感染症対応とる医療機関を広範に支援する【感染対策実施加算】を恒久化すべきか―中医協総会(1)
2021.7.7.(水)
感染症対応をとる医療機関に対し、時限的(今年(2021年)9月まで)に創設されている【感染対策実施加算】(▼医科・歯科の外来や在宅:1回当たり5点▼入院:入院料によらず1日当たり10点▼調剤:1回当たり4点▼訪問看護:1回当たり50円—)を恒久化すべきか、さらに進んで「基本診療料」(初・再診料や入院基本料など)に組み込んでいくべきか―。
また、現在の新型コロナウイルス感染症を踏まえた各種の診療報酬臨時特例(例えば重症コロナ患者を受け入れるICUなどで、入院料を3倍にするなど)について、コロナ感染症が一定程度の収束を見るまで「継続する」ことに異論はないが、これも「恒久化」を検討すべきか―。
7月7日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論が行われました。前者の【感染対策実施加算】については、現在「9月までの時限措置」となっており、恒久化はもちろん、延長するか否かを改めて検討する必要があります。
目次
コロナ対応の診療報酬臨時特例、支払側は「効果検証」を、診療側は「恒久化」を要請
2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が中医協で本格スタートしています。4月には「7・8月に論点整理(秋以降の個別改定項目に関する論点を整理)を行い、9月頃から個別改定論議を行う」とのスケジュール感が厚生労働省保険局医療課の井内努課長から示されており(関連記事はこちら)、入院医療に関しては下部組織「入院医療等の調査・評価に関する分科会」で急性期入院医療の評価指標(看護必要度など)の議論が既に始まっています(関連記事はこちらとこちら)。
7月7日の会合では、井内医療課長から▼コロナ・感染症対応(その1)▼外来(その1)▼入院(その1)▼在宅(その1)▼歯科(その1)▼調剤(その1)▼個別事項(その1)(働き方改革の推進・不妊治療の保険適用・医薬品の適切な使用の推進・歯科用貴金属の随時改定)—といったテーマごとに論点を整理し、9月を目途に「意見の整理」(いわば個別項目論議の方向性)をまとめたいとの考えが示され、了承されています。この7・8月(いわば第1ラウンド)で出された委員の問題意識を踏まえて、9月以降のいわば第2ラウンドでの「具体的な論点」を探っていくイメージです。
これを踏まえ同日には、▼コロナ・感染症対応(その1)▼外来(その1)—に関する、いわばキックオフ議論が行われました。本稿では、コロナ・感染症対応に焦点を合わせ、外来については別稿で報じます。
コロナ・感染症対応に関しては、大きく次の5つの論点があると考えられます。いずれも連環していますが、ここでは別個に見ていきましょう。
(1)新型コロナウイルス感染症に対応するための「診療報酬臨時特例」の取り扱い
(2)感染症対応を行う医療機関等のコストを勘案した【感染対策実施加算】の取り扱い
(3)2020年度診療報酬改定に関する「経過措置」の取り扱い
(4)感染症対応を評価する診療報酬の在り方
(5)第8次医療計画に盛り込まれる「感染症対策」と診療報酬との関係
まず(1)は、コロナ感染症患者やコロナ疑う患者を診療する・受け入れる医療機関のコスト等に鑑みた臨時特例的な増点(例えばコロナ重症患者では手厚い人員配置(1対2看護など)が必要なことなどを踏まえて、ICU等の特定入院料を3倍に増点するなど)や、施設基準の柔軟措置(例えば定数超過入院を認めるなど)を、今後、どう取り扱っていくかという論点です。
このテーマについては、診療側・支払側双方の委員ともに「コロナ感染症が収束するまでは継続する」考えで一致しています。上述のように、例えばコロナ感染症の重症患者では人工呼吸器・体外式心肺補助(ECMO)管理が必要となり、通常をはるかに超える手厚い人員配置(東京医科歯科大病院では1対2看護で対応しており、通常のICU2対1の4倍の配置)が必要となるなど、コロナ感染症を受け入れる病院等では「通常よりも高コスト」になることが確実で、これらへの手当ての必要性は支払側委員も認めています。
ただし、将来の姿については、診療側と支払側とで意見に若干の相違があります。診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「感染症疑い患者に対応した外来での【院内トリアージ実施料】算定や、簡易な報告によるICU等のユニット設置などについては、恒久化を検討する」ことを要望。
一方、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)や安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事)は「しかるべき時期に、臨時特例の効果を検証する必要がある」と注文し、恒久化には慎重な構えです。例えば「実際に、重症患者対応にどの程度の人手が必要であったのか」などを調べ、臨時特例の増点水準が妥当であったのかなどを見ていくべきと幸野委員は提案しています。
医療機関の減収への手当てという側面も持つ【感染対策実施加算】、恒久化すべきか
コロナ感染症が蔓延する中では「すべての患者がコロナウイルスを保有している可能性がある」点に鑑み、医療機関等で十分な感染防止対策をとった診療等を行った場合に【感染対策実施加算】(▼医科・歯科の外来や在宅:1回当たり5点▼入院:入院料によらず1日当たり10点▼調剤:1回当たり4点▼訪問看護:1回当たり50円—)を、さらに小児患者を診療した場合に加算(▼医科:100点▼歯科:55点▼調剤:12点—)を算定できます。この加算について、今後の取り扱いをどう考えるかという論点です。
昨年(2020年)12月に行われた「本年度(2021年度)の予算折衝」の中で田村憲久厚生労働大臣と麻生太郎財務剤人との間で、この加算創設が決定され「半年間(2021年9月まで)の時限的な加算」とされています(小児の加算については、10月以降は点数を2分の1にして継続することとなっている)。ただし、診療側の城守委員や島弘志委員(日本病院会副会長)は、▼恒久化▼基本診療料(初・再診料や入院基本料)への組み入れ―などを検討する必要があると提言しています。
