医療機能の分化・強化、当初「入院」からスタートし現在は「外来」を論議、将来は「在宅」へも広げる―社保審・医療部会
2021.2.9.(火)
2月8日に社会保障審議会・医療部会が開催され、医療法等改正案(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案)に関する議論を行いました(関連記事はこちらとこちら)。
改正法案はすでに今通常国会に上程済であり、委員からは「成立後の運用」に向けた要望等が多数出されています。
目次
医師働き方改革、「勤務医の健康確保」と「地域医療の確保」とのバランスを
医療法等改正案は、(1)医師の働き方改革(2)各医療関係職種の専門性の活用(3)地域の実情に応じた医療提供体制の確保―の3つの柱で構成されています。
まず(1)は、2024年4月から勤務医へ「新たな時間外労働上限」(原則として年間960時間以下)が適用されることを受け、▼上限の特例(いわゆるB水準(救急医療など地域医療確保のために長時間労働が必要なケース)、C水準(研修医等で短期間に集中的に多くの症例経験等が必要なケース)▼追加的健康確保措置―などの大枠を定めるものです。詳細は、主に「医師の働き方改革の推進に関する検討会」で議論されてきました(関連記事はこちら)。
2月8日の医療部会では、今村聡委員(日本医師会副会長)や加納繁照委員(日本医療法人協会会長)、平井伸治委員(全国知事会社会保障常任委員会委員長、鳥取県知事)らから、「地域医療の確保」と「勤務医の健康確保」とのバランスに関する指摘が出されました。
「医師の働き方改革の推進に関する検討会」における議論の終盤で、新たに上限の特例対象となる「連携B水準」というカテゴリーが設けられました。複数の医療機関で従事する勤務医の中には、「主務医療機関(例えば大学病院)では960時間以内の時間外労働であるが、副務医療機関(派遣先の救急病院など)の時間外労働を加えると960時間を超えてしまう」というケースがあります。こうしたケースを「連携B水準」として960時間超の時間外労働を可能とすることで、派遣のストップを阻止することを目指すものです。地域医療提供体制を確保するためには、この「連携B水準」が極めて重要であることが再確認されました。
改正法成立後の詳細な制度設計の中でも、こうした点を重視することが求められます。
共用試験に合格した医学生、臨床実習での医行為実施を正面から認める
また(2)は、▼診療放射線技師法▼臨床検査技師▼臨床工学技士法▼救急救命士―について、その専門性をより高め「業務範囲」の拡大を可能とするものです。これにより、医師からの業務移管(タスク・シフティング)も可能となり、(1)の「医師の働き方」の実効性を高める、という狙いもあります(関連記事はこちら)。
あわせて、医師法・歯科医師法を改正し、▼国家試験の受験資格要件として「共用試験(OSCE、CBT)」を盛り込む▼共用試験に合格した医学生が「臨床実習として医業を行える」旨を明確化する(いわゆるスチューデントドクター)―という見直しも行われます。
現在でも、医学生は臨床実習として医業を実施可能ですが、より実効性のあるものとすることで、「国家試験合格後の医師臨床研修」等をより実りあるものにできると期待されます(臨床能力の獲得を前倒しするイメージ)。
改正法成立後に「共用試験の充実」に向けた検討も行われ、「より実効性ある臨床実習が行える」ような体制が整えられます。この点について神野正博委員(全日本病院協会副会長)は「共用試験合格後の期間が、医師国家試験の受験勉強期間になり、臨床実習が疎かにならないよう、医師国家試験の在り方についても今後検討していく必要がある」と、楠岡英雄部会長代理(国立病院機構理事長)は「医師臨床研修(いわゆる初期研修)の在り方についても見直していく必要がある」と提案しています。厚生労働省医政局医事課の山本英紀課長も「医学部教育を所管する文部科学省と連携をとっていく」考えを明らかにしており、「コア・カリキュラム」も含めて将来の重要な検討テーマになることでしょう。
医療機能の分化、「入院」から始まり「外来」へ、さらに「在宅」へと続く
また(3)は、新型コロナウイルス感染症への対応で顕在化した「我が国の医療提供体制の課題」(機能分化の遅れなど)を解消するために、▼医療計画の中に「新興感染症対策」を盛り込む▼地域医療構想の実現に向けた医療機関支援を充実する―ことが重要な柱となっています。
