2021年度における新型コロナの影響は読み切れず、対策費は「項目のみの事項要求」に—2021年度厚労省概算要求
2020.9.29.(火)
厚生労働省は9月25日に、財務省に対して来年度(2021年度)予算の概算要求を行いました。年金や労働保険などの特別会計を含まない一般会計は32兆9895億円を要求し、これは今年度(2020年度)当初予算に比べて34億円・0.01%の微増要求ですが、「医療・年金などにおける自然増」分や「新型コロナウイルス感染症対策」に係る経費などについては、別途の要求(事項要求)となります。
また年金・医療など社会保障に係る経費については、今年度(2020年度)と同額の30兆8562億円を要求しています。
目次
新型コロナの及ぼす影響を現時点で予測することは困難、項目のみの「事項要求」に
厚労省の2021年度予算概算要求の枠組みは、▼年金・医療などに係る経費▼義務的経費▼その他の経費(裁量的経費・公共事業関係費)―について、いずれも今年度(2020年度)当初予算と「同額」とし、これとは別に「新型コロナウイルス感染症対策に係る経費」を要求する、という形です。
現時点では「2021年度における新型コロナウイルス感染症の影響」を予測などすることは極めて困難です。このために「項目のみの要求」とし、具体的な内容や金額などは年末の予算編成過程において決することとなります(こうした要求を「事項要求」と呼ぶ)。
また年金・医療などに係る経費については、高齢化に伴う「自然増」が生じます(医療費は年齢と大きく相関し、年金の費用・介護の費用はよりダイレクトに高齢化の影響を受ける)。こうした点についても予算編成過程で検討することとなっています。
来年度(2021年度)における厚労省の重点要求項目を眺めると、これまでの2020年度補正予算での対応(関連記事はこちらとこちらとこちら)を発展させ、「ポストコロナ時代の新しい未来」に向けて、(1)ウィズコロナ時代に対応した保健・医療・介護の構築(2)ウィズ・ポストコロナ時代の雇用就業機会の確保(3)「新たな日常」の下での生活支援―の3本柱を打ち立てています。
このうち(1)の保健・医療・介護に注目してみましょう。
まず、新型コロナウイルス感染症と闘う医療・福祉提供体制の確保を目指します(金額は明示せず、事項要求としている)。具体的な項目としては、▼新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金による体制整備の推進(空床確保などの経費支援等)▼新型コロナウイルス感染症患者受け入れ医療機関等における陰圧化等の施設整備▼医療・福祉サービス提供体制の継続支援▼医療・福祉分野におけるICT・ロボット等導入支援▼福祉医療機構による医療・福祉事業者への資金繰り支援▼国立病院機構における医療提供体制の整備▼医療機関等情報支援システム(G-MIS)の機能拡充等▼マスク等医療用物資の備蓄・医療機関等への配布▼医薬品の安定確保のための施設整備や備蓄の支援▼医療人材の確保―などが挙げられています。
ほかに、▼検査体制の充実▼ワクチン・治療薬の開発・確保(外国からの購入も含めて)▼感染拡大防止に向けた研究開発推進―などに関する経費が要求されます。
新型コロナに対応するためにも「医療提供体制の再構築」が必要不可欠
これまでの新型コロナウイルス感染症に係る医療提供体制については、「機能分化、連携が十分に進んでいないために、必ずしも効果的・効率的になされていない面がある」との指摘もなされます。 Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン代表取締役社長の渡辺幸子も参画している「コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会」(座長:小宮山宏・三菱総合研究所理事長/プラチナ構想ネットワーク会長)でもこうした点を重視し、「医療機関の集約化・役割分担・連携を大胆に推進する」ことを提言。また、社会保障審議会・医療部会でも「地域医療構想の実現をはじめとする医療提供体制の再構築を加速化する必要がある」との指摘が相次ぎました。
医療提供体制の再構築においては、地域医療構想の実現はもちろん、「医師偏在対策」「医師をはじめとする医療従事者の働き方改革」を一体的に進めていく必要があります。医師偏在がある中では、医師の働き方改革を進めることはできず(労働時間短縮等のためには一定程度の人数確保が必要)、医療機能の分化・連携の強化も進めることができないためです。厚労省もこうした点を重視し、次のような事項を来年度(2021年度)予算の中で要求する構えです。
▽地域医療構想・医師偏在対策・医療従事者の働き方改革の推進等
▼地域医療介護総合確保基金等による地域医療構想の推進▼医師少数区域等に勤務する井伊への支援、総合診療医の養成支援▼ICT活用やタスク・シフティング推進▼看護師の特定行為研修―などに1064億円を要求
▽災害医療体制の充実
▼病院の「給水設備」「非常用自家発電装置」「非常用通信設備」の整備▼DMAT体制の強化▼災害拠点精神科病院の耐震化―などに34億円超を要求
▽自立支援・重度化防止に向けた取り組みの強化
▼保険者による自立支援・重度化防止に向けた取り組みへのインセンティブ(介護・保険者機能強化推進交付金など)の強化▼科学的介護推進のためのデータベース(介護保険総合データベース、VISIT、CHASE)の機能拡充―などに412億円を要求
▽認知症施策推進対応に基づく施策の推進
▼認知症患者・家族のニーズに応える認知症サポーターの活動(チームオレンジ)の全国展開支援▼日常的・継続的な搬送型支援拠点の整備▼研究推進▼認知症疾患医療センターの整備促進・診断後等支援の強化―などに128億円を要求
▽介護の受け皿整備・介護人材の確保
▼地域医療介護総合確保基金による介護施設等・介護人材の確保▼介護施設等の防災対策推進―などに1101億円を要求
がん対策、オンライン資格確認の実現、外国人患者対応などにも注力
このほか、次のような項目も来年度(2021年度)予算に向けて要求していくことになります。
▽がん対策・全ゲノム解析等の推進
▼がんゲノム情報管理センター(C-CAT、国立がん研究センターに設置)の機能強化▼がん・難病の全ゲノム解析の推進に向けた体制整備―などに94億円超を要求
▽データヘルス集中改革プラン等の実施
▼医療保険におけるオンライン資格確認等の実施と医療機関等の対応支援▼特定検診情報・薬剤情報、保健医療情報(過去の手術歴など)を本人や本人の同意を得た医療機関等が確認できる仕組み(PHR、EHR)の構築▼NDB(National Data Base)や介護DB(介護保険総合データベース)で保有する健康・医療・介護情報を連結して分析可能な環境の整備―などに1039億円超を要求
▽外国人患者の受け入れ環境の整備
▼医療機関における多言語コミュニケーショ対応の支援▼過去に医療費不払い歴のある外国人に対する厳格な入国審査―などに12億円を要求
新型コロナウイルス感染症の影響は現時点では読み切れず、概算要求と年末の予算案とでは相当程度内容が異なることも予想され、今後の動きに要注目です。
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