コロナ感染症第3波、大学病院勤務医の1割から2割超が「1860時間超」相当の時間外労働に従事―厚労省
2021.3.30.(火)
新型コロナウイルス感染症の影響で、大学病院の勤務医負担が大きくなっており、第3波が到来した昨年(2020年)12月には、10.5-23.2%の大学病院勤務医が「1860時間超」相当の時間外労働を行っていた―。
医師の働き方改革に向けて「タスク・シフト」や「勤務体制の見直し」が大学病院でも進められているが、病院間でのバラつきが大きい―。
厚生労働省が3月26日に公表した「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた医師の働き方改革が大学病院勤務医師の働き方に与える影響の検証とその対策に資する研究」の結果(速報版)から、こういった状況が浮かび上がってきました(厚労省のサイトはこちら)。
昨年12月、10.5-23.2%の大学病院勤務医が「1860時間超」相当の時間外労働
「医師の働き方改革の推進に関する検討会」では、こうした「医師の働き方改革」の制度化(法令等の規定整備)に向けて▼B・C水準の対象医療機関や指定の枠組み▼追加的健康確保措置の内容と実施確保―などの検討を一昨年(2019年)7月から進めて、昨年(2020年)末に詳細を取りまとめ、現在、医療法等改正案(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案)として国会に上程されています。
ところで、昨年初頭から我が国でも猛威を振るう新型コロナウイルス感染症は「医師の働き方改革」にも大きな影響を及ぼしています。しかし、例えば重症患者・中等症患者を多く受け入れる重点医療機関などでは「勤務医が多忙になっている」一方で、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れない医療機関では、患者減などにより「勤務医の負担が非常に軽くなっている」状況にあります。また、重点医療機関などでも、ICUや呼吸器科などの医師は「多忙を極めている」ものの、予定手術・予定入院の延期などにより「負担軽減となっている」診療科・医師も少なくないことも分かっています。
こうした影響は、今後、「勤務医の働き方改革」を具体的に進めていく上で、非常に重要となります。そこで、今般、慶應義塾大学健康マネジメント研究科の裵英洙特任教授を中心とした研究班が、大学病院勤務医の働き方が、新型コロナウイルス感染症でどう変化したのかを調査したものです。
調査は、国公立および私立大学附属の10病院において、「長時間労働の医師が多いであろう」と考えられる26診療科(1病院につき2-3診療科を抽出)に所属する531名を対象に、新型コロナウイルス感染症の「第3波」が到来した「昨年(2020年)12月」中の1週間について行われています。
まず「労働時間」を見てみましょう。
上述のとおり、2024年度からは勤務医の時間外労働について「年間960時間以下」が原則となります。大学病院での勤務時間だけでなく、兼業先(関連医療機関での夜勤バイトなど)の勤務時間も含まれます。今般の調査では、大学病院・兼業先のいずれでも「待機時間を含める」と、40.1%の医師しか「960時間以下」に収まりませんが、兼業先について「待機時間を除く」と57.3%が「960時間以下に収まる」ことが分かりました。
また、いわゆるB水準(救急病院など)・連携B水準・C水準(研修医など)では、労働時間が必然的に長くなることから、例外的に「960時間超1860時間」の時間外労働が認められます。今般の調査では、▼大学病院・兼業先のいずれでも「待機時間を含める」と36.7%▼兼業先について「待機時間を除く」と32.2%―の勤務医が時間外労働「960時間超1860時間」に該当することが分かりました。
さらに、1860時間を超える時間外労働は、2024年度以降は「一切、許されない」ことになります。今般の調査では、▼大学病院・兼業先のいずれでも「待機時間を含める」と23.2%▼兼業先について「待機時間を除く」と10.5%―の勤務医が、1860時間を超える時間外労働を行っている状況です。
調査対象などが異なるため単純比較はできませんが、裵教授が行った別の調査では、「1860時間を超える時間外労働」の実施状況はゼロ-10%程度であったので、新型コロナウイルス感染症の影響で「労働時間が長くなっている勤務医が相当程度存在する」可能性が伺えます。
また、新型コロナウイルス感染症という特殊事情の下とは言え、これほど多くの勤務医が「過労死ラインの2倍と言える1860時間の時間外労働」を行っていることは重く受け止める必要があります。
新型コロナウイルス感染症はいまだ収束しておらず、今後は、感染力の強い変異株を端緒に「より多くの感染者が発生する第4波が到来する」と予想されています。さらに、新型コロナウイルス感染症収束後にも「別の新興・再興感染症」が生じること、感染症とは別の災害が発生することも強く予想されます。こうした際には、医師に大きな負担がかかるため、今から「負担を可能な限り分散する」仕組み(例えば「予備役」のような仕組み)を検討することが重要でしょう。
タスク・シフトや勤務体制の見直し、大学病院間で取り組み状況にバラつき
また、今般の調査では、各大学病院の各診療科に対しヒアリング調査を行っており、そこから「医師の働き方改革に向けた課題」がいくつか浮上してきています。
例えば、医師の働き方改革を行う上では「勤務体制の見直し」が必要となります(B・C水準医療機関では「連続勤務時間」制限や「勤務間インターバル」確保が必須要件となる)。
この点、▼チーム制、複数主治医制の導入▼各科当直から複数診療科による「グループ当直」の導入▼オンコールの併用―などの取り組みを検討・実施している病院がある一方で、▼シフト調整には「裁量労働制の教員」が当直に加わる必要があるが、調整が難しい▼シフト制導入には「医師数」「専門性」「スキル」「患者の理解」などの問題がある▼緊急手術が 多く、当直日以外に業務整理しなければならず「時間外労働が常態化」している―などの声も出ています。
また、医師の働き方改革実現に向けて「タスク・シフト」(医師から他職種への業務移管)、「タスク・シェア」(多くの医師での業務分担)も重要な要素となります。医師の業務量が変わらなければ、どれだけ勤務体制をいじってみても、労働時間が減ることはないためです。
この点、▼短時間勤務の医師の活用▼医師事務作業補助者の活用▼特定行為研修を修了した看護師(医師・歯科医師の包括的指示の下で31の医行為を実施することが可能)の活用▼助産師の活用―などが進んでいますが、まだ「部分的」な活用にとどまっています。もちろん、医療安全の確保・医療の質の確保が最優先であり、タスク・シフト等は「段階を踏んで、検証しながら進める」ことが重要なため、「タスク・シフトが進んでいない」と判断するのは早計に過ぎます。今後も継続して状況を確認することが重要でしょう。
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