この点に関連して遠藤直幸委員(全国町村会、山形県山辺町長)は「新型コロナウイルス感染症へのワクチン接種について、離島や中山間地域では医師確保に大変苦労する。国や都道府県の強力な支援が必要である」旨の要請を行いました。「医師をはじめとする医療従事者の偏在」や「地域医療提供体制の在り方」とも関連する重要テーマです。
また、(3)では「外来医療の機能の明確化・連携」も重要な柱となります。「医療計画の見直し等に関する検討会」で議論されてきたように、病院・有床診療所について「外来医療データ」の提出・報告を求め、各地域で「医療資源を重点的に活用する外来医療」(例えば手術前後の外来や紹介患者への外来など)を基幹的に提供する医療機関を明確化するものです。
こうした医療機関には、直接受診するのではなく、「かかりつけ医等からの紹介」で受診することを原則とし、紹介状なしの受診患者には「保険給付の一部を除外するとともに、特別負担(定額負担)を引き上げる」などの対応が図られます。
入院医療については、「地域医療構想の実現」を通じて機能分化・連携の強化を進める方針が明確となっています。外来についても「一般外来はクリニックや中小病院が担い、大病院は紹介外来や専門外来を担う」という方向は示されているものの、地域によっては十分に機能分化が進んでいないことから、こうした仕組みが導入されます。
この点、相澤孝夫委員(日本病院会会長)は「『かかりつけ医』については明確な定義や共通認識がない」「外来医療の機能分化は、端的に『患者の流れを変えていく』ものだが、そこでは『在宅医療』の在り方を無視することはできない」と強く指摘しました。
厚生労働省医政局総務課の熊木正人課長は、「外来医療の機能分化は、改革の第一歩である。本改正を通して、『かかりつけ医』の定義や、『在宅医療の在り方』に関する議論が深まっていくことに期待している」との考えを明らかにしています。上述のとおり、まず「入院医療」について機能分化論議が進み(地域医療構想)、次いで、現在「外来医療」の機能分化論議が行われています。さらに近い将来、「在宅医療のあるべき姿」が正面から議論されることになりそうです。もっとも在宅医療は、地域によって整備状況も形態も大きく異なり、どういった切り口で議論が進むのか、今後の状況に注目する必要があるでしょう。
「持ち分あり」から「持ち分なし」へ移行促進に向け、認定医療法人を2023年9月まで認める
このほか、いわゆる「持ち分あり医療法人」から「持ち分なし医療法人」への移行促進に向けて「移行計画認定制度の延長」も改正法案に盛り込まれます。
2006年の医療法改正で「医療法人の非営利性確保」が明確化され、▼「持ち分あり」法人の新規設立は認めない▼既存の「持ち分あり」法人の「持ち分なし」法人への移行を進める―こととなりました。また、法人経営が順調な場合には「持ち分」が大きくなります(配当できないため)。すると、理事の死亡などが生じた場合、莫大な相続税や贈与税が発生し、「法人の解散」を余儀なくされるケースもあります。このため「持ち分なし」法人への移行は、地域医療提供体制を確保する狙いもあるのです。
ただし、「持ち分あり」法人の「持ち分なし」法人への移行には、既存の医療法人理事において「持ち分」、つまり財産を放棄することを迫るものであり、厚労省は「一定の要件を満たすと厚生労働大臣が認定した持ち分あり医療法人」(以下、認定医療法人)については、持ち分なし医療法人に移行した場合に相続税などを猶予するという期限付きの特例を設けています。
この期限は2020年9月で切れたため(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)、加納委員は「現在、持ち分なし法人の理事は死ぬに死ねない状況にある」と冗談交じりにコメント(莫大な相続税等が発生するため)。今回の改正では、この特例が「2023年9月30日まで」存続されます。
なお、認定医療法人となれば、持ち分なし医療法人への移行期間中(最大3年間)に、▼出資者の相続に係る相続税を猶予・免除する▼出資者間のみなし贈与税(出資者の一部が持分を放棄し、他の出資者の持分となる場合に贈与税が課される)を猶予・免除する―という税制上の特例優遇措置を受けられます。
認定医療法人となるためには、▼社員総会の議決▼移行計画が有効かつ適正である▼移行計画期間が3年以内▼法人関係者に利益供与しない▼役員報酬が不当に高額にならないように定めている▼社会保険診療報酬収入が全体の8割以上(自由診療が少ない)―などの要件を満たすことが必要です。
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