科学的介護の推進に向けた「LIFEデータベース」の利活用状況調査に大きな期待―社保審・介護給付費分科会
2021.3.25.(木)
2021年度の介護報酬改定を受けて、2021年度には▼介護医療院の状況▼LIFEデータベースの利活用状況▼文書負担等の状況▼福祉用具貸与価格の適正化―の4点について実態把握(改定影響の調査)を行う―。
3月24日に開催された、社会保障審議会・介護給付費分科会でこういった内容が了承されました。今後、調査票を作成して9月(2021年)頃に調査を実施。来年(2022年)3月頃には、今般の「2021年度介護報酬改定の効果・影響」の一部が明らかになります。
LIFE利活用の促進、科学的介護の推進に大きな期待
ところで、介護報酬改定では「介護現場の課題を解決し、介護の質を向上させる」ことも重要な目的の1つです。このため、ある年度の改定においては「前回改定で、課題解決に向けて行った見直し(改定内容)の効果・影響はどうであったか」を見極め、それをベースに考えていくことになります。
例えば、2021年度の今回介護報酬改定では、「サービスの質等を確保したうえでの人員配置基準緩和」が行われています。改定後に、「サービスの質が低下した」「スタッフの負担が増した」などの問題が生じていれば、2024年度の次期介護報酬改定で、改善に向けた議論が行われます。
また、改定論議には時間・財源の制約などもあるため、「●●まで議論したかったが、今回は○○で抑えておこう」という判断も必要となります。この場合には「次期改定に向けて●●に向けた検討をする必要がある」との宿題が残されます。
こうした議論・宿題解決の素材となるデータを収集するために、「介護報酬改定の影響・効果」を把握するための調査が行われるのです。もっとも、改定の効果・影響がすぐに出る項目と、比較的時間がかかる項目があるため、調査は「改定年度、改定翌年度、改定翌々年度」に分けて行われます。改定年度には「すぐに効果の現れる」項目を、時間のかかる項目については「翌年度、翌々年度」という具合に分担するイメージです。
この点、3月24日の介護給付費分科会では、3月12日の介護報酬改定検証・研究委員会(介護給付費分科会の下部組織)で固められた「次期2024年度介護報酬改定に向けた、2021年度の調査方針」を了承しました。2021年度には、次の4項目について調査が行われます(2022年度・23年度にも調査が行われ、詳細は改めて議論される)。
(1)介護医療院におけるサービス提供実態等
(2)LIFE を活用した取組状況の把握、および訪問系サービス・居宅介護支援事業所における LIFE の活用可能性
(3)文書負担軽減や手続きの効率化による介護現場の業務負担軽減
(4)福祉用具貸与価格の適正化
3月24日の介護給付費分科会では、このうち(2)のLIFEに期待を寄せる意見が数多く出されました。
現在のCHASE(利用者の状態、ケアの内容に関するデータベース)とVISIT(リハビリに関するデータベース)とを2021年度から一体運用することとなり、両者を合わせた名称が「LIFE」となります。
介護分野においても「エビデンスに基づくサービス提供」が重視される時代となりました。どういった状態の人に、どういったサービスを提供すると、どういった効果が生まれるのかというデータを集積・解析することで、「より適切で、効果の高い介護サービス」提供のロジックが組み立てられます。すでにデータベースは構築され、今後、より多くのデータ集積を待つフェイズに入っています。2021年度から、「科学的介護の実現」に向けたより本格的な動きが始まります。
2021年度改定に向けた介護給付費分科会論議では、「データ入力等の負担が大きい」「データ入力等の負担に見合った報酬設定がなされていない」との声が多数でました。これを受け、▼データ入力項目を整理する(必須項目と、それ以外とに区分する)▼利用者・入所者すべてについてデータ入力を行い、フィードバックを受けたサービス改善を行うことを評価する【科学的介護推進体制加算】を新設する(利用者1人につき1か月当たり40-60単位)―などの見直しが行われました。
3月24日の介護給付費分科会では、「LIFE」をはじめとする科学的介護の推進に否定的な意見は出ていません。かえって「科学的介護の推進に向けたLIFEデータベースに期待する」との意見が多数出ています。
例えば江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「科学的介護の推進に向けた評価(介護報酬)では、単なるデータ入力だけでなく、『フィードバックを受け、事業所・施設でPDCAサイクルを回す』ことまで要件化している。サービスの向上が期待できる」と評価。ただし、「介護の質」に関する指標づくりは「道半ば」であり、▼利用者の意思の尊重▼廃用からの脱却▼個別ケア―など、「適切な指標」を走りながら考えていくことの重要性を指摘するとともに、「事業所・施設がサービス向上に役立てられるようなフィードバック方法」についてもさらなる検討を進めるべきと提案しています。
「適切な指標」の検討については、田中志子委員(日本慢性期医療協会常任理事)もその必要性を強調しています。
早くも、調査実施前の現段階で「2024年度の次期介護報酬改定に向けた論点」まで浮上しており、今後の議論にも注目が集まります。
コロナ感染症で「介護医療院へ移行できない」介護療養、報酬上の特例設ける
また、3月24日の介護給付費分科会では、新型コロナウイルス感染症に係る介護報酬上の2つの特例を実施していることが報告されました。
▼新型コロナウイルス感染症から回復した利用者を受け入れた介護保険施設で、特例的に【退所前連携加算】(500単位)を入所から最大30日間算定可能とする
▼介護療養から介護医療院への転換が「新型コロナウイルス感染症の影響で遅れる」場合に、2021年9月末まで「現行の介護療養の基本報酬」(改定前の低くなっていない報酬)を算定できる
後者は、この3月末(2021年3月末)までに▼申請等の手続きの開始予定時期▼2021年10月1日時点また2022年4月1日時点の予定移行先▼2021年3月末までに移行が困難な理由―を提出することで、「新型コロナウイルス感染症の影響で移行手続きが遅れている」介護療養においては、2021年度介護報酬改定前の「基本報酬」(2021年度改定では引き下げが行われたので、結果、従前どおりの「高い報酬」となる)を算定できるとするものです。
介護療養から介護医療院への移行に当たっては、「設備の改修」「許認可手続き」などが必要ですが、新型コロナウイルス感染症の影響で「工事が遅れる」などの事態が生じています。通常であれば、2021年4月からは「引き下げられた介護療養の報酬」を算定しなければなりませんが、「施設の責に帰すことができない」事情ゆえ、上記の特例が設けられたものです。
ただし河本滋史委員(健康保険組合連合会理事)からは「重要な内容であり、措置の必要性などについて審議をすべきではないか。今後は、持ち回りでも良いので、特例報酬については介護給付費分科会で事前の審議を行うべきである」との要望が出ています。
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