医師働き方改革で大学病院医師の「研究時間」減少を懸念、研究サポート人員配置などのために診療報酬対応を!—医学部長病院長会議
2023.4.19.(水)
2024年度からの医師働き方改革に向けて労働時間の短縮が求められるが、大学病院の医師において「研究時間」「教育時間」が減少し、我が国の医学研究水準の低下が強く懸念される—。
全国医学部長病院長会議が4月18日に公表した「大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書」から、こうした状況が明らかになりました(医学部長病院長会議のサイトはこちら)。
医学部長病院長会議は、「医学研究水準の維持・向上のために研究や教育をサポートするスタッフの確保、ICTの推進が急務である」とし、「診療報酬による手当て」などの支援を求めています。
今後の医学研究の主力となる助教クラスの半数が「1週間の研究時間が5時間以下」
Gem Medで繰り返しお伝えしていますが、2024年4月から、【医師の働き方改革】がスタートします。
厚生労働省の調査では「違法となる1860時間超の時間外・休日労働を行う医師が激減している」ことが、全国自治体病院協議会の調査では「2021年1年間に960時間以上の時間外・休日労働を行った自治体病院勤務医は全体の5%、1860時間超は0.1%にとどまる」ことが分かるなど、医師働き方改革に向けた取り組みが各病院で相当程度進んでいることが分かってきています。
そうした中で医学部長病院長会議は「大学病院の医師による研究時間」に着目して調査を実施。大学病院の医師には、「診療」はもちろん、「教育」や「研究」に携わることが強く求められます。「研究」により新たな医療技術の開発・医療水準の向上が、「教育」により次世代の医師等輩出が可能となります。
大学病院本院81病院の教授、准教授、講師、助教、専攻医・後期研修医、臨床研修医981名が回答しており、そこから次のような状況が明らかになりました。
▽大学病院の医師は、教育・研究・診療の中で「診療」に従事する時間割合が最も多く、「研究」の割合は少ない(全体でみると研究割合は13.0%、専攻医・研究医では2.3%、教授で19.3%、准教授で17.8%、講師で15.2%、助教で12.0%など、下図左)
▽今後、我が国の教育、研究の主力を担う「助教」の15%が全く研究を行っておらず、約半数が1週間当たりの研究時間が5時間以下にとどまっている(下図右)
このように「研究」の割合が低くなれば、医療水準の維持・新規医療技術の開発が困難になりかねません。また「教育」の割合が低くなれば、優れた医師等の輩出が難しくなってきそうです。
このため、「医学教育を支援する教員や教務事務職員」の配置、「研究の準備やサポートを行う研究支援スタッフ」の配置が重要になってきますが、半数程度の大学病院では、こうしたスタッフ配置ができていません。
81大学病院のうち90.1%が「研究時間の確保が出来なくなり、研究成果が減少する」と、88.9%が「臨床実習で必要な時間の確保が出来なくなり、臨床教育の質の低下が生じる」と、84.0%が「授業の準備に必要な時間の確保が出来なくなり、教育の質の低下が生じる」と、81.5%が「学生への個別指導時間の確保が出来なくなり教育の質の低下が生じる」と懸念しています。
また、診療面において、医師働き方改革を実現するためには「医師は医師免許保有者でなければ実施不可能な業務に専念し、医師免許保有者でなくとも実施可能な業務は他職種に移管していく」タスク・シフトが非常に重要となります。
しかし、▼入院時のオリエンテーション、医師診察前の確認(患者の病歴・症状などの聴取)業務についてタスク・シフトが実施できている病院は2-3割にとどまる(下図左)▼タスク・シフト先として期待の集まる「特定行為研修を修了した看護師」について、集中治療領域や救急領域、外科系基本領域パッケージ研修修了者を配置できている大学はごく少数にとどまる(下図右)—という状況です。
さらに、医師働き方改革を進めるにあたっては「勤務医の労働時間、業務内容などを正確に把握する」ことが大前提となりますが、▼自院での勤務時間を把握できていない病院が一部にある▼兼業先・副業先を含めた勤務時間を把握できていない病院が4割近くある▼勤務管理システムを稼働させている病院は半数程度にとどまる—と、やや心もとない状況です。
こうした状況を踏まえて医学部長病院長会議は「我が国の研究力低下がすでに深刻視されているが、さらに医師の時間外・休日労働時間の上限規制に伴い研究にさらなる打撃が加わり、『我が国の医学・医療、日本の将来に重大な影響』を及ぼしかねない」とし、次のような「人的支援」「ICT化推進」が必要であると訴えています。
【人的支援】
▽「若手医師の大学病院離れを防止するため、大学病院医師の給与を一般医療機関や国立病院機構と同様程度まで引き上げる」こと、「医学教育を支援する教員・事務職員の増員、研究の準備・サポートを行スタッフの養成、確保、労働条件の改善を行う」ことが急務であり、診療報酬による支援が必要である
【ICT化推進】
▽「臨床研究支援のためのEDCシステム(臨床試験支援)」「研究データを集約するためのサーバーの確保」「老朽化した研究設備の更新」「バーチャルリアリティを活用する実践的な実習機器や研究を効率的に進めるシステム開発」「最新の医療機器確保」が必要であり、そのための支援が不可欠である
なお、今般の調査からは次のような点も明らかになっています。
▽B水準・連携B水準に申請する予定の医師が3割程度であり、2035年度末にB水準・連携B水準が廃止された場合、大学病院の機能維持が困難になる
▽変形労働時間制(労働時間を月単位・年単位で調整する仕組み)を導入する大学病院が増えている
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