査、4・5月分調査
●厚労省医療費の動向:4-7月分、4-6月分
●●全国医学部長病院長会議の動向:9月分調査、8月分調査、7月分調査、4・5・6月分調査
厚生労働省保険局調査課の西岡隆課長は、12月23日の医療保険部会に「今年(2020年)4-8月分のデータ」を新たに報告しました。
医療費全体の「前年同期との比較」を見ると、▼4月:マイナス8.8%▼5月:マイナス11.9%▼6月:マイナス2.4%▼7月:マイナス4.5%▼8月:マイナス3.5%―となりましたが、休日等補正を行うと、次のように「5月→6月→7月→8月」と概ね改善傾向にあることが分かります(歯科、調剤では前年同期を上回ってきている)。「生データ」からは分からない、極めて重要な点です。
【医療費全体】
▼4月:マイナス11.1%
↓
(1.5ポイント悪化)
↓
▼5月:マイナス12.6%
↓
(6.5ポイント改善)
↓
▼6月:マイナス6.1%
↓
(4.3ポイント改善)
↓
▼7月:マイナス1.8%
↓
(0.6ポイント改善)
↓
▼8月:マイナス1.2%
【医科入院】
▼4月:マイナス7.5%
↓
(2.2ポイント悪化)
↓
▼5月:マイナス9.7%
↓
(3.8ポイント改善)
↓
▼6月:マイナス6.0%
↓
(2.9ポイント改善)
↓
▼7月:マイナス3.1%
↓
(1.1ポイント改善)
↓
▼8月:マイナス2.0%
【医科入院外】
▼4月:マイナス16.6%
↓
(0.3ポイント悪化)
↓
▼5月:マイナス16.9%
↓
(9.8ポイント改善)
↓
▼6月:マイナス7.1%
↓
(4.7ポイント改善)
↓
▼7月:マイナス2.4%
↓
(0.6ポイント改善)
↓
▼8月:マイナス1.8%
【歯科】
▼4月:マイナス17.5%
↓
(0.2ポイント改善)
↓
▼5月:マイナス17.3%
↓
(12.6ポイント改善)
↓
▼6月:マイナス4.7%
↓
(4.2ポイント改善)
↓
▼7月:マイナス0.5%
↓
(3.6ポイント改善)
↓
▼8月:プラス3.1%
【調剤】
▼4月:マイナス7.1%
↓
(3.4ポイント悪化)
↓
▼5月:マイナス10.5%
↓
(5.2ポイント改善)
↓
▼6月:マイナス5.3%
↓
(4.7ポイント改善)
↓
▼7月:プラス0.6%
↓
(0.7ポイント悪化)
↓
▼8月:マイナス1.3%
なお、レセプトの件数(延べ患者数と言える)を見ると、例えば医科入院(病院・診療所計)の9月分は前年同期比で101.7%、医科診療所の整形外科では同じく100.0%、医科診療所の産婦人科では101.4%と、「前年並み、あるいはそれを上回る水準」となる分野が徐々に現れてきています。
また請求点数(医療費、医療機関等の収益と言える)を見ても、歯科では9月分は前年同期比で105.4%、病院では同じく100.3%、医科診療所の整形外科では103.9%、医科診療所の産婦人科では104.5%、医科診療所の皮膚科では103.1%、医科診療所の眼科では103.3%などとなっています。
もっとも4月・5月の累積赤字を埋めるまでには至っておらず、小児科や耳鼻咽喉科などでは9月に入っても厳しい状況が続いています。
乳幼児において、外来受診激減が8月にも続く
次に、「電子レセプトを用いた医科(入院・入院外)医療費の分析」結果(入院は100%、入院外は1%抽出)を見てみましょう。
まず年齢階級別(5歳刻み)の「1人当たり医療費」動向を見ると、入院では依然として「20歳未満」で前年同期に比べて大きな減少が続いています。入院外では、「5歳未満の乳幼児」において30%近いマイナスが続いていますが、5歳以上の小児では9月に入ってからマイナス度合いが緩和されてきています。
この点、西岡調査課長は、▼入院については「小児の呼吸器疾患患者が重症化して入院する」といったケースが減少している可能性▼入院外では「夏休みが少なく、帰省などもしなかった」ことにより医療機関受診が例年に比べて減らなかった可能性―があると解釈。また松原謙二委員(日本医師会副会長)は、「マスク着用や手洗いにより『感染症』に罹患しなくなった」ことが主因ではないかと分析。あわせて「生活習慣がもとに戻れば、患者数ももとに戻る」とも見通しています。
