2023年度厚労省予算概算要求は33兆2644億円、病床機能再編・電子カルテ標準化など促進、コロナ補助は事項要求
2022.9.1.(木)
厚生労働省はこのほど、財務省に対して来年度(2023年度)予算の概算要求を行いました。労働保険などの特別会計を含まない一般会計は33兆2644億円を要求しており、これは今年度(2022年度)当初予算に比べて6340億円・1.9%の増額要求となっています。
また年金・医療など社会保障に係る経費については、このうち31兆2694億円を要求。こちらは今年度(2022年度)当初予算に比べて5376億円・4.7%の増額要求となりました(厚労省のサイトはこちら)。
厚労省と財務省で内容・金額の精査を進め、年末の予算編成過程で最終調整を行い、年内に来年度(2023年度)予算案が確定する運びとなります(今年度(2022年度)予算案編成における大臣折衝に関する記事はこちら)。
コロナ病床確保料や人材確保などの補助金については「事項要求」
厚労省の2023年度予算概算要求では、重点事項として次の3本の柱を打ち立てました。「全世代型社会保障の構築を推進し、未来を切り拓く『新しい資本主義』を実現することにより、国⺠一人ひとりが豊かさを実感できる社会を構築する」ことを目指しています。
(1)コロナ禍からの経済社会活動の回復を⽀える保健・医療・介護の構築
(2)成⻑と分配の好循環に向けた「⼈への投資」(雇用維持など)
(3)安心できる暮らしと包摂社会の実現
本稿では(1)の保健・医療・介護を中心に、主要事項を眺めてみます。
まず長引く「新型コロナウイルス感染症」への対策については、例えば▼次の感染症危機に備えるための体制の確保:97億円(抗インフルエンザウイルス薬の備蓄、検査・疫学調査等の体制の強化など)▼ワクチン・治療薬等の研究開発の推進:43億円—などが要求されています。
ここで「病床確保料や人材確保の補助などはどうなるのか」と気になるが、これらは「年末の予算編成過程に向けて検討していく」(いわゆる事項要求)とされています。コロナ感染症の拡大状況、医療提供体制の整備状況、改正感染症法の制定・施行状況など(関連記事はこちらとこちら)を踏まえ、主に厚労省と財務省で調整していきます。
病院機能の再編・医師働き方改革などを予算面でも支援
また、感染症対策の中では「医療機能の分化、連携の強化」の重要性が強く認識されました(医療機能分化が進まず、医療人材等が散在している点がコロナ重症患者等受け入れに支障を来している)。このため「地域医療構想の実現」などが、今後の医療提供体制において極めて重要となります。この点、次のような項目が要求されています。
▽地域医療介護総合確保基金(医療分)の確保:751億円(地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設・設備整備、病床機能・病床数変更、在宅医療整備、医療従事者の確保、勤務医の労働時間短縮に向けた体制整備を支援、関連記事はこちら)
▽地域医療構想の実現に向けた医療機能分化・連携支援:2億5000万円(地域医療構想を推進するための課題の調査・分析、再編等を検討している医療機関等から、重点的支援区域における病院再編の支援など、関連記事はこちら)
▽地域医療提供体制構築に向けたデータ分析支援:3億6000万円(都道府県における医療提供体制に関する「データ分析チーム」の構築支援、地域医療構想専門アドバイザーのリスト化、派遣など)
また、「医師働き方改革」(2024年度から勤務医の時間外労働を原則960時間以内に制限するなど)に向けて、次のような医療機関支援も行われます。
▽医療従事者の勤務環境改善推進:3100万円(都道府県に設置される「医療勤務環境改善支援センター」のアドバイザーに対する指導・助言、活性化、アウトプットを意識した研修会開催など)
▽医師の働き方改革普及啓発:1億5000万円(国民に対し「医師の働き方改革」を理解してもらうための、インターネット上の動画放映、普及啓発用ポスター作製など)
▽医療従事者の確保・定着に向けた勤務環境改善のための取り組み:9億3000万円(都道府県の医療勤務環境改善支援センターへの労務管の専門家(医療労務管理アドバイザー)の配置、アドバイザーによる個別医療機関支援、「時短計画」の策定支援など)
なお、看護の現場で働く方々の処遇改善の引き続きの実施に向けて100億円が要求されました。新設された【看護職員処遇改善評価料】の財源確保などです(関連記事はこちら)。
医療DX推進に向け「電子カルテ標準化」に向けた下準備などを促進
さらに医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進のために、次のような事項も要求しています。
▽電子カルテ情報の標準化の推進に向けた「保健医療情報拡充システム」の開発:7億7000万円(▼全国の医療機関でレセプトの手術情報を閲覧・共有可能とする仕組み(今年(2022年)9月以降)の構築に向けた「別画面で個別に患者から同意を得る仕組み」(関連記事はこちらとこちら)▼3次救急などにおいて「救急搬送された患者の診療・薬剤情報等を一定条件下で確認する」仕組みの構築(関連記事はこちら)
▽電子カルテ情報の標準化の推進に向けた「高度医療情報普及推進」:9200万円(電子カルテ情報の標準化等に向け、診療時に必要となる医療用語の標準マスター等について充実・共有などを進める、関連記事はこちら)
▽電子カルテ情報の標準化の推進に向けた「保健医療情報利活用推進」関連:5億8000万円(異なる電子カルテの医療機関同士でも医療情報が共有できるよう、必要な電子カルテ情報を速やかに標準化し、その情報を全国の医療機関等で安全に閲覧できる仕組みの構築等を加速し、これら情報を利 活用する環境整備等に取り組む、関連記事はこちら)
▽「電子処方箋」の安全かつ正確な運用に向けた環境整備:14億円(来年(2023年)1月から導入開始される電子処方箋管理サービスについて必要なシステムの改修、検証作業の実施、全国の医療機関・薬局などへの周知広報等を実施し、安全かつ正確な運用に向けた環境整備を行う、関連記事はこちら)
▽科学的介護データ提供用データベース構築等:6億1000万円(LIFE情報を用いた本格的な分析を実施し、高齢者の自立支援や重度化防止等の取り組みを促す「アウトカム評価」等を行い、データ解析結果等を介護事業所に提供を行う、関連記事はこちら)
▽科学的介護に向けた質の向上支援等:9100万円(LIFE活用の好事例を全国へ展開するためのマニュアルを策定、市町村・事業所職員への研修実施、科学的介護に関わる人材育成、研究・普及啓発等を実施するための拠点を整備する、関連記事はこちら)
【関連記事】
【医療法等の柔軟措置など医療提供体制確保関係】
2022年度予算案、コロナ経験踏まえ地域医療構想・医師偏在対策・医師働き方改革を三位一体で推進―厚労省
看護職員や介護職員の処遇改善に向けた「報酬改定」、2022年度診療報酬はネット0.94%のマイナスに―後藤厚労相
2022年度厚労省予算概算要求、2021年度当初予算に比べて8070億円・2.4%増の33兆9450億円