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「医師確保計画」作成に当たり、医師個々人のキャリアパスなど丁寧に勘案せよ―医学部長病院長会議

2019.6.4.(火)

 医師偏在の解消に向けて都道府県が「医師確保計画」を作成するが、そこでは単なる人数合わせでなく、医師個々人のキャリアパスなどを十分に勘案しなければならない。都道府県は医師確保計画作成に当たり、当初より大学医学部と緊密に連携する必要がある。また医師の働き方改革に向けて、労働時間短縮等を強力に進めていくが、そこでは「病院の財政基盤強化」が必要であり、国が補助などを検討すべきである―。

 全国医学部長病院長会議が5月31日に総会を開催し、こういった提言をまとめました。

5月31日の総会終了後に記者会見に臨んだ、全国医学部長病院長会議の山下英俊会長(山形大学医学部長)

5月31日の総会終了後に記者会見に臨んだ、全国医学部長病院長会議の山下英俊会長(山形大学医学部長)

向かって左から、▼内木宏延・広報委員会委員長(福井大学医学部長)▼山本修一・大学病院の医療に関する委員会委員長(千葉大学医学部附属病院長)▼嘉山孝正・専門委員長会委員長(山形大学医学参与)▼山下英俊・会長(山形大学医学部長)▼藤原祥裕・副会長(愛知医科大学病院病院長)▼松村明・医学教育委員会委員長(筑波大学教授)▼村上正泰・専門委員長会オブザーバー(山形大学教授)

向かって左から、▼内木宏延・広報委員会委員長(福井大学医学部長)▼山本修一・大学病院の医療に関する委員会委員長(千葉大学医学部附属病院長)▼嘉山孝正・専門委員長会委員長(山形大学医学参与)▼山下英俊・会長(山形大学医学部長)▼藤原祥裕・副会長(愛知医科大学病院病院長)▼松村明・医学教育委員会委員長(筑波大学教授)▼村上正泰・専門委員長会オブザーバー(山形大学教授)

 

千葉県や九州の一部県では、都道府県と大学医学部が連携して医師確保を進めている

 医療提供体制の改革に向けて、審議会・検討会の論議は大方まとまり、これから「実行」に向けた動きが加速化します。▼地域医療構想▼医師偏在の解消▼医師の働き方改革―の3施策を、整合性を持った形で進めることになります。

 そうした中で全国医学部長病院長会議では、とくに▼医師偏在の解消▼医師の働き方改革―の2点に関する提言をまとめました。

 前者「医師偏在の解消」に向けては、人口10万対医師数に「地域の性・年齢別人口」「地域の性・年齢別医師人口」などを加味した新たな「医師偏在指標」に基づいて、都道府県・2次医療圏を、▼医師多数の地域(相対的に医師が多い上位3分の1の地域)▼医師少数の地域(同じく下位3分の1の地域)▼医師多数・少数のいずれでもない地域(同じく中間の地域)―に区分けし、「医師多数の地域から医師少数の地域への医師派遣を進める」「医師多数の地域では、他地域からの医師派遣を認めない」などの方針が打ち出され、これから各都道府県で「医師確保計画」の作成が進められます(関連記事はこちらこちらこちら)。
医師需給分科会(2)の4 190130

医師多数区域では、偏在の助長を防ぐために、「他地域からの医師派遣など」を医師確保計画に盛り込むことはできない(好ましくない)(その1、3次医療圏)

医師多数区域では、偏在の助長を防ぐために、「他地域からの医師派遣など」を医師確保計画に盛り込むことはできない(好ましくない)(その1、3次医療圏)

医師多数区域では、偏在の助長を防ぐために、「他地域からの医師派遣など」を医師確保計画に盛り込むことはできない(好ましくない)(その1、2次医療圏)

医師多数区域では、偏在の助長を防ぐために、「他地域からの医師派遣など」を医師確保計画に盛り込むことはできない(好ましくない)(その1、2次医療圏)

