医学部入試、性別による異なる取扱いなどは不適切、規範に違反すれば除名も―医学部長病院長会議
2018.11.19.(月)
大学医学部の入学試験において、「性別による異なる取扱い」は、いかなる場合でも不適切である。また「多浪生に対する異なる取扱い」は、推薦枠など以外の一般入試では不適切となる。内部進学枠や推薦枠などでは、明示することで一定の特別な選抜方法を採ることも可能だが、その場合でも▼公平性▼良き医療人確保―の観点から不適切となることもある―。
全国医学部長病院長会議は11月16日に緊急記者会見を開き、こういった内容を盛り込んだ「大学医学部入学試験制度に関する規範」を発表しました。
これら規範への違反が明らかになった場合、除名を含めた処分の対象となります。来年(2019年)4月の入試に関しては、すでに入試要項が示されており、変更は困難ですが、「性別による異なる取扱い」などが明らかになった場合には、処分の対象となります。
性差による異なる取扱いは、いかなるケースでも「不適切」
一部の大学医学部において、学生の選考にあたり女学生や浪人生を不利に扱っていることが明らかになり、全国医学部長病院長会議では、「極めて遺憾である」と陳謝。さらに「国民に理解される公正・公平な入試制度の実現」を目指し、(1)▼性別▼浪人年数▼内部進学▼地域枠—など「様々な入学枠に関する公平性」の考え方(2)募集要項など「受験生への事前の情報提供」の在り方—などの自律的な検討を行っていました(関連記事はこちらとこちら)。
今般、全国医学部長病院長会議「大学医学部入学試験制度検討小委員会」(以下、小委員会)の嘉山孝正委員長(山形大学医学部参与)から、検討結果である「大学医学部入学試験制度に関する規範」について発表がなされたものです。
まず、「贈収賄が絡む」「特定の人物が『枠』を使って金銭等のなにがしかの権益を得る」ような、法令違反事例は、明らかに「不正」であり認められないことは当然です。
一方、各大学医学部において、「アドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)」が基づく、独自の入学者選抜方法が設けられていますが、規範では、▼国民から見て公平であること(公平性)▼国民にとって良い医療人・医学者になりうる人材を確保すること(医療人確保)—の2点から外れる選抜方法は、「不適切」であると定義。「不適切」事例についてケース分けして、次のように具体的な考えを示しています。
▼「性別により異なる取扱い」をすることは、いかなる場合でも不適切である
▼「浪人年数(年齢)により異なる取扱い」をすることは、一般入学試験(推薦入試枠など以外)において不適切である(逆に言えば、推薦入試枠などで浪人生の扱いなどを特別に決めることは、後述のように、一定の要件を満たせば可能である)
▼「内部進学枠」「同窓生指定枠」などは、人数や選抜法などを入試要項に明記し、それが「公平性」「医療人確保」に則って国民から容認され、公正に行われる場合には認められる。この点、例えば「特定の個人だけの判断」で合否判定をするようなケースは不正・不適切となる
▼「推薦入試枠」「学士編集枠」「帰国子女枠」などは、評価方法や比重などの試験内容を入試要項に明記していれば認められる。この点、例えば、「特定の個人だけの判断」で合否判定をするようなケースは不正・不適切となる
▼「地域枠」については、その枠内での合否判定が「一般枠と同じ制度」で運営されていなければならない。ただし、「性差以外」については、社会に説明できる範囲で、かつ入試要項に明記していれば異なる取扱いをすることが可能
各大学医学部において、独自の「アドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)」が設けられていますが、規範では、▼国民から見て公平であること(公平性)▼国民にとって良い医療人・医学者になりうる人材を確保すること(医療人確保)—の2点から外れる制度は、「不適切」であると定義。入試制度において「不正」「不適切」が明らかになった場合には、当該大学医学部について、全国医学部長病院長会議からの除名を含めた「処分」の対象となります。また、来年(2019年)に実施される入試については、すでに入試要項が示されており、これを変更することは受験生への混乱を招いてしまいますが、不正や「性差による異なる取扱い」などの不適切な事案について処分の対象となります。なお、今春以前の入試について遡及処罰は行われません。
嘉山委員長および全国医学部長病院会議の山下英俊会長(山形大学医学部長)は、「規範は非常に重いものである。また仮に『除名される』となれば、当該大学にとっては極めて不名誉なこととなる」と述べ、今後、当該規範に則った公正な入試制度が行われると見通しています。
また、例えば「同窓生子弟枠」などは、ともすれば金銭授受などの不正が生じる可能性が指摘されますが、嘉山委員長は「特定個人が合否を判断するような事例は、明らかに不正である。規範違反として反対しやすい、また内部告発しやすい環境が整えられ、不正抑止の効果があるのではないか」とも見通しています。
さらに嘉山委員長は、来年(2019年)3月にかけて各大学医学部から発せられる疑義に応える形で、Q&Aを提示する考えも示しました。例えば、「募集人数は100名、うち男性を80名、女性を20名とする」などの取扱いは、要綱に明記したとしても、性差による異なる取扱いであり「不適切」と判断される見通しです。
なお、例えば「同窓生枠」については、「受験生本人にはいかんともしがたい事由で、異なる取扱いをしているのではないか」といった見方もあります。嘉山委員長は「社会・国民の考え方を踏まえ、今後、議論していく余地がある」と述べています(将来的には規範見直しの余地もある)。
【関連記事】
11月にも「大学医学部入試に係る規範」制定、不合理な入試制度には改善求める―医学部長病院長会議
国民に理解される公正・公平な入試制度の実現を目指す―医学部長病院長会議
医学部卒業前の「臨床実習」強化、「医学生の医行為」の法的位置づけ明確に―医学部長病院長会議
医学部教育における「臨床実習」が年々充実、3000時間近い医学部も―医学部長病院長会議
初期臨床研修をゼロベースで見直し、地方大学病院の医師確保を—医学部長病院長会議
論理的に考え、患者に分かりやすく伝える能力を養うため、専門医に論文執筆は不可欠—医学部長病院長会議