感染症や呼吸器疾患などでの医療費(患者)減、依然続く
また、疾病分類別の医療費の動向を見ると、次のような点が再確認されました。
▽入院では、▼呼吸器系の疾患▼耳及び乳様突起の疾患▼眼及び付属器の疾患―での減少が大きく、医療費全体に占めるシェアを考慮すると「呼吸器系疾患」の減少度合いが非常に大きい
▽入院外では、▼呼吸器系の疾患▼耳及び乳様突起の疾患▼感染症及び寄生虫症―での減少が大きく、医療費全体に占めるシェアを考慮すると「呼吸器系疾患」の減少度合いが非常に大きい
松原委員の指摘した「衛生面の向上」や、ほかにも「他者との接触機会の減少」などによって、感染症患者が相当程度減少していることが伺えます。新型コロナウイルス感染症に限らず、感染症対策においては「衛生面の向上」「他者との接触機会の減少」が非常に重要であることを再確認できます。
また入院外では、4月・5月には「損傷、中毒及びその他の外因の影響」が20数%減少していましたが、8月に入るとマイナス0.4%と、ほぼ前年同期の水準に戻っています。4月・5月には緊急事態宣言が発令されていたことから「高齢者が外出を控え、転倒などして外傷を負う」ケースが減少したが、その後に、生活様式が戻ってきたことから外傷が増加してきた、などの状況が見えてきます。
初・再診、DPC、手術料・麻酔などの大きな減少続く
さらに、診療内容別医療費動向を見ると、次のようになりました。
▽入院では、▼DPC▼初診▼手術・麻酔▼検査・病理診断―の減少が目立ち、医療費全体に占めるシェアを考慮すると「DPC」「手術・麻酔」の減少度合いが非常に大きい
▽入院外では、▼初診▼再診▼注射▼処方箋料▽薬剤料―などの減少が目立ち、医療費全体に占めるシェアを考慮すると「薬剤料」の減少度合いが非常に大きい
入院に関しては、急性期の新規入院が、とくに検査等が減少していることから「緊急入院」が大きく減少している状況が伺えます(緊急入院では、事前の外来での検査等が行えず、入院後に実施することになる)。あるいは「予定入院」であっても、事前の外来での検査等が十分に行われていない可能性もあります。より深掘りした分析に注目が集まります。
また入院外では、初診が依然として2桁のマイナスとなっています。上述した「疾病そのものの減少」のほか、「軽微な症状での医療機関受診等を控える」といった受療行動の適正化も続いていると考えることができるでしょう。
11月から新型コロナウイルス感染症のいわゆる第3波が到来しています。これらが患者の受療動向や医療機関経営、さらには医療費のどういう影響を及ぼしているのか、今後も継続した調査が期待されます。
あわせて、いわゆる「受診控え」が患者・国民の健康状態に悪影響を及ぼしていないかという視点での調査も必要です。受診控えにより「疾病(がんや生活習慣病など)の早期発見・早期治療が遅れ、重症化してしまう」事態は本末転倒です。
2025年度を見据えた医療保険改革案固まるが、「2040年度を見据えた」大きな課題も
なお、12月23日の医療保険部会では、▼紹介状なし患者の特別負担徴収義務拡大▼一定所得以上の後期高齢者の医療機関等窓口負担2割化―などを盛り込んだ「医療保険制度改革」に向けた議論の整理も概ね了承されました(関連記事はこちら)。
2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度にはすべてが後期高齢者となります。このため医療ニーズが急速に増加し、医療保険財政が脆くなっていくことから、「世代間の公平」を確保するなどの視点に立った「2025年度を見据えた医療保険改革」が行われるものです。
ただし、2025年度から2040年度にかけて、高齢者数は大きく変わらないものの、高齢者を支える「現役世代」が急速に減少していきます。このため、「2040年度を見据えた、より根本的な医療保険改革」がさらに重要な課題として浮上してくることに留意しなければなりません。
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