 
 この点について全国医学部長病院長会議は、「単なる人数合わせで進めては日本の医学・医療の発展を阻害する。医師の人材育成やキャリアパスの観点を考慮しなければならない」と強調し、例えば次のよう提言を行っています。

▽医師はそれぞれのキャリアパスの中で様々な経験を積み、自らの能力を高めるために大学や地域の医療機関を循環する。そうした医師育成の観点を踏まえずに、医師多数の地域から少数の地域への配置を行うことは不可能である。それぞれの医師の人材育成・キャリアパスを適切に考慮すべき

▽医師派遣の対象は「地域枠医師」を中心とし、また医師多数の地域では他地域からの医師確保は行わないとしている(一定の柔軟な取り組みが可能)。しかし、特定の集団(例えば地域枠医師)だけで調整しようとすれば、医師の人材育成やキャリアパスに歪みを生じさせかねず、また大学医学部ばかりが困難な派遣調整を迫られることにもなりかねない。「地域全体での医師の適正配置」の視点が不可欠である

▽「医師偏在の解消」と「医療提供体制改革」とは表裏一体であり、現状の医療提供体制を前提に医師確保計画を定めるのではなく、病院の再編・統合も含めた医療提供体制見直しを視野に入れて医師の適正配置を検討すべきである

この提言について嘉山孝正・専門委員長会委員長(山形大学医学部参与)は、「医師少数の地域から多数の地域への医師移動が認められないとなると、例えば『他県に派遣されていた医師が東京の病院に戻れない』などの事態が生じはしないのか。また医学部から病院へ医師を派遣する際には、その医師の能力(派遣先の病院で求められている能力を持っているのか、当該医師が抜けた穴は他の医師でカバーできるのか、など)を見極めて実施する。乱暴の医師の配置を決めれば、チーム医療体制が崩壊してしまう」ことを強調。都道府県が、今後、医師確保計画を作成するにあたっては、当初から大学医学部と緊密な連携をとることが必要と訴えています。

この点について山本修一・大学病院の医療に関する委員会委員長(千葉大学医学部附属病院長)は、「千葉県や九州のいくつかの県では、すでに大学医学部と連携し、医師のキャリアパスなどを考慮した医師確保の検討を始めている。特に医師不足が深刻な小児科や産婦人科について、医師確保をどう進めるかなど、具体的な検討も行っている」ことを紹介。他の都道府県でも、大学医学部と連携を強化していくことが喫緊の課題と言えそうです。

医師の働き方改革実現に向けて、病院の財政基盤強化が不可欠

 また後者の「医師の働き方改革」については、2024年4月から新たな時間外労働上限が勤務医に適用され、▼原則として年間960時間以下とする(いわゆるA水準)▼救急病院など地域医療確保に不可欠な場合には、暫定的・特例的に1860時間以下とする(2035年度の解消を目指す、地域医療確保暫定特例水準、いわゆるB水準)▼研修医や高度技能獲得を目指す医師については、暫定的・特例的に1860時間以下とする(技能獲得に必要な研修時間数などのエビデンスを構築する、集中的技能向上水準、いわゆるC1・C2水準)―ことが決まっています。今後、5年の間に全医療機関において、労務管理を徹底するとともに、タスク・シフティングやマネジメント強化などにより労働時間の短縮を進めることが求められます(関連記事はこちら)。
医師働き方改革検討会1 190328
 
 ただし、B水準の対象はどの医療機関なのか、複数の医療機関で勤務する場合、労働時間は単純に通算するのか、など詳細についてはこれから詰めることになります。

 この点について全国医学部長病院長会議は、次のような提言を採択しました。可能な限り早期に、勤務医の負担をできるだけ軽減することを求める内容です。

▽B水準(地域医療確保暫定特例水準)の対象医療機関は、2024年4月の段階で「最小限」とし(広範に認めることは許されない)、その後、「対象医療機関の縮小」「終了年限(2035年度予定)の前倒し」を図るべき