今後も様々な感染症(新興・再興)が流行すると考えられる中で、医療機関等が「これまでにない水準の感染防止対策」に取り組んでいくことが求められていると言え、対策実施に必要となるコストを診療報酬で賄うべきとの考えに基づく提言と言えます。
これに対し、支払側の幸野委員は、▼政治決着で創設された加算であり、中医協で「必要性」や「根拠」などを十分に議論していない▼事実上の「減収補填」であり、診療報酬の本来の考え方とマッチしていない―ことなどを理由に、「恒久化等には明確に反対する」と強く反論しました。
前者の政治決着との批判は、上述したとおり「予算編成に向けた大臣折衝」で大枠(点数設定など)が固められ、中医協は「追認する」形となったことをさしたものです。幸野委員は「中医協の形骸化」を心配しています。
後者は、【感染対策実施加算】には、「診療の対価」という側面に加え、「患者減による医療機関収益の減少」を補填するという側面が強くあることを踏まえた批判です。コロナ感染症により、外来では「感染リスクを下げるための受診減」「衛生面向上による感染症全般の発症減」などが、入院では「コロナ重症患者に限られた医療資源(ベッドや人手)を集約化するための予定入院・予定手術の延期」などが生じ、多くの医療機関で「患者減→収益減」が生じました。(1)のように診療報酬上の臨時特例措置が設けられていますが、これは「コロナ患者やコロナ疑い患者を診療する」場合に収益増となるもので、そもそもの「患者減」による減収までをカバーすることはできていません(関連記事はこちらとこちら)。
このため、感染対策を評価する【感染対策実施加算】を創設することで「事実上の基本料引き上げ」を行い、広く医療機関経営を支援することとなっているのです。幸野委員は「診療報酬は『診療の対価』であるべきで、減収分の補填を行うことは本来の姿ではない」と、この手法に疑問を呈しているのです。
ただし、診療側の城守委員は「医療機関の安定経営を担保し、地域医療を守ることも診療報酬の重要な役割である」と反論しました。確かに、保険医療機関の収益の柱は、公定価格である「診療報酬」です(医療法人等には、安易に収益事業を行うことも認められていない)。このため、ほとんどの保険医療機関では、一般の民間企業のように「この分野のクライアント(医療で言えば患者)が減ったので、単価をアップしよう。別の分野にシフトしていこう」と動くことはできないのです。逆の見方をすれば「医療機関経営が成り立つ水準に診療報酬を設定しなおす」必要がありと言え、城守委員の反論にも大きく頷ける部分があります。
もちろん、恒久化となれば、それはまさに「事実上の基本料の引き上げ」であり、幸野委員の指摘どおり「中医協で十分な議論が行われたか」という点には疑問も残ります。今後、「診療報酬とは何か」にまで遡って、このテーマに関する議論が行われることになるでしょう。なお、【感染対策実施加算】は「9月までの時限措置」であるため、恒久化はもちろん「延長」をする場合には、遅くとも9月までに対応(診療報酬上の対応、予算の確保など)が必要となることから、「第1ラウンドとは別に、何らかの形で検討する」ことになるでしょう。
看護必要度割合などの経過措置、9月で解除すべきか、10月以降も延長すべきか
一方、(3)では、急性期病棟(急性期一般1など)における「重症度、医療・看護必要度」を満たす患者割合の基準値(例えば急性期一般1では、看護必要度Iで31%以上、看護必要度IIで29%以上)などについて「今年9月末まで経過措置(従前の基準を用いて良い)を延長している」点について、どう考えるかという論点です。
この点、診療側の島委員や池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「(経過措置の解除を)慎重に検討すべき」との考えを提示しました。例えば、デルタ株(いわゆるインド型の変異株)拡大などもあり、コロナ感染症の行方を見通すことは極めて困難です(東京オリンピックの開催で大拡大すると見る識者も少なくない)。こうした中での「経過措置解除」は医療機関経営に大きな影響を与えてしまうという心配が、両委員の発言に結びついていると言えるでしょう。
もっとも、さらなる延長は「2020年度改定の一部(看護必要度割合など)が、2022年度改定まで一度も適用されない」ことにもつながります。こうした点も踏まえた議論が今後、中医協で改めて行われることでしょう。なお、「経過措置を活用する医療機関」は、「その理由」も届け出ることとなっており、そうしたデータも活用して「経過措置をさらに延長すべきか」を検討することになります。
また(4)は、現下のコロナ感染症対策を踏まえて、現行の【感染対策防止対策加算】や【感染防止対策地域連携加算】などをどう見直していくか、(5)は医療計画の中に「新興感染症対策」が盛り込まれる(2024年度の第8次医療計画から)ことを踏まえ、診療報酬で対応が必要な部分はどのあたりか、という論点です。
前者については「現在の感染症に対応する評価は入院中心であり、外来での評価も検討すべき」(城守委員)、「広範な医療機関で感染対策を進むよう、3段階(より要件の緩やかな加算区分を設けるなど)への組み換えなども検討すべき」(池端委員)などの提案がなされました。
また後者については、支払側の幸野委員が「第8次医療計画は2024年度からスタートする。2022年度改定で何を対応するのか」と疑問を呈しました。しかし、第8次医療計画については、「2023年度に都道府県で計画を作成する」→「このために2022年度中に基本指針を定めておく」ことが必要となり、2022年度改定で「これらの動きを睨んだ対応」を検討しておくことも合理的と考えられます。
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