オンライン等による診療、「馴染む疾患」と「馴染まない疾患」があること、限界があることを踏まえた推進を
2020.6.8.(月)
Gem Medでお伝えしている通り、新型コロナウイルス感染症対策として「電話や情報通信機器を用いた診療」の臨時特例的な拡大が行われています。医療機関の受診による新型コロナウイルス感染リスク(患者、医療従事者の双方にとってリスクがある)を軽減するために、臨時特例的に「初診」から電話や情報通信機器を用いた診療を行うことを認めるものです。
Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの病院ダッシュボードχユーザー病院へのアンケート調査では、ほとんどの病院で「電話や情報通信機器を用いた診療」を実施していることが明らかになっております。
あわせて、オンライン診療」についても一部拡大が行われ、診療報酬上の「オンライン診療料」の算定要件の一部(1か月当たりの再診料等(電話等再診は除く)・オンライン診療料の算定回数に占めるオンライン診療料の割合が1割以下との要件)が臨時特例的に停止「されています。
こうした中で「情報通信機器を用いた診療」(以下、本稿では「オンライン等による診療」と呼ぶ)を、新型コロナウイルス感染症の蔓延時のみならず、平時にも継続拡大すべきかという議論も行われています(政府の国家戦略特区諮問会議など)。その一方で、日本医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構(日医総研)では、5月20日にリサーチエッセイ「オンライン診療についての現状整理」を公表し、現時点では▼オンライン診療に関するエビデンスは積みあがっていない(症例数が限られている)▼患者、医師双方に情報リテラシーの問題がある―などの課題があり、事例を集積し、安全性や有効性の検証を行う必要性を指摘しています。
また、臨時特例措置について議論した、厚生労働省の検討会(オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会)では、多くの構成員から「まったくの初診患者」(過去に一度も当該医療機関を受診したことがなく、他医療機関からの診療情報提供もない)に対する情報通信機器を用いた診療には、極めて慎重であるべきとの指摘が相次いでいます(関連記事はこちら)。
こうした問題をどのように考えるべきでしょうか。Gem Medでは、埼玉県北上尾市でオンライン診療を実際に展開する「埼玉みらいクリニック」の岡本宗史院長に、オンライン診療の実態や課題などについてお話を伺いました。
目次
生活習慣病等はオンライン等による診療に馴染むが、頭痛や腹痛、呼吸器疾患などは馴染まない
岡本院長は、まず次のようにオンライン等による診療が馴染む疾患と馴染まない疾患があると指摘します。これらを整理したうえで、患者に十分に情報提供することが重要です。
【オンライン等による診療が馴染むと考えられる疾患等の例】
▼生活習慣病の継続治療など(内科では病態が安定している花粉症、高血圧、SASでCPAP使用中の患者など、整形外科では、これまでに対面診療で「継続して鎮痛薬を処方していた患者」への処方継続など―)
▼新規の症状の中でも軽度の咳嗽や湿疹等
【オンライン等による診療が馴染まないと考えられる疾患等の例】
▼喘息等の呼吸器疾患や循環器疾患、腎機能低下などの場合には定期的な検査が必要であり、「オンライン等による診療」と「対面診療」との組み合わせが必要である
▼新規の急性期症状の中でも「腹痛」「胸痛」「頭痛」などは、検査が十分できず、鑑別診断も難しいため向いていない
▼風邪症状についても、レントゲンや呼吸機能検査ができないことから、肺炎や喘息など正確な鑑別はできない
▼「新型コロナウイルス感染症かどうか不安」という相談もあるが、聴診、レントゲン撮影すらできないことから、「接触歴や発熱、呼吸器症状などがあれば保健所等へ相談してほしい」の受診勧奨にとどまる
▼切開等の処置が必要な傷病
また、当然のことですが▼「緊急性の高い疾患」にもオンライン診療は馴染まない▼高齢者では耳が遠くなっておられることもあり、対面診療以上にコミュニケーションを取りにくい―などの点も、十分に認識しておくことが必要です。
さらに、オンライン診療を運用するうえでの課題として、▼被保険者証(保険証)の資格確認など、画像を送付してのやりとりとなり、手間がかかる▼セキュリティの確保に手間と費用がかかる―などがあります。オンライン診療そのものは、汎用のビデオ画像通話システムでも実施可能ですが、こうした課題を考慮したとき、オンライン診療の実施に当たって、IT業者などの開発する「オンライン診療システム」を活用する医療機関が多くなると考えられます。
オンライン等による診療では患者の追跡が可能で、「診療の質」向上に寄与する期待も
一方、オンライン等による診療には大きなメリットもあります。例えば、▼医療機関サイドが患者を追跡できるため、自己中断(患者が自身の判断で治療をやめてしまう)のリスクが下がる(診療の継続率が向上する)▼医療機関・患者双方にとって時間管理がしやすい▼「診察後の症状の変化」について医師側が確認できる(処方内容が適切だったかの経過を追いやすく、医師と患者が同じ目線で治療効果を確認しやすくなる)―などです。
オンライン等による診療では「利便性」が注目されがちですが、それにとどまらず、「患者を追跡しやすく、治療の効果を上げやすくなる」という点は非常に重要です。
例えば生活習慣病については「患者側の都合による治療中断」が少ないと指摘されますが、オンライン等による診療で「医師と患者で効果を確認しあいながら治療を継続する」ケースが増えれば、「重症化防止、さらには医療費の適正化」に結びつく可能性も高く、今後の「症例の積み重ね」などに期待が集まります。
また、岡本院長は「例えば皮膚疾患では、ビデオ通話よりも、事前に患部の写真を電子メール等で患者から送ってもらうほうが、高精細であり、診療が円滑かつ適切に進む」「ビデオ通話では『照明を当てて口内を視診する』ことなどはできない」点なども紹介。診療科や患者の特性などを踏まえたツールの選択が重要となります。
オンライン等による診療、「問診」の重要性を再認識せよ
ところで、現在の新型コロナウイルス感染症蔓延時の臨時特例措置として、「これまでに、まったく診療をしたこともなく、他院からの診療情報提供もない初診患者に対する電話・情報通信機器による診療」が認められています。
この点について、実際にオンライン診療を実施する岡本院長は次のように「リスク等を考慮した対応が必要である」ことを指摘。「完全に初診の患者にオンライン等での診療を行うべきではない」との否定はせず、「疾患の特性」「患者の状態」などを十分に勘案したうえでオンライン等による診療を上手に活用すべきとの考えを示しています。初診に限らず、オンライン診療や電話等再診のいずれの場面でも重要な指摘と言えるでしょう。
▽患者に「不利益となる場合がありうる」ことを周知する必要がある
→完全に初診の患者では、▼聴診▼触診▼打診▼患者のキャラクター―など、得られる情報が限られる。今回の臨時特例措置では「処方日数や処方可能薬剤の制限」などを設け、一定のリスクヘッジはできているのであろうが、患者側に「対面での診察と比べて、診察として不十分な点が出てくるため、不利益となる場合もある」という点を同時に周知する試みが必要である
▽医療機関側は「問診の重要性」を再認識する必要がある
→検査だけでなく、「問診」も重視しなければならない。例えば「咳症状」について、問診で「アレルギー性なのか」「感冒なのか」「職業柄なのか」が判断できる部分が少なくない。「検査に頼りがちな診療」では、重要な点を見落とす可能性がある点に留意が必要である
▽疾患に関する患者リテラシーが重要な要素となる
→例えば「腰痛」を取り上げてみても、慢性腰痛、腎盂腎炎、大動脈解離等の可能性もある
オンライン等による診療でも「事前のコミュニケーション」等が重要、患者教育にも期待
このような中で、オンライン等による診療を実施する際には、どのような点に留意すべきでしょうか。岡本院長は、▼事前にメール等でできる範囲のコミュニケーションをとる(発熱の有無、患部等の写真、お薬手帳・自己申告による服薬情報、家族歴、アレルギー歴、症状の詳細など)▼高齢の患者に対しては、通常よりも丁寧な説明を心掛ける(逆にITに強い患者の場合には、医師側も診療を円滑に進められる)▼「症状が改善しない場合には、必ず直接受診する」よう適切に伝える―ことにとりわけ留意すべきと強調します。コミュニケーションや高齢者に丁寧な説明を行うことなどは対面診療においても非常に重要なことは述べるまでもありません。
一方、患者側もメリット・デメリットを踏まえたうえで、オンライン等による診療を受けることが重要です。この点について、患者側がオンライン等による診療を受ける際の留意点として岡本院長は▼症状・随伴症状の内容(例えば呼吸苦、息切れなど)や、それが続いている時間など▼家族歴、アレルギー歴、感染症の場合には接触歴など―を事前に患者側がまとめておくことで、問診が円滑にすすむとともに、疾患見落としのリスクも減ると指摘します。これらは対面診療においても同様と言えるでしょう。
適切な診療に向けて留意すべき基本的事項は、医療機関・患者の双方にとってオンライン等による診療でも対面による診療でも、それほどの違いはないようです。
もっとも、繰り返しにもなりますが、「オンライン等による診療では致命的な疾患を見逃すリスクがあるなど、限界があること」「オンライン等による診療に馴染む疾患と馴染まない疾患とがあること」などについて患者が十分に認識していることが必要です。オンライン等による診療を推進するためには、医療機関のみならず、行政、保険者、企業等による「患者教育」が重要となってくるでしょう。
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