▽C1水準(集中的技能向上水準、初期研修医・専攻医)について、早期に労働時間に関するエビデンス(何時間程度が技能獲得に望ましいのか)を構築し、それに基づき上限時間を適正化すべき

▽C2水準(集中的技能向上水準、高度技能獲得を目指す医師)について、その必要性を含めた総合的検討を行い、対象となる診療領域・指定医療機関等を決定し、そのうえで適正な時間設定を行うべき

▽労働時間短縮に向け、▼医師の業務効率化(主治医制からチーム診療性へのシフト、特定行為研修修了看護師を含む他職種へのタスク・シフティング、診療アシスタントの活用、ICT技術の導入など)▼医師の継続的就労・臨床現場への復帰支援体制の整備(弾力的な勤務形態の確保、24時間院内保育・病児保育体制整備など)▼病院の財政基盤強化―を図るべき

労働時間短縮方策の1つとして「他職種へのタスク・シフティング」が注目されます。また、「医師でなければ実施できない業務」は現状少なくないため、タスク・シフティングでは足らず「タスク・シェアリング」も重要でしょう。ただし、いずれにせよ「スタッフの増員」が必要となってきます(現時点で時間を持て余す医療職はなかなか見当たらない)。人員増には当然コストが伴うため、「財政基盤の強化」に向けた措置をとるよう全国医学部長病院長会議は強く求めています。

また、C2の対象について、厚生労働省は「専門医では広すぎ、いわゆるスーパードクターでは狭すぎる」と述べるにとどめていますが、山本委員長も「現時点でイメージがない。専門医資格を取得した後、特定の技術獲得を志す医師が対象になると思うが、具体的な議論はまだ進んでいない」と述べ、早急な対象の設定論議を希望しました。

 
 なお、大学病院の勤務医も、この働き方改革の対象となっていますが、山本委員長は「臨床系教員(助教以上)は、▼診療▼教育▼研究―の各分野の業務を並行的に遂行しており、診療中心の一般病院の医師とは働き方や業務内容が異なる」とし、「専門業務型裁量労働制」(対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労. 使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度)を基本とした働き方を可能とするなどし、「研究等へのモチベーション低下が生じないようにする必要がある」と訴えています。

日本専門医機構、「専門医の質担保」よりも「社会的要素」に傾きすぎていないか

 さらに全国医学部長病院長会議では、新専門医制度についても次のような提言をまとめています。

▽新専門医制度に関する日本専門医機構の業務は、「専門医の質の担保」以外の「社会的要素」に傾きすぎている。専攻医採用上限(シーリング)についても、基幹病院から関連病院に循環する要素を考慮しておらず、現場に即していない。例えば「基幹病院から関連病院に所属する人数」の扱いなどを反映させるべきである

▽日本専門医機構の執行部が一部の意見を取り入れすぎている。基本診療領域学会からの意見を十分に取り入れるとともに、全国医学部長病院長会議から副理事長を採用すべきである

▽日本専門医機構の独立性を担保するため、社員以外の団体からの資金導入はなるべく少なくすべきである

 このうちシーリングについては、2020年度採用の専攻医から、厚労省の示した診療科別・都道府県別の必要医師数をベースに、「医師不足地域での勤務を50%以上とする」などの連携プログラムを組み込んだ、新たな仕組みが導入されます(関連記事はこちらこちらこちら)。日本専門医機構の前副理事長も務めた山下英俊会長(山形大学医学部長)は、「新たなシーリングの仕組みでも、提言にある課題は解消されていない。今後、全国医学部長病院長会議の提言も踏まえた仕組みとすべき」と指摘するとともに、「当初は『シーリングの効果』を数年間(少なくとも3年間)検証し、そのうえで必要な見直しを行う方針であった。しかし毎年度、制度をいじってしまっており、本来の趣旨から逸脱してしまっていないか懸念している」ともコメントしています。

 
日本専門医機構に対しては、病院団体からも提言が行われており、今後、これらをどう受け止めるのか注目が集まります(関連記事はこちら)。

 

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