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2021年度介護報酬改定、プラス改定すべきでないが、「新型コロナの臨時対応」は否定しない―財政審建議

2020.11.26.(木)

財務省の財政制度等審議会(以下、財政審)が11月25日、来年度(2021年度)予算編成等に関する建議をまとめ、麻生太郎財務大臣に提出しました(財務省のサイトはこちら(本文)こちら(概要)こちら(参考資料))。

来年度(2021年度)に控える介護報酬改定について、「プラス改定をすべき事情は見出せない」としたものの、「新型コロナウイルス感染症に対応するための臨時対応を否定するものではない」との考えを示しています。

また医療分野では、診療報酬改定が控えていないこともあり、全世代型社会保障検討会議で提言されている「紹介状なし患者の特別負担徴収義務拡大」「後期高齢者の窓口負担2割化」の実現などを提言するにとどめています。

2021年度予算では、▼新型コロナ対応▼経済回復▼財政健全化―の3兎を追う

財政審建議は、次年度の予算編成に向けた重要な提言です。高齢化の進行や医療技術の高度などで医療・介護をはじめとする社会保障費が増加を続けています。社会保障費の財源は、保険料や公費、自己負担などで構成されることから、社会保障費増は「国費増」にもつながり、これが歳出(国の支出)の適正化を遅らせ、財政の健全化を妨げていると指摘されます。このため財政審は、国家財政を健全化させる(税収などを確保するとともに、支出を適正化する)ために「社会保障改革」に向けた具体的な提言を行っているのです。

まず今般の建議では、▼新型コロナウイルス感染症の拡大防止▼経済回復▼財政健全化―の3兎を追い、いずれも実現しなければならない「厳しい戦い」となることを強調。

このうち(1)の新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けては、「医療崩壊を防ぐことにより国民の生命・安心を守りつつ社会経済活動を維持していくことが経済の回復を早めるとともに、財政支出の拡大を防ぐことになる」点を確認したうえで、「単なる給付金や一律のつなぎ的措置」から、「ウィズコロナ・ポストコロナを見据えた経済の構造変化への対応や生産性の向上に前向きに取り組む主体への支援」へと軸足を移していくべきと指摘。さらに、(2)の経済回復にも関連して、「デジタル化・DX(デジタルトランスフォーメーション)や設備投資を進める」「安全・安心といった新たな価値を付加したサービスに相応の対価を求める」ことなどによる労働生産性を高め、これらを阻まないような「規制・制度改革」「企業慣行等の見直し」が必須であると提言しました。

一方、三兎のうちの(3)「財政健全化」を実現するためには、社会保障制度の「受益(給付)と負担のアンバランス」を解消することが必須(財政悪化の最大の要因がこのアンバランスにある)と改めて強調。2022年度から、人口の大きなボリュームを占める、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になる始めることから、新経済・財政再生計画(骨太方針2018に規定)における基盤強化期間(2019-21年度)に、このアンバランスを正し、その後も取り組みを継続していくことが必要であると強く訴えています。

2021年度予算案編成に向けた財政審建議1

紹介状なし外来患者の特別負担徴収義務を拡大し、後期高齢者の窓口負担は2割とせよ

建議では、こうした基本的視点に立って「社会保障改革」に向けた具体的な提言を行っています。

まず医療に関する提言を眺めると、次のような項目が目を引きます。

▽後期高齢者(75歳以上)の患者負担割合について、可能な限り広範囲に「2割負担」を導入するとともに、遅くとも団塊の世代が後期高齢者になりはじめる2022年度初までに改革を実施できるように施行時期を定める(関連記事はこちら

2021年度予算案編成に向けた財政審建議2



▽大病院への患者集中を防ぎ、かかりつけ医機能の強化を図るための定額負担(紹介状なし患者の特別負担)について、「対象病院の拡大」「定額負担の増額」を図るとともに、「明確な形で医療保険財政へ寄与する」ような制度的対応を講じる(関連記事はこちらこちらこちら

▽▼財政影響を勘案して新薬の保険適用の可否を判断する▼新薬の保険適用は「既収載薬の保険給付範囲の見直し」と財政中立で行う—ことを含めた「医薬品に対する予算統制の在り方」の抜本的な見直し

▽薬価算定プロセスの透明性を向上させ、薬価算定の根拠の明確化を図るとともに、原価開示が不十分なままに高い営業利益率が上乗せされている原価計算方式をはじめとする薬価算定方式の見直しに不断に取り組む

▽既存医薬品の保険給付範囲の見直し(保険外併用療養費の活用や、一定額を超えた薬剤費を保険給付から除外するなど)を幅広く検討する

▽毎年薬価改定の初年度となる2021年度に、国民負担軽減や国民皆保険持続性確保の観点から「初年度にふさわしい改定」を実現する(全品目を改定の対象とし、乖離率だけでなく「乖離額」にも着目した改定(高額薬では乖離額が大きくとも乖離率が小さくなりがちである)を行う)

▽後発医薬品のさらなる使用促進に向けて「新たな目標値」を設定する(現在の目標値は2020年9月に8割以上)。その際、▼バイオシミラー(バイオ医薬品の後続品)使用促進のための数量目標設定▼医療機関別の後発品使用割合公表▼国によるフォーミュラリ(「医学的妥当性や経済性などを踏まえた医薬品使用方針」のことで、「●●疾患には第1選択としてA医薬品(特定の銘柄や成分)を使用する」といったリストのイメージ)ガイドライン策定に取り組み、その中での後発品選定基準の設定▼薬局の【後発医薬品調剤体制加算】の厳格化―などを行う

