病院の将来像はデータが示している、佐久医療センターの経営改善に病院DBが一役
2015.8.26.(水)
長野県佐久市の佐久医療センター(450床)では、GHCが開発した次世代経営支援ツール「病院ダッシュボード」などを活用して病院運営の改善につなげています(関連記事はこちら)。経営改善の道筋を探り、病院の将来像を描く上で最大のカギはデータ分析。同センターでデータ分析を主導する診療情報管理課の須田茂男主任は、病院ダッシュボードを活用して十分なエビデンスを積み上げ、それを示すことで、現場からの信頼を獲得しているといいます。
佐久医療センターは2014年3月、旧佐久総合病院の分割に伴って誕生した地域の基幹病院です。全国的にきわめて異例な病院の分割に踏み切ったのは、医療機能の分化と再構築が狙いです。
分割後は、佐久医療センターでは、入院は高度医療、外来は専門外来に特化しながら、周辺の医療機関との連携を強化。一方、佐久総合病院本院(351床)では一般急性期に加え、回復期、慢性期、在宅医療などの患者を比較的広くカバーし、地域をつなぐ中間施設的機能を果たしています。これに対して佐久医療センターは15年7月に地域医療支援病院に認定され、直近の目標はDPC病院II群に入ることです。
佐久医療センターでは、運営方針を固める際にデータ分析の結果を重視します。医師をはじめ現場スタッフの協力を得るには、エビデンスが何よりも重要だからで、診療情報管理課の須田茂男主任がデータ分析の中心的な役割を担っています。例えば患者数や在院日数などを診断群分類ごとに全国のII群病院や近隣の病院とベンチマークし、それらの結果を各診療科に毎年報告しています。これにより各診療科の優れた点や課題が明らかになり、改善手法を明確にすることができます。
このデータ分析で威力を発揮するのが病院ダッシュボードです。
病院ダッシュボードは、「経営改善のポイントが瞬時に分かる」が開発コンセプトのウェブアプリケーションサービスです。15年8月現在、DPC対象病院の1割超に当たる約200病院が導入しています。最大の特徴は、各種ベンチマーク分析で自院のポジションを他院と比較し、その結果を3色に分けて表示できる点です=図表1=。
例えば、基本パッケージに搭載されている「DPC分析」では、DPCデータから把握できる自病院とほかの病院の状況を瞬時に把握できます。自病院全体の経営指標だけでなく、診療科ごとや「冠動脈ステント留置術」「内視鏡的大腸ポリープ切除術」の症例ごとに、医療資源の投入量や平均在院日数がほかの病院とどれだけ違うかを比較して、結果を色分けして表示できます=図表2=。
図表2の「ロードマップ」の例では、赤く表示された「在院日数分布」と、「右心カテーテル」に改善の余地があるとすぐに把握できます。図表2のケースでは、右心カテーテルのコストが全国水準に比べて高いことが分かり、必要以上にコストを掛けている可能性があります。これをベースに「右心カテーテルのコストを洗い出して削減しよう」などと、具体的なアクションにつなげるきっかけをつくることができるのです。
佐久医療センターでは、病院ダッシュボード導入によって大きな成果も上げています。耳鼻咽喉科での運営改善がその1つ。佐久医療センターでは、14年4-9月に、入院期間II(全DPC対象病院の平均在院日数)を超えずに退院する症例が70%前後で推移しています。II群要件の1つである診療単価を上げるためには平均在院日数の短縮が不可欠で、これは全国的に見てもまずまずの実績です。
ただ、疾患別に詳しく分析すると、「顔面神経障害」などで入院期間IIIに退院がずれ込む症例が全体の9割を占め、改善の余地があることが分かりました。
その原因を探ると、クリティカルパス(診療計画)に課題が浮かび上がりました。同センターが当初運用していた顔面神経障害のパスでは、ステロイド剤の5日間投与が計2クール盛り込まれていましたが、この疾患の診断群分類は入院期間IIが入院9日目までなので、パスを順守すると9日目までの退院がそもそも難しいのです。
14年11月に実施した診療科ヒアリングで須田主任は、こうしたエビデンスを積み上げてパスの見直しを訴えました。これを受けて診療科部長が念のため大学側に確認すると、最近ではステロイド剤の投与を1クールに切り替える病院が実際に増えていることが分かり、見直しを受け入れてもらえたということです。このようにエビデンスを示して説明すると、現場側の理解も早く、円滑に改善につなげられるのです。
同センターでは、これによって包括点数と出来高点数の格差が大幅に解消して、平均在院日数の一層の短縮に道筋を付けることができたといいます。
現在は、当面の目標である「II群」入りに向けて、引き続き診療機能の強化を進めていて、II群の実績要件の1つ「診療密度」も病院ダッシュボードでモニタリングしています。
「病院がこれからの時代を生き残るには、院内外の理解と協力を得ることが不可欠」と須田主任。それには、アピールを裏付けるだけのデータを病院DBの活用などで準備し、改善の道筋を示すかが重要だと考えています。
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