地域ごとに「感染症対応に転用する病院・病床」「通常医療提供を続ける病院・病床」など明確化せよ―日病・相澤会長
2021.6.17.(木)
感染症などの緊急時にも、「感染症対応医療」と「通常医療」とを適切に行うために、地域ごとに「感染症などの緊急時に対応する病院・病床はどこに何床とするか」「通常医療提供を可能とするために最低限必要となる病院・病床はどこに何床とするか」などを、予め明確にしておくことが重要である―。
医療資源の極端な集約化は、かえって医療提供体制を脆弱にしかねず、まず「医療提供体制のグランドデザイン」を描き、それを踏まえて「集約化すべき部分」「これ以上の集約化は行わない部分」を地域ごとに考え、それを診療報酬で支援してくべきである―。
日本病院会の相澤孝夫会長は6月16日に記者会見を開催し、こうした考えを強調しました。近く閣議決定される「骨太方針2021」への意見表明と言えます(関連記事はこちら)。
目次
感染症などの緊急時に備え、地域ごとに「通常医療からの転用病床」など明確化せよ
経済財政諮問会議では、6月中旬の「骨太方針2021」(経済財政運営と改革の基本方針 2021(仮称))の策定に向けた議論が進められており6月9日には「原案」が明らかにされました。そこでは、我が国の医療提供体制について「医療資源が散在してしまっており、効果的な医療提供がなしえない」という課題のあることを指摘し、▼地域医療構想の推進▼診療報酬の包括化推進—などによって「医療機能の集約化、役割分担・連携の強化などを進める」ことなどを強く提言しています。
これに対して日本病院会幹部で集中的な討議を行い、(1)感染症を機に進める新たな仕組みの構築(2)団塊の世代の後期高齢者入りを見据えた基盤強化・全世代型社会保障改革—に対し、次のような見解で一致したことが相澤会長から報告されました。
まず骨太原案では、(1)において「平時と緊急時で医療提供体制を迅速かつ柔軟に切り替える仕組みの構築」が必要とし、▼症状に応じた感染症患者の受入医療機関の選定▼感染症対応とそれ以外の医療の地域における役割分担の明確化▼医療専門職人材の確保・集約など―を提言しています。
この点について日病では、「緊急時対応の病床を確保しておく」ことは得策でないとし、「地域ごとに、『緊急時に緊急対応に転用する病床』を予め明確にしておく」ことが極めて重要であることを確認しています。
例えば新型コロナウイルス感染症を例にとれば、▼コロナ感染症などに対応可能な「地域」を、まさに「地域ごと」に決定する▼コロナ対応に必要となるベッド数を、拡大ステージ毎、患者の重症度毎などに区分し、「どの病院で、何床転用するか」を明確にしておく▼「コロナ拡大時にも必要となる通常医療」維持のためのベッド数を設定する▼コロナ感染症患者が急増し、「通常医療維持」ベッドでの対応までが必要になった場合に、他地域にどう応援養成をするかを明確にする―などの具体的な提案も行っています。
「地域」については、「急性期対応・回復患者対応・宿泊療養施設対応」など一連の治療が可能な範囲を、まさに地域ごとに設定することが必要です。相澤会長は「例えば東京都の中央部では、多くの大学病院があり『急性期対応』は可能だが、回復した患者を受け入れる病院・病床が圧倒的に不足している」ことを指摘し、「一連の治療を完結できるエリア」を予め検討し、設定していくことの重要性を強調しています。
ところで、医療提供においては、病床や設備といったインフラを整備するだけでは足らず、「人材」の確保が極めて重要です。このため日病では「すべての病院スタッフが、感染症等の緊急時に対応可能な教育(研修会や講習会など)を進め、通常医療とあわせて、感染症医療などへの支援を行えるような体制」を構築することを提言しています。相澤会長は「コロナ禍で、集合研修でなくとも、オンラインで十分な研修が行えることが明らかとなった。オンライン研修を活用すれば、短期間で大人数が研修を受講し、一定の知識等を身に着けることができる」と期待を寄せています。
あわせて緊急時の医療機関経営支援に関しては、▼通常医療の減少(受診抑制や予定手術の延期など)への対応は「補助金」で▼緊急時医療への対応は「診療報酬の引き上げ」で―行うべきと強調(関連記事はこちら)。財務省や経済財政諮問会議民間議員の主張する「診療報酬の概算払いでの対応」には、多くの問題点があるとし、牽制しています。
医療機関の集約化を極端に進めれば、かえって医療提供体制が脆弱化しかねない
さらに、冒頭にも述べた「医療資源の分散を解消するための集約化」については、「単純に集約化を進めればよいというものではない。例えば、ある地域で『A基幹病院でのみ感染症対応を行う』として医療資源・患者を集約したとして、A病院でスタッフが感染しクラスターが発生したという場合には、当該地域の医療は崩壊してしまう」と相澤会長は例示。あまりに極端な「集約化・重点化」は、かえって医療提供体制を脆弱化させてしまう恐れもあることを指摘しています。
医療提供体制については、「医療の質を高めるための集約化」と「アクセス(受診の機会)確保のための分散化」の2軸で考えることが重要で、両者のバランスを考慮しなければなりません。日病では、「まず日本全体、さらに地域ごとに、医療提供体制のグランドデザインを描き、そのうえで『集約化を進める地域・医療機関』、『これ以上の集約化は行わない地域・医療機関』を明確にしていく必要がある」との考えもまとめています。
「病院の機能」明確化をまず図り、そこから機能分化・連携の強化考えよ
さらに(2)にも関連しますが、日病では「病院単位での機能の明確化」が重要ではないかとの考えも示しています。
現在の医療提供体制改革の主軸は「地域医療構想の実現」です。地域医療構想は、地域ごとに▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期等—の必要病床数(2025年度の患者数から推計)を明らかにするもので、これにマッチするように「各病院の保有する高度急性期・急性期・回復期・慢性期のベッド数を、地域ごとの話し合いで調整していく」ことが求められています。
しかし、日病では「『機能別病床数の積み上げ』=『病院の機能』ではない。今の考え方では病院の機能分化が進まないのでないか。まず『各病院が地域で果たしている機能』を明確にすれば、おのずから『準備すべきベッドの機能と数』が決まってくる。現在の改革方針では、現実に求められる医療提供機能と大きく乖離し、地域医療提供体制が混乱しかねない」と指摘しています。
あわせて、経済財政諮問会議の民間議員が主張する「医療機関の集約化を推進するための『1入院当たり包括支払い方式』など」については、「部分最適」にとどまり、「全体最適」には結びつかないのではないか、との見解も示しました。「まず医療提供体制のグランドデザインを描き、それを支援するような診療報酬体系を考えるべき」とも付言しています。
外来機能の明確化、「データの蓄積・公開・分析」を踏まえて検討すべき
一方、外来医療の機能明確化に関しては、▼かかりつけ医について定義・共通認識がなく、まずそこを明確にすべき▼これまでに蓄積し、これから蓄積する外来データ(外来機能報告制度の創設など)を蓄積・公開・分析し、それを踏まえて機能分化方針を考えるべき―との考えを強調しました。
外来機能報告制度は、来年(2022年)4月からスタートするため、データが蓄積されるまでには一定の時間がかかります。それを待たず、拙速に「医療資源を重点的に活用する外来医療」や「医療資源を重点的に活用する外来医療を基幹的に提供する医療機関」を考えることに警鐘を鳴らした格好です(関連記事はこちらとこちら)。
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