▽都道府県を「住民が享受する医療給付」と「住民の負担」との結節点とすることを目指す、国民健康保険の財政責任主体の都道府県化について、改革の趣旨を徹底する。75歳以上の後期高齢者が加入する「後期高齢者医療制度」についても、財政責任主体を都道府県に移す

▽新型コロナウイルス感染症対策に万全を期しながらも、人口減少・高齢化という構造的課題は待ってくれないため、「地域医療構想」を「医師の働き方改革」「医師偏在対策」と合わせて着実に進める(地域医療構想調整会議の更なる活性化を含めて、取り組みを加速化させる)

▽都道府県医療費適正化計画を実効あるものとし(目標の明確化、施策の優先順位見直しなど)、都道府県や保険者協議会の「医療費を巡るPDCAサイクルへの関与」を強化する

▽予防・健康づくりについては、医療費適正化に関するエビデンスは乏しく、むしろ「医療費が増加する」との指摘・研究も多いことを踏まえ、他の施策との優先順位づけを見直す(予防・健康づくりが優先され、医療費適正化計画が劣後することがあってはならない)

2021年度予算案編成に向けた財政審建議3



▽高齢者医療確保法第14条に基づく「都道府県別に診療報酬」について、建設的な議論を進展させる

▽デジタル化・DXの推進により「適正受診・医療費適正化」を推進させる。例えば、患者の保健医療情報を医療機関・薬局等で確認できる仕組み(EHR)を着実に構築し、医療機関が、患者の過去の診療・処方箋情報等を参照可能な場合に行った「重複投薬・重複検査」には診療報酬上のディスインセンティブを設けることなどを検討する

▽新型コロナウイルス感染症に伴う「受診控え」は収束傾向にあることを踏まえ、「さらなる医療機関経営の下支え」については、「補助金」から「診療報酬による対応」に軸足を移す。その際、医療法人の経営状況の「見える化」を推進する

2021年度予算案編成に向けた財政審建議4

2021年度予算案編成に向けた財政審建議5



すでに検討されてきている事項、全世代型社会保障検討会議で提言されている事項が多く、本格的な切込みは「診療報酬改定が行われる再来年度(2022年度)予算に向けた建議」の中で提言される可能性が高いと言えます。そこでは、例えば「急性期一般入院料」の施設基準厳格化などが予想されます。

2021年度介護報酬改定、プラス改定は認めないが、新型コロナの臨時対応は否定しない

また、高齢化の進展により大幅に費用が増加している「介護」分野についても、▼報酬単価の抑制等の徹底した合理化・効率化▼保険給付範囲の見直しをはじめとする制度改革―を進めていくべきと強調。とりわけ来年度(2021年度)には介護報酬改定が控えており、次のような具体的な改革提言が行われています。

▽介護報酬改定率について、「プラス改定として国民負担増を行うべき事情は見出せない」が、「新型コロナウイルス感染症が収束するまでの臨時の時限措置としての介護報酬による対応」を否定はしない

2021年度予算案編成に向けた財政審建議6

2021年度予算案編成に向けた財政審建議7



▽介護従事者の処遇改善について、まず既存の【介護職員処遇改善加算】【特定処遇改善加算】の財源活用を図る

▽ICT化などを進め、介護事業所・施設の運営効率化を図るとともに、介護サービスの質確保を両立させる

▽介護報酬の各種加算について、客観的に「介護サービスの質や事業者の経営への効果・影響」を検証したうえで、「真に有効な加算」への重点化を行う

▽例えば「歩行補助杖」などの廉価な福祉用具について、「貸与」から「販売」に変えるなど、福祉用具貸与の在り方を見直す

▽市町村の実施する「地域支援事業」について、原則として「高齢者の伸び率を勘案した事業費の上限の超過は認めない」こととする

2021年度予算案編成に向けた財政審建議8



▽高齢者の自立支援・重度化防止により積極的に取り組む自治体(市町村、都道府県)を経済的に支援する「インセンティブ交付金」(保険者機能推進交付金)について、介護費用の抑制に直接的につながる指標のみを評価する方向に制度を簡素化しつつ、「アウトカム指標」への重点配分を進める



来年度(2021年度)の介護報酬改定に向けた議論が社会保障審議会・介護給付費分科会で進められており、今年末(12月中旬)には「介護報酬改定率」が来年度(2021年度)予算編成過程で決定されます。今般の提言内容も踏まえた検討が行われると考えられます。

不妊治療の保険適用には患者負担減や治療内容標準化などの大きなメリット

また注目される「不妊治療の保険適用」に関しては、利用者の経済的負担軽減や治療内容の標準化、費用の明確化などのメリットがあることを確認する(推進方向も確認)とともに、▼保険外併用療養費制度の柔軟な活用も検討する(一部の高度な不妊治療では薬事承認されていない薬剤使用がなされるケースもあるため)▼「保険適用実現まで、現行の助成制度が存続する」場合でも、助成対象となっている治療行為の「再診料相当部分」などについては、保険外併用療養費制度を先行的に柔軟活用する―ことなどを提言しています。

2021年度予算案編成に向けた財政審建議9

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