2020年度診療報酬改定の影響見るため、医療機関等の経営状況をどう調査すればよいか—中医協・調査小委
2021.2.4.(木)
2022年度の次期診療報酬改定に向けて、医療経済実態調査(とりわけ医療機関等調査)をどのように実施すべきか、という議論が中央社会保険医療協議会・調査実施小委員会(以下、調査小委)で進められています。
2月3日の会合では、「単月調査」「保険薬局(調剤薬局)に関する調査」に関して議論を深めました。
調査項目を4分の1以下に絞った「単月調査」を検討
2022年度には診療報酬改定が予定しています。診療報酬は、保険医療機関等における収入の柱となるため、診療報酬改定を考えるにあたっては「医療機関等の経営がどのような状況にあるのか。前回(ここでは2020年度)の診療報酬改定が医療機関等の経営にどのような影響を及ぼしているのか」を捉えることが不可欠です。
医療機関等の経営状況を把握するために、医療経済実態調査(医療機関等調査と保険者調査とがあり、ここでは医療機関等調査を医療経済実態調査と呼ぶこととする)が行われます。そこでは、「2019年度」(改定前)と「2020年度」(改定後)の経営状況を調べ、「2020年度改定後に医療機関等の経営は上向いているのか?下降しているのか?」を把握します。
しかし、2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が我が国でも猛威を振るっており、「2020年度の経営状況」について「2020年度診療報酬改定の影響が現れているのか、新型コロナウイルス感染症の影響が現れているのか」を把握することが難しいと思われます。
また、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて、「一般病棟における重症度、医療・看護必要度」の見直しなどについて経過措置が延長(2020年9月までの経過措置が、2021年3月までに延長)されていることから、「2020年度の経営状況」では「重要な診療報酬改定の影響が把握できない」という問題もあります(2021年度以降に改定内容の一部が適用される、関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
そこで「単月調査」を実施してはどうか、という議論が調査小委で進められています。
例えば、▼2021年6月・20年6月・19年6月▼2021年5月・20年5月・19年5月▼2021年4月・20年4月・19年4月―という具合に、2021年(改定の影響が色濃く出ている)・2020年(新型コロナウイルス感染症の影響が色濃く出ている)・2019年(改定前)の比較を行うことで、「2020年度改定の影響」を把握する、という調査です。
もっとも、新型コロナウイルス感染症の影響が大きければ、2021年4月・5月・6月に調査を行ったとしても「2020年度改定の状況」を十分に把握することは難しいため、「新型コロナウイルス感染症が一定定程度収まる」ことが単月調査の前提となります。厚生労働省保険局医療課保険医療企画調査室の山田章平室長は「緊急事態宣言が一部地域で継続されている場合には、単月調査の実施は難しいのではないか」との考えを示しています。
ただし単月調査の実施は、調査に協力する医療機関等の負担が増えることにもつながります。このため、通常の調査から「大きく簡素化する」考えを山田保険医療規格調査室長が明らかにしています。
通常の調査では、例えば「入院診療収益」を▼保険診療収益▼公害等診療収益▼その他の診療収益―に分けて、「診療材料等に係る費用」を▼医薬品費▼診療材料費・医療消耗器具備品費▼うち特定保険医療材料費▼給食用材料費―に分けて、詳細に調査しています(一般病院であれば49項目について調査)。例えば、医療機関の収益が増えていたとして、「保険診療の収入」が増えているのか、「その他の診療収益」が増えているのか、で診療報酬改定の在り方は変わってきます。例えば、全体で医療機関の入院収益が増えていたとしても、保険診療収益が減少している場合には、「医療機関経営は不安定である」と考えられ、診療報酬での手当てをする必要が出てきます。逆に、全体として収益が下がっていたとしても、保険診療収益が大きく増加していれば、「一時的な要因で収益が下がった」と考えられ、診療報酬での手当ての必要性は小さくなってきます。
この点、単月調査では、例えば「入院診療収益」や「診療材料等に係る費用」を一括りに調査し、「ざっくりと医療機関の経営状況を把握する」ことが考えられています(調査項目を一般病院であれば11項目に絞る)。
こうした簡素化方向について中医協委員は了承していますが、「そもそも単月調査を実施すべきか」という点については合意が得られていません。
支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)・幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、上述のように通常調査では2020年度改定の影響・効果を十分に把握できない点を踏まえて「単月調査は是非、実施すべき。緊急事態宣言が一部地域に出ている場合であっても、当該地域を除外するなどして単月調査を実施すべき」と要請。
一方、診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)や池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「結果の解釈方法を含めて、慎重に検討すべき」との姿勢を崩していません。医療経済実態調査は、かつては「単月調査」でしたが、「季節変動や賞与の支給などの詳細を把握できない」との問題があり、現在の「年度調査」に拡大された経緯があります。「単月調査の結果のみを見て、医療機関等の収支を判断されるのは困る」という思いが診療側委員には根強くあると考えられます。
山田保険医療企画調査室長は「今後のスケジュールを睨み、5月には単月調査を実施すべきか否か、内容をどう考えるか」を決定してほしい、との考えを示しており、今後も議論が継続されます。
コロナ感染症患者の受け入れ状況などを踏まえた調査を実施
このほか医療機関に関する調査について、次のように「新型コロナウイルス感染症の影響」を把握できるような工夫がなされます。
▽病院の基本データの項目に、「重点医療機関」「協力医療機関」の指定状況」という項目を追加する
▽病院の基本データの項目に「新型コロナウイルス感染症入院患者の受入状況」という項目を追加する
▽一般診療所の基本データの項目に、「診療・検査医療機関の指定状況」という項目を追加する
▽一般診療所の基本データの項目に「新型コロナウイルス感染症疑い患者の受入状況」という項目を追加する
▽「3月決算」の施設のみを集計した結果についても公表する(決算月によって、新型コロナウイルス感染症の影響が異なる。例えば「5月-4月」を会計年度に設定している医療機関等では、通年調査は「2018年5月-2019年4月」と「2019年5月-2020年4月」とが対象となり、新型コロナウイルス感染症の影響が過少評価されてしまうため)
保険薬局の経営状況を、より詳しく調査
保険薬局(調剤薬局)に関する調査については、次のような見直し方向が概ね固められています。
▽保険調剤の実態をより正確に把握する観点から、「医薬品等費」の内訳として▼(うち)調剤用医薬品費▼(うち)一般用医薬品費―という項目を追加する(収益についてはすでに区分けした調査が行われており、今般、費用についても区分けを行う)
▽特定の保険医療機関との不動産の賃貸借関係の実態を把握する観点から、「賃貸借関係がある場合、賃貸借している不動産の種類(土地・建物か、それ以外か)」を問う項目を